mola!開設1周年トーク!九州演劇のおもしろさとは?

2016.01.19

本日で開設1周年を迎える「mola!」。「九州」という枠組みに特化した演劇ニュースサイトとして運営を続け、この1年で見えてきた九州の演劇の特徴やおもしろさについて、mola!編集長である藤本瑞樹(kitaya505)と、mola!を管理・運営するkitaya505の代表 北村功治、そして、新作公演『いいひと』の上演を目前に控える不思議少年(熊本)の代表 大迫旭洋を交え、mola!のこれまでとこれから、そして、不思議少年のこれまでとこれからを掘り下げながら、九州の演劇のおもしろさや特徴について語った。

トークのテーマは「九州」です

藤本 mola!がこの1月で開設1周年を迎えるんです。それで、ゲストを迎えてトークをしたいなと思って、大迫くんをお呼びしたんですけど。
大迫 はい。
藤本 なんで大迫くんを呼ぼうと思ったかと言うと、
北村 ウチ(kitaya505)が仕事を受けてる劇団だからじゃないの?
藤本 身も蓋もない言い方をするとそうなんですけど。
大迫 ふふふ。
藤本 建前としては、「熊本」とか「九州」っていう地域から発信したいっていう想いがある劇団だから、というのがあるんです!
大迫 はい。
藤本 テーマとして「九州」っていうのがあるんですよ!
大迫 うんうん。
藤本 mola!も「九州の演劇情報を発信する」っていうサイトなんで。なので、僕はmola!の編集長、(北村は)kitaya505の社長、(大迫は)不思議少年の代表、という立場でお話ができたらなと思ってます。
大迫 よろしくお願いします!
藤本 なんか……どういうスタンスでしゃべったらいいかわかんないな。丁寧語でしゃべった方がいいのかな?
大迫 ふふふ。
藤本 あのー、我々「mola!」っていうサイトをやってるんですよ〜〜〜。
北村 そこから?
大迫 (笑)知ってますよ。
北村 不思議少年をこれまでmola!で扱ったことは……
藤本 これまでも何回かあります。
北村 じゃあそういうのは知ってるっていう前提でいいんじゃない?
藤本 いや、その、読者を意識して……。でも読者も演劇関係者がほとんどだから気にしなくていいか!
大迫 はい(笑)。

mola!が「九州」に特化した理由

たまたま目をつぶった藤本瑞樹(kitaya505)

藤本 mola!は、いくつかの理由があって「九州の演劇情報に特化したサイト」としてやってます。
大迫 はい。
藤本 理由のひとつは、3人でやってるので全国を対象にするととても手が足りない、っていうのなんですけど。あとは、社長(北村)が九州の各県にひとりずつくらい情報をくれそうなキーマンみたいなひとと繋がりがあったので、他の地域はそういう情報提供の協力者から探さないといけないけど、九州ならまあ行けるんじゃないかというのが、内部的な理由としてあって。
大迫 はい。
藤本 で、大きな目標としては「mola!でカルチャーをつくる」っていうのをゴールにしたい、という話をkitaya内でしたことがあるんです。「九州」だけで束ねてみたときに、おもしろい、特色のあるものが見えてくるんじゃなかろうかと思って。で、不思議少年も熊本とか九州から発信するということに力を入れてる印象があるんですけど、まずそこから話を聞こうと思います。なんで九州にこだわりたいのか? っていう。

不思議少年が「九州」や「熊本」にこだわる理由

大迫旭洋(不思議少年)

