mola!演劇人インタビュー#1 島田佳代
mola!では今後、九州で活躍する演劇人のルーツを紐解くインタビューを、不定期で掲載する。栄えある1回目のインタビューは、演劇集団非常口(伊佐)で作品を手がける作家・演出家の島田佳代。『四畳半の翅音』で第三回九州戯曲賞大賞を受賞したほか、最近では『乗組員』で北海道戯曲賞優秀賞を受賞するなど、作家としての活躍も目覚ましい彼女のルーツにはいったいなにがあるのか。家族構成・影響を受けたもの・演劇観・未来のビジョンについて訊いてみた。
家族について
—まずは自己紹介をお願いします。
「演劇集団非常口」という劇団に所属しています。2001年旗揚げで、鹿児島県伊佐市を拠点に活動している劇団です。そこの代表で、台本を書いて、演出をしています。
—家族構成を教えてください。
父と母と3才下の弟とそのお嫁さんと9才下の弟。
—その家族構成が自分に与えた影響ってありますか?
あるとすれば、長子の長女で育ってきた部分で「ちゃんとしなければ」と力んでしまいがちかもしれません。
好きなもの・影響を与えたものについて
—好きな映画を3本教えてください。
「スタンド・バイ・ミー」(※1)
楽しかった記憶と強く繋がっているからです。小学生の夏休みにテレビで観て影響されて、友達全員Tシャツとジーンズで集まって秘密基地を作ったりしてました。懐かしくて、観るのに勇気がいります。
「ふたり」(※2)
空気そのものが魅力的です。お姉さんの部屋のピエロみたいな人形が甲高い音を立てるのが怖くて面白いんですが、全編にそういう奇妙な空気があって好きです。尾道の風景にも惹かれます。
「花様年華」(※3)
トニー・レオンとマギー・チャンが演じる人物そのものが好きです。2人の表情は言葉を超えていて、見とれます。詩のような映像、衣装と美術も素晴らしいです。
—好きな本を3冊教えてください。
「赤毛のアン」モンゴメリ
自分の読書の原点です。小学生の頃にアンと出会って本を読むのが好きになりました。面白いだけでなく、とても温かい気持ちになります。自分のブログのURLにしているannedianaは、アンとダイアナです。
「余白の愛」小川洋子
小川洋子さんの小説が好きです。この本は耳の病を抱えた主人公と静謐な文章が重なって、読んでいると自分も一切の雑音も消えていく感じがします。速記者Yの指を抱きしめて眠る終盤は、ぼうっとしてきます。
「月の岬」松田正隆
松田正隆(※4)さんの作品の中で一番最初に読んだ本です。日常会話の奥からどうにもならない歪みがだんだん浮き上がってきて、こぼれだします。それはもう止めることができなくて、目が逸らせなくなる。戯曲って面白いなと思うきっかけになった本です。
—好きな演劇作品を3本教えてください。
劇団こふく劇場(※5)『水をめぐる2』
『水をめぐる』三部作は幽玄という言葉がぴったりくる作品だと思います。特に2は内容もせりふも女性的で痛みを感じるものでもあり、心に残っています。
飛ぶ劇場(※6)『睡稿、銀河鉄道の夜』
『あーさんと動物の話』も大好きで、迷ったんですがこっちにしました。見事に旅に巻き込まれて、感情を大きく揺さぶられます。無性に観たくなる時がよくあります。
劇団きらら(※7)『ぼくの、おばさん』
せりふがぐいぐい刺さってきます。町を彷徨うように人生を彷徨う中で、それでも生きることへの確かな肯定と愛が感じられる作品だと思いました。
—自分の人生に影響を与えたと思うひとを教えてください。
こふく劇場の永山智行さんです。10年ほど前に初めて公演を観にきてくださって、穏やかに力強い言葉をかけてくださいました。演劇に向きあうとき、今まで永山さんからいただいた言葉たちをよく反芻します。自分の人生と演劇が繋がっていく大きな出会いだったと思います。
演劇観
—作品をつくるにあたって、島田さんにとって大事なアイテムを教えてください。
ノート。思いついたせりふの断片とか、気になる話題とか、作品づくりに役立ちそうなものを書いています。メモした紙は失くさないように貼りつけます。演出にも同じノートを使います。問題点を書いていきます。
—作品をつくるときに大事にしていることってなんですか?
