神里雄大(岡崎藝術座)×坂口恭平公演直前対談

2015.12.02

12月3日(木)~4日(金)熊本市中央区万町の早川倉庫にて熊本公演を行う、岡崎藝術座(神奈川)『イスラ!イスラ!イスラ!』(作・演出:神里雄大)。公演を明日に控え、「徘徊タクシー」で第27回三島由紀夫賞候補、震災後には熊本に移住、被災地からの避難者を受け入れ、”新政府”活動を行なう異色の建築家、坂口恭平(建築家、小説家、新政府総理)と岡崎藝術座の神里雄大による対談が実現した。

岡崎藝術座『イスラ!イスラ!イスラ!』

前作『+51アビアシオン, サンボルハ』と新作『イスラ!イスラ!イスラ!』

神里 坂口さんて演劇好きなんですか?
坂口 俺、演劇好きなのかな? 好きなやつがたまたま演劇してるなら見に行く。神里の前回の作品(『+51 アビアシオン, サンボルハ』)はすごいよかったし、あの作品を早川倉庫で見れたことが、何かわからないけど意味がある気がしてたんだよね。今回はなんで熊本を初演にしたの?
神里 坂口さんに初めて熊本呼んでもらってから、早川倉庫ではこれまで3回公演していて、お客さんも熱心に見てくれるし、「また来て」と言ってもらえるよう場所になりつつあると思っていて。早川倉庫は劇場ではないので照明とかは仕込めないんだけど、東京で上演したものを熊本バージョンにして見せるんじゃなくて、できたてほやほやの作品をまずここでやるのがいいんじゃないかって思いもあって、今回は熊本で初演をやることにしました。早川倉庫は、緊張感もありつつ一番リラックスしてやれる場所です。前作は全国で30ステージ以上上演したけど、自分のなかで、熊本公演の初日はそのなかでも印象的な上演だった。何か知らないけど役者ものってた。

岡崎藝術座『+51 アビアシオン, サンボルハ』@早川倉庫 岡崎藝術座『+51 アビアシオン, サンボルハ』@早川倉庫
岡崎藝術座『+51 アビアシオン,  サンボルハ』@早川倉庫

坂口  そういえば、YouTubeに宮台真司(※1)と俺の対談映像を見まくって丸暗記したやつがいるから、それで演劇やりたいなと思い始めた。演目『坂口恭平』って言って誰かが出てきてしゃべるっていうさ。俺、小学校4年生のときに芥川龍之介の「三つの宝」(※2)を読んで演劇を作りたいと思って戯曲書いたんだよ。最初に書いたのは戯曲だったんだよね。
神里 坂口さんは、戯曲と演技するってことは別物だと考えますか? つまり、演劇って、戯曲を書いた人間と別の人間がしゃべる、そして戯曲を書いた人間じゃない人が見るわけじゃないですか。演じることと演じないことはつながっているのか? みたいなことなんですけど。
坂口 新作ではほとんど自動筆記みたいに自分の心情とは違うことを書いているんだけど、でもフィクションじゃなくて、書きながら自分じゃない自分がしゃべってたんだってことに気づき始めてもいる。最近は、テキストになるより前に暴れてのたうちまわってるやつがいて、そういう人間の動きが転換して舞踊や音楽につながってるかもしれないって思ってる。戯曲ってこうやって書いていくのかなって思ったんだよね。落語とかもそうじゃん。昼飯を食うって日常が繰り返されていって、だんだんそれにテキストが内包されてることに気づいていくっていう。みんな言語化されているところでしか会話してないけど、言語化されてない動きの感覚を持ち合わせている人っていうのが重要だと思う。
神里 今の話、僕が今回書いたのは島の話なんですけど、90分の上演を通してひとりが延々しゃべり続けるという構造がまず似てると思いました。しかも似てるし逆なのは、動かない島が話しているという想定で、島が話者として自分の偉大さをしゃべりまくるんですけど。動けないって前提で書いてたら、まわりが勝手に動くようになった、みたいな内容なんです。動かない前提で書いてるけど動いているものを書いてるかもしれないし、動けないからこそ動けるものに憧れてるみたいな感じがあるなと思いました。
坂口  こないだ韓国で大きな甕を見たのよ。そしたらそれと同じ型の甕が、大阪の河内にあるばあちゃん家に置いてあった。ばあちゃん曰く、隣が甕屋だったんだって。さらにでっかい岩があって、その真ん中にのこぎりの跡みたいなのがついてるんだけど、それは波で削られた跡だって言うんだよ。つまりそこは海だったんだよね。1200年前までは韓国とか中国と、甕を段ボール代わりにしてがんがん交易してた場所だった。みんな海人なんだよ。だから最近は海路をずっと調べてる。俺は身体の動きもそういうものとして捉えたいから、肉体とか器官より、爪の2ミリ先の方が興味がある。爪の先は入り江じゃん。身体は陸でそのまわりは海だと思うとドキドキする。人間は動く島だ、なんてことを妄想してて、そういう小説を書きたいと思ってる。
神里 僕は、わりと身体が動くようなところに行っては、自分の動きと流れがあってきたというか、続いている感じがありますね。戯曲だけどここでいったん書いておくっていう感覚はあるかもしれない。前作と新作は一見まったく違う作品になりましたけど、自分の動きのなかでは前作から続いている。
坂口 結末を設定して書いてないってことが、逆に言うと戯曲から抜け出そうとしてるっていうことだからよかったんじゃない? 戯曲って、動いた人間がテキスト化されたものなんだよね。そこから抜け出ないと次が見えないし、おもしろくないんだけど、前作は、動いてる感じがしたし、テキストがその先に行こうとしていた感じがしたから、あの作品を見た人はわかる・わからないより先に、ドキドキしたと思う。心臓を動かすって、感動させることとは違う。既知のものでは心臓は動かないんだよ。