大迫 僕は宮崎出身なんですけど、大学で熊本に行って、そこでたまたま演劇部のひとつ後輩で、長崎の対馬から来た森岡さん(※1)と出会って、不思議少年をつくろうかという話になって。たまたま根付いたのが九州の熊本だったっていうのが最初のきっかけなんです。僕も東京に対するあこがれとかコンプレックスみたいなのを抱いてた時期はあって、実際『東京ジャングル』っていう東京にあこがれる若者の話を書いたこともあるんですけど。でもたまたま根付いたところが熊本で、いろんなひとたちと出会って、それが縁になっていって、なんか……植物みたいに「根付いて」るんだなあと思うようになってきて、
藤本 「九州」に根付いてきた、という感覚?
大迫 そうですね。ふわふわーっと宮崎と長崎から流れてきた種みたいなのが、熊本で「不思議少年」という形で根付いて、そこでいろんなひとたちと出会って、育ててもらった。最初は自分の表現が自己満足に過ぎないんじゃないかと思ってた時期もあって、それで悩んでたこともあるんですけど、たまたま熊本っていう土地と結びついた演劇をつくらせてもらうという経験があって、それは歴史劇だったりとか、早川倉庫(※2)っていう場所の話を書いたりとか、あとは玄海こらぼ劇場(※3)っていうところで、熊本の芸能と結びついてお芝居をつくるっていう機会をいただいたときに、「演劇でここまで喜んでいただけるんだ」って感じて。熊本に住んでるひとたちの笑顔を見たときに、「あ、僕はここで演劇をやっててもいいんだ」って思ったんです。
藤本 「自己満足じゃないんだ」っていう。
大迫 「演劇でできることがあるんだ」っていう。で、これまであまり外に出たことがなかったんですけど、2015年に全国に出てみたら、改めて九州の演劇を、逆に知ることができたというか。外に出てみて「九州ってこんなふうに見えるんだ」とわかって。「九州ってめっちゃ魅力的な土地やん」と改めて思ったんです。役者がいいひとたちが多いし、心がアツいひとが多い。僕も九州の全部を見たわけじゃないからわかんないですけど。「いっしょにやりたいな」と思うひとが九州にめちゃくちゃたくさんいて。
藤本 逆に関東とかはクールな感じがしたんですか?
大迫 や、わかんないですけどね! うー、その、うーんと……。
藤本 「あんまアツくねえな」。
大迫 や! ここ記事にしないでほしい! 言葉が難しい! なんか……特に北九州にいると思うんですけど、自分のプライドとかよりも先に、作品がおもしろいかどうかが重要というか。自分の後輩の作品を観たときに、おもしろかったら素直に「おもしろかったよ」って言ってくれる大先輩とかが、特に北九州には多いなあと感じて。そういうのってカッコいいなって思うんですよね。喜ぶときには喜ぶし、たのしむときにはたのしむし、そういう喜怒哀楽の感情の振り幅が、九州のひとは大きいんじゃないかな。勝手にそう思ってますね。
藤本 「熊本でできることがあると気づいた」っていうのと、全国に行ったときに「九州の魅力に気づいた」っていうので、「熊本・九州から発信しよう」という気持ちになっていったっていうことですか?
大迫 そうですね。

「九州」という土地のサイズ感

たまたま目をつぶった北村功治(kitaya505)

藤本 mola!的には「九州」ってどうですか? ……まだまだ全然網羅できてないんですけど。