普段からできるだけいろいろ感じようと思っていて、感じたことはノートに書いておくんですが、そういう自分の体験からくる確実な感覚を作品に取り込むのを大事にしている気がします。演出では人物の多面性と沈黙のあり方に気をつけています。
ビジョン
—3年後、どうなっていたいですか?
自分を含めた劇団員全員が健康で、それぞれ哀しい事情につかまることもなく、演劇を続けていられたらいいなと思います。個人的には、もっと劇作の力をつけて、いろんなところで作品を上演してもらえるような劇作家になっていたいです。
—では最後に、公演などの宣伝があればどうぞ。
昨年上演された『パンチネロ~たいせつなきみ~』がこの夏も上演されます。わたし自身、パンチネロの姿に元気と勇気をもらいました。ぜひたくさんの方に観ていただきたいです。秋には鹿児島県で国民文化祭かごしま2015が開催されます。伊佐市の「いさ演劇祭」、鹿児島市の「現代劇の祭典」、どちらも注目していただけたら嬉しいです。
(※1)「スタンド・バイ・ミー」:(1986年アメリカ)4人の少年が線路づたいに「死体探し」の旅に出るひと夏の物語を描いた青春映画の名作。
(※2)「ふたり」:(1991年日本)赤川次郎の同名小説を大林宣彦が映画化。「新・尾道三部作」の1作目。交通事故で亡くなった姉の声が、幽霊として妹の前に現れる。姉に見守られながら成長していく妹を描いた青春映画。
(※3)「花様年華」:(2000年香港)既婚者男女の切ない恋を描いたウォン・カーウァイ監督の恋愛映画。
(※4)松田正隆:劇作家・演出家。京都を拠点に活動するカンパニー「マレビトの会」の主宰。『月の岬』で第5回読売演劇大賞最優秀作品賞を受賞した。
(※5)劇団こふく劇場:宮崎を拠点とするカンパニー。代表の永山智行は宮崎県立芸術劇場演劇ディレクターでもあり、「演劇・時空の旅」シリーズなどの自主製作事業も手がけている。
(※6)飛ぶ劇場:北九州を拠点とするカンパニー。『睡稿、銀河鉄道の夜』は2009年の初演以降、2010年、2012年に再演が行われている。
(※7)劇団きらら:熊本を拠点とするカンパニー。最近作『ぼくの、おばさん』で、熊本・福岡公演のほか、7年ぶりに東京でも公演を行った。
福岡市文化芸術振興財団プロデュース公演
こどもとおとな 演劇のトビラ 『パンチネロ ~たいせつなきみ~』
原作:マックス・ルケード『たいせつなきみ』シリーズ
脚本:島田佳代(演劇集団非常口)
演出:広瀬健太郎(劇団風三等星)
出演:八尋桂子、小坂愛(劇団 go to)、迫雅貴(WET BLANKET)、中村卓二(P.T.STAGE DOOR)、坂井操(劇団HallBrothers)、福田みゆき(HOME)、大渕雄一朗、井上雄介、橋本晏奈(九州ビジュアルアーツ)
日時・会場:2015年8月23日(日)14:00 城南市民センター(福岡市城南区片江5-3-25)
29日(土)14:00 中央市民センター(福岡市中央区赤坂2-5-8)
料金:大人1,500円、子ども(小学生~高校生)500円
親子券①(大人1枚+子ども1枚)1,800円、親子券②(大人1枚+子ども2枚)2,200円
お問い合わせ:092-263-6266(公財)福岡市文化芸術振興財団
【関連サイト】
こどもとおとな 演劇のトビラ 『パンチネロ ~たいせつなきみ~』公演詳細ページ
国民文化祭かごしま2015
いさ演劇祭(伊佐)
日程:2015年11月7日(土)〜8日(日)・14日(土)〜15日(日)
会場:伊佐市文化会館(伊佐市大口鳥巣305番地)
現代劇の祭典(鹿児島)
日程:2015年10月31日(土)~11月1日(日)
会場:谷山サザンホール(鹿児島市谷山中央1丁目4360番地)
【関連サイト】
第30回 国民文化祭・かごしま2015 伊佐市主催事業「いさ演劇祭」公式サイト
現代劇の祭典