岡崎藝術座 神里雄大インタビュー
岡崎藝術座(神奈川)が12月3日(木)~4日(金)、熊本市中央区万町の早川倉庫で新作『イスラ!イスラ!イスラ!』(作・演出:神里雄大)を上演する。フェスティバル/トーキョー(※1)の参加常連団体でもある岡崎藝術座。主宰の神里雄大は演出家・脚本家としての評価も高く、第7回利賀演出家コンクール(※2)にて最優秀賞演出家賞を受賞。「演劇界の芥川賞」とも言われる岸田國士戯曲賞でも、第54回・第58回の最終候補作品にノミネートされている。北は札幌、南は鹿児島と首都圏以外での公演も数多く行っており、近年は特に九州での公演を積極的に行っている。そんな岡崎藝術座の神里雄大の横顔に迫った。
ー「ペルー、リマ市(※3)生まれ、川崎育ち」とのことですが、ペルーには何歳くらいまで暮らしていましたか?
リマには生後半年程度しか住んでいなかったので、残念ながら記憶はほぼありません。日系ペルー人である祖父母の家で生活していたと聞いています。
ーでは、ペルーという国への想いを聞かせてください。
昨年ひさしぶりに訪ねましたが、リマの街は非常に雑多で、人種も多様、公共バスが交通ルールを真っ先に否定しているような、非常にテンションの高い、エネルギッシュな場所です。日系人も多く、100年以上の歴史を持っており、社会に対する影響力も強いです。そのなかでも、特に沖縄系移民が多数を占めており(神里も沖縄の姓です)、日本語をしゃべる人は限られているものの、いまでもその文化を大事にしている印象を受けます。
ー演劇活動に関わることになった経緯を教えていただけますか?
大学入学後、サークル選びに辟易していたときに、たまたま観た演劇サークルの上演が、初めての観劇経験でした。自分と同じ人間が、自分にはないような迫力のある肉体で妙な動きをしているのに衝撃を受けて、自分もやってみたいと思って始めました。最初は俳優もやっていましたが、どんどん自分が俳優に期待するようなことを、自分ができないと自覚していったので、俳優は諦めました。
ー岡崎藝術座は地方・地域での公演を積極的に行っている印象がありますが、意識的に他地域公演を行っているのでしょうか?
たまたま神奈川で育ったというのがあっただけで、自分で選択して首都圏に住んでいるわけではない、と数年前に自覚してからは、中央、地方という言葉に疑問を持つようになりました。そう思ったとき、東京を中心として創作やその発表を考えることに窮屈さを感じるようになった、というのが、わたしがさまざまな地域で上演したいとする理由です。いろんなところのいろんな考え方の人たちと出会えるのが刺激的なので、今後もっと上演箇所を増やしたいです。
ー前作『+51 アビアシオン, サンボルハ』を拝見したときに、その土地、その時代、その人、その風景を描く、ロードムービーのような感じがしましたが、作風としては今回の新作も含め、そのような感じでしょうか?
作風というのを考えたことがないので答えづらいですが、ロードムービーみたいなのかと言われれば違うと思います。最近わたしが考えているのは、自分は演劇をしているのではなくて、政治をやっているんだということです。この場合の政治は、国会や地方自治体の議会にいるような人たちのやる「政治」ではなくて、自分以外の他者の生活や価値観を、自分以外の他者から聞いて想像する、という意味において、それを政治と呼ぼうと思ったということです。
ー前回に続き、本作も熊本を公演地として選ばれた理由を教えてください。
九州の、特に熊本でよくやっているのは、初めはたまたま縁があっただけなのですが、観客の皆さんとのリラックスしつつも緊張感もあるという関係性を感じて、それがとてもいいので毎年のように上演しています。今回は、新作の初演を熊本でできることになり、非常にうれしいですし、意味のあることだと思います。個人的にも九州は毎年のように、どこかの県に遊びに行っています。
ー新作『イスラ!イスラ!イスラ!』(※4)はどのような作品でしょうか?
今作では、高知と小笠原諸島に取材に行きました。それから作品とは直接関係ないものの、今夏には、中米のグアテマラとメキシコにも行きました。旅をすることはわたしにとって、栄養を摂取するような行為なのですが、自分が普段いない土地に行くと、外部者として、どのようにそこに住む人たちと綿密なコミュニケーションをとることができるのだろうか、といつも考えてきました。わたしはいつも、自分の考えることや発する言葉がもっと自由に、いろんなボーダーを飛び越えて行ってほしいと思っています。自分たちの文化にない文化や人々と出会ったとき、否定や攻撃でなく、もっと別の方法で互いの考え方を発展的に建築していけないか、ということを架空の島を舞台に描く作品です。
ー最後に、九州の方々にメッセージをお願いします!
大陸に近いところに住んでいるみなさんがうらやましいです!
本作は熊本のほかに、京都、東京、横浜の4都市で上演される。ボーダーを飛び越え続ける岡崎藝術座のこれからの活動に期待したい。
構成・執筆:北村功治(kitaya505)
(※1)フェスティバル/トーキョー
東京都で開催される演劇祭。前進は『東京国際演劇祭’88池袋』、東京国際舞台芸術フェスティバル、東京国際芸術祭と、複数回の名称変更を経て、2009年より現在の形態となっている。「脱舞台」などのテーマを掲げ、先進的、先鋭的な国内外の作品を発表している。
(※2)利賀演出家コンクール
2000年に始まった日本最初の演出家対象のコンクール。08年から現在の「利賀演劇人コンクール」という名称になる。これまでに、ペーター・ゲスナー(うずめ劇場)、中島諒人(鳥の劇場)、神里雄大(岡崎藝術座)、仲田恭子(空間アート協会ひかり)などが受賞している。
(※3)ペルー、リマ市
ペルーは南アメリカ西部にある共和制国家。リマはペルーの首都。人口は、ペルー約2900万人、リマ約800万人。
(※4)『イスラ!イスラ!イスラ!』
「イスラ」は「島」という意味のスペイン語。本作は、架空の島々が舞台となっている。
岡崎藝術座『イスラ!イスラ!イスラ!』
作・演出:神里雄大
日時:2015年12月3日(木)19:30
4日(金)19:30
会場:早川倉庫(熊本市中央区万町2-4)
料金:一般2,000円(当日2,500円)
学生1,800円(当日2,300円)
ペアチケット3,500円(前売のみ)
【関連サイト】
岡崎藝術座『イスラ!イスラ!イスラ!』特設サイト
岡崎藝術座(Facebookページ)
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