北村 演劇やってるひとから見ると、九州はいいサイズ感の土壌ではないかなという気はする。わかりやすく言うと、九州の人間ってものづくりをやってても孤立しなくていいけど、かといってそんなに過密してない環境。九州以外の他県のことってそんなに詳しくはわかんないけど、たぶん九州以外の土地でがんばってるひとたちって、孤立しているカンパニーとか劇団ってあるんじゃないかな。他県との交流とかつながりって、九州ほどではない。となってくると必然的に「ちょっと東京に拠点を移して……」っていう選択肢が出てきて、九州のカンパニーよりもその気持ちが大きくなる。場所を選ばざるを得ないんじゃないかなあ。ちゃんと分析はできてないけど。九州の場合は県またぎで、「九州」のなかでの交流がすごく盛んだけど、九州外の地域で訊いてみると、県をまたいでの交流は九州ほどはないみたい。そういったことがここ10年くらいで自然に起こってるみたいなので、まあ10年継続してたら、ライバルだったり要注目のカンパニーだったりが現れてくる。そういうことが起こるのにちょうどいいサイズ感と、いい環境なのかなあと思う。
2人 うんうん。
北村 ちょっとした放牧状態だけど競争関係ができたりとか。九州ってそういう感じがする。
藤本 そういえばmola!つくって半年くらい経って、九州ってそういう環境だって気づいた、みたいな話をしましたね。
北村 うん。記事を書いてるときに、「あ、この劇団さんとこの劇団さんは客演が多いな」っていうのがわかってきて、ちょっと突っ込んだ話を聞ける関係になったときに訊いてみたら、気軽に「俺ん家に泊まりなよ、そんで作品つくろうぜ」っていうのがお互い様になって、ちょっとしたレジデンスみたいになってるのがわかった。ある県とよその県のトップを走ってるカンパニー同士が、合同で公演しようぜっていうのが、九州では当たり前に年のうちの何回もそこらじゅうで勝手に行われている。で、それとは別に宮崎の「時空の旅」(※4)だったりとか北九州芸術劇場のプロデュース公演(※5)みたいな、公的なお金が投下されて、九州じゅうの演劇人たちが集まっての質の高いプロデュース公演もあり、そこで知り合ったひとたちが「じゃあ今度俺たちのところで何かしようぜ」みたいになってるのが、いい循環になってるんじゃないかな。
藤本 実際そういうところの最前線に関わってるのは、このなかでは大迫くんじゃないかと思うんですが、
大迫 2015年だけでも、1月に福岡で「鎖骨」(※6)っていうコントをやって、2月に『水と油』を北九州でやって、「劇王」と「若手演出家コンクール」で神奈川と東京に行き、4月に熊本でイベント、5月に福岡で『棘』、6月に森岡がジジとピッピ(※7)を北九州でやり、7月が長崎のヒロシ軍(※8)に客演しました。で、8月が大分の日田で『エンドルフィン』、
藤本 ……すごいな。
大迫 すごいっすね。9月が京都で「鎖骨」、10月に宮崎で『南の国から』、11月も熊本でイベントがたくさんあって、12月から北九州で製作。
藤本 忙しい(笑)。
大迫 忙しい(笑)。振り返るとほんとに、県関係ねえなっていう感じで活動してるなー。
北村 これふつうプロじゃないとこれだけ動けないよね。
大迫 今年バカだったな……。
藤本 3月「劇トツ」(※9)もやってる。
大迫 劇トツもありましたね。いまほんとに県外に行くのが当たり前になってて……。
藤本 これは2015年だけがこんなに、っていう感じ?
大迫 ですね。今年はちょっと異常でしたね。でも、ありがたいことだなー。県外に友だちが当たり前のようにいるし、やっぱり若手だと……