「島」について

神里 僕、島が好きなんです。人が居る場所がハッキリしてるし、入り口が限られている。僕は川崎に住んでて、いろんなところからアクセスできるから、どこから人が入って来てるのかわからない。人が入って来る場所がわかるっていうのが、何か自分にとってわかりやすくていいなと思った。あと閉鎖的であることも幽玄な感じがする。父方が沖縄出身というのもあって、島に行くことが多いんですが、自分のなかでエリアを区切るのが苦手なので、島みたいにエリアが決まってて人間がいられるところが決まってたり船のルートが見えるほうが、何かを考えたりするのにわかりやすいと思ってやりました。
坂口 九州は9つないのになんで九州なんだ? って思ってたんだけど、中国は新羅(※3)も百済(※4)も9の州にわかれてたんだって。てことは九州も1つの国として9つに分けてたんじゃん? と思った。九州はでかい島だし、博多は表の玄関だけど、ちょっと入り組んだところとか熊本の方から入ってきたやつらもいたらしい。船のことを考えると、燃料も限られてたし、岸をこするように船で移動してたてた人たちにとっては、国っていうより「ここらへんの地域の人」って感覚だよね。国の概念がない。
たとえば俺はやくざのおっちゃんが「ここは俺の島だから」っていう言葉の方が好き。ここは俺の島なんだよって、最高でしょ? 目に見えないけど、でもおっちゃんにとっては島。俺も文化ヤクザとしてそういう島を熊本につくりたい。そのなかで早川倉庫って重要な文化施設があって、何らかの空気さえカルチべートしておけば、意味があってそこに人は集まってくるから、10年たったらおもしろくなる。俺は島に行くという感覚より、そこでユートピアの妄想を蓄えながら、そのために見えない島をつくろうとしてるのかも。そのための情報として島や大陸の周縁の人達の海運とか、海の交易を通じてどう文化が発生してったのかとか、そこでどう人を蹴落としたり、排除したり、受け入れてたのか、言語は何を使ってたかとかに関心がある。神里が考えてることもそういう意味で楽しみにしてる。
神里 なんか、坂口さんは内部の人で、島のなかにいるなって感じがします。僕はビジターの感覚なのかなって思う。ぼくは外から来てどう中に入るかってことを考えるから、内に入りたいって欲望があるのかも。「ここは俺の島だから」って話は、パラグアイにいる日系人が、在外の邦人として初めて議員に立候補して、だめだったんだけど、今度は南米に空中神社をつくるって言ってたおじさんがいて、その人の精神性に似てる気がします。人にはわからないけどロジックがはっきりしてる、みたいな感じ。
坂口 俺は自分の住んでる場所で、見えない都市計画をやってるつもり。早川倉庫で2011年にチェルフィッチュが『三月の5日間』(※5)をやったのは、早川倉庫が全く別のものに使われた瞬間だった。渋谷と六本木の説明を劇中でするんだけど、それが全然東京での公演とちがって聞こえてさ。かといって海外のエキゾチズムとはまた違って、日本人が日本を別の視点から見ている気がして、自分が異人になったような感覚があった。ああいう出来事が早川倉庫で年に1回でもあれば、うまくいくなって考えてた。そういう意味で、前作を見て岡崎藝術座が熊本で上演をやることも、何かおもしろくなりそうだなって思ったんだよね。神里が自分のなかの必然性に向かっている瞬間があったのが良かったんじゃないかな。しかもあのときいたお客さんたちもみんな読み取ってたと思う。神里もたくさんフィールドワークしてるから感じてるだろうけど、やっぱり意味がある場所っていうのがあるって思うんだよな。劇場以外のどこでもいいってわけじゃないけど、有名な劇場でやっていくだけじゃなくて、意味がある場所でやることを問われているよね。その可能性は見えてるのかもね。場所を持つか?
神里 今は行きたいところがたくさんあるし、わからないですね。
坂口 ひょっこりひょうたん島みたいにそうやって旅しててもおもしろそうだけどね。でも、期待してますよ。