葉山太司登場

ここで、『いいひと』に出演する葉山太司(飛ぶ劇場(※10))が近づいてくる。

葉山 お疲れさまです。
大迫 お疲れさまです!
葉山 はい。(それぞれに海苔を配る。パッケージには、奥様からの手書きのメッセージが)
藤本 海苔? あ、ありがとうございます。
葉山 これ千葉の。功ちゃん(北村)この前あげたけど。
大迫 ええっ! うれしい!
藤本 4月3日に結婚式をされるという葉山さんじゃないですか! いまmola!のインタビューで録音してて。
葉山 ええ? ヘッヘッヘ。
北村 飛ぶ劇の四天王のうちの5番目のひと。
葉山 四天王に入ってねえの?
藤本 これも記事に書くよ。
葉山 ハッハッハ……。(去る)
大迫 やさしいなあ……。
北村 九州にいながら北海道のひととも共演できる(※11)もんね。
大迫 北海道……。
藤本 奥さんが北海道から来てくれたから。
北村 九州は東京よりも北海道とのつながりのほうが強いからね。
大迫 北海道行きてえなあー……。

不思議少年の今後の展望

対談しているフリをする北村功治・大迫旭洋

藤本 なんか、「俺様が九州をこうしたい!」みたいなのはありますか?
大迫 あははははは! 来年全国ツアーをしようかな、と思ってるんですけど、やっぱり僕自身は九州っていう土地を誇りに思ってるし、九州の演劇とか表現ってこんなにおもしろいんだぞと思ったので、それを代表するっていうとおこがましいけど、九州の演劇を全国に向けて発信して、「九州おもしろいな!」って思ってくれるひとが全国にいるような状況をつくりたい。「じゃあ今度九州に観に行ってみるか」と思って関門海峡を越えて、交流が生まれたらもっとおもしろくなるかな、とは思ってます。
藤本 で、その全国ツアーの制作を請け負ったのが、ウチ(kitaya505)っていう。
大迫 よろしくお願いします。
藤本 なんかありますか? kitayaが関わるっていうことについて。
北村 1回やってみてそれからどうしようかっていうための期間だと思うんで、いまは作り手がやりたいようにやってもらって、それを一通り見たうえで突っ込んだ制作的な話をしようかな、と。全国ツアーをしたいとか、いま大迫くんは語らなかったけどもっとその先の具体的な目標があるみたいなので、そうなってくるとウチみたいな制作的な戦略を持って演劇と向き合うっていうところが必要になってくるのかな、と。それが簡単な言葉で言うと「仕事」っていうことだと僕は思ってるので。そういう認識を持った方がウチに声をかけてくれたっていうのは非常にありがたいことなので、1月の公演についてはやりたいことをやるっていうのをできるだけ受け止めたうえで次を見据えたいと、制作をやってる身としては思います。
藤本 それで現在進行形で取り組んでいる新作『いいひと』はどんな感じですか?
大迫 いやー迷ってますねーーー。正直に言うとめっちゃ迷ってます(※12)ねーーーーー。
北村 いつもやってるつくり方なの?
大迫 いつもいろいろ試してはいます。やっぱり毎公演進化したいとは思ってるので。いっつも苦しいです。
北村 手応えはある?
大迫 手応えは、11月のリーディングで初めて小説形式のものを書いたんですけど、これでもアリだと思えて。小説と戯曲の境目のような形にしたいのかなと思っています。昨日は15ページまでできてたんですけど、今日全部消して書き直して。
藤本 おっ!
大迫 あはははははは!
北村 その選択ができるのは創作者らしいよね。僕とか制作の人間だから、締め切りが見えてるなかで全部消して初めから書き直すのは絶対しないもん。「僕はそういう危険なことは絶対しねえぞ!」っていうのと、満足行くまで諦めないのは尊敬に価するっていうのの、両方がある。
藤本 創作過程を見ていると、茨の道しか歩んでない。
大迫 あはは。やっぱり、一度進んできた道はある程度光が見えるというか。進むべき方向に勝手に筆が進んじゃう。やり方がわかっちゃう。そういうのは楽だけどおもしろくないなと思って。そういう意味で茨の道を自分から歩んでますね。Mなのかな? ん? Sなのか? わかんないですね。
藤本 じゃあ最後に2016年の目標を。
大迫 まだ公表できるのは東京のこまばアゴラ劇場だけなんですけど、全国縦断できるようなツアーを計画してます。
藤本 北海道から沖縄まで?
大迫 んー。北海道行きたいなー。沖縄も行きたいなー。
藤本 来年はそういう、全国に挨拶回りに行く年、と。
大迫 そうですね。

構成・執筆:藤本瑞樹(kitaya505)

※1)森岡さん
不思議少年に所属する女優、森岡光。1/17から始まる二兎社『書く女』に客演中。

※2)早川倉庫
熊本にある、明治末期まで酒造を行っていた場所。熊本演劇のメッカのひとつになりつつある。

※3)玄海こらぼ劇場
大衆演劇の牽引者・玄海竜二を中心に、異種演劇がコラボするユニット。

※4)宮崎の「時空の旅」
宮崎県立芸術劇場が製作している「演劇・時空の旅」シリーズ。九州各地、または九州出身の俳優を集め、古典から現代劇まで、名作戯曲を題材に扱う人気企画。

※5)北九州芸術劇場のプロデュース公演
北九州芸術劇場が製作しているプロデュース公演。第一線で活躍する演出家を招き、オーディションによって選ばれた出演者で作品を創り上げる。

※6)「鎖骨」
大迫旭洋と、ブルーエゴナク(北九州)の穴迫信一のふたりで組んだコントユニット。

※7)ジジとピッピ
宮村耳々×森岡光で企画した二人芝居『おとこのこと』。

※8)ヒロシ軍
長崎・諫早を拠点に活動する劇団ヒロシ軍。

※9)「劇トツ」
北九州芸術劇場主催の、20分以内の短編演劇バトル。不思議少年は2014年・15年と大会2連覇し、16年に3連覇をかけた戦いに挑む。

※10)飛ぶ劇場
北九州を拠点に活動している劇団。九州の演劇界を牽引する劇団のひとつ。

※11)北海道のひととも共演できる
葉山太司は北海道で活躍する劇団千年王國の女優、榮田佳子と結婚。北海道から北九州に移り住んだ榮田佳子は、九州の演劇界で活躍している。

※12)めっちゃ迷ってます
この対談をした時点では台本が書けておらず、稽古は一進一退という形で進んでいた。


不思議少年 第12回演劇公演『いいひと』

作・演出:大迫旭洋
日時:2016年1月22日(金)19:00
        23日(土)14:00/19:00★アフタートークあり
        24日(日)14:00
会場:北九州芸術劇場 小劇場(北九州市小倉北区室町1-1-1-11 6F)
料金:一般2,000円(当日2,500円)
   高校生以下1,000円

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