思い入れのある土地、熊本で幕を開ける岡崎藝術座の新作『イスラ!イスラ!イスラ!』。演劇以外のフィールドで活躍する人々にとっても興味深い作品になることは間違いない。岡崎藝術座にとって「意味ある場所」である熊本で、その新作はどのように花開くのか? ぜひ見届けてほしい。

出演は、稲継美保、嶋崎朋子、武谷公雄、松村翔子、和田華子。

チケットは一般2,000円(当日2,500円)、学生1,800円(当日2,300円)、ペアチケット3,500円(前売のみ)。プリコグ、岡崎藝術座から予約できる。お問い合わせはinfo@precog-jp.net、03-6825-1223(プリコグ)まで。

※1)宮台真司
宮城県仙台市出身の社会学者。首都大学東京教授。

※2)「三つの宝」
1922年発表の芥川龍之介の戯曲。盗賊に3つの宝を騙し取られた王子の物語。

※3)新羅
紀元356年~935年に古代朝鮮半島南東部にあった国家。7世紀中ごろに朝鮮半島をほぼ統一し、高麗、朝鮮と続くその後の半島国家の祖形となった。

※4)百済
紀元346年~660年ごろ古代朝鮮半島南西部にあった国家。唐によって滅ぼされ、新羅に組み入れられた。

※5)『三月の5日間』
2004年、チェルフィッチュにより上演された岡田利規の戯曲。第49回岸田國士戯曲賞を受賞。岡田自身による小説版が2005年に発表され、「わたしの場所の複数」とともに収録された「私たちに許された特別な時間の終わり」が、第2回大江健三郎賞を受賞した。


岡崎藝術座『イスラ!イスラ!イスラ!』

作・演出 神里雄大
日時:2015年12月3日(木)19:30
        4日(金)19:30
会場:早川倉庫(熊本市中央区万町2-4)
料金:一般2,000円(当日2,500円)
   学生1,800円(当日2,300円)
   ペアチケット3,500円(前売のみ)

【関連サイト】
岡崎藝術座『イスラ!イスラ!イスラ!』特設サイト
岡崎藝術座(Facebookページ)
坂口恭平

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※情報は変わる場合がございます。正式な公演情報は公式サイトでご確認ください。

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