ダブルクラブ、階段がヤバい
1月某日、演劇プロジェクト・ダブルクラブ(北九州市)よりmola!編集部に、「第三者に観てもらうことによって緊張感が増すので、本番1週間前に行うゲネプロ(※1)をぜひ観に来てほしい!」との連絡があった。そこで、その日暇であったmola!編集部員は、同劇団の『Manana~いつかくるかもしれない日~』(作:鶴村さとこ・演出:山本慎介)のゲネプロを観に行くことにした。
会場であるギャラリー還は、小倉北区紺屋町の、1階に薬局が入っている建物の2階にあるらしい。路地に入り、それらしい薬局を見つけ、横の階段を上がっていくと、美味しい煮物系の匂いがしてきた。建物を間違えたかと思ったが、確かにここがギャラリー還のようだ。意を決し扉を開けると、ダブルクラブの関係者が受付にいた。安心した。
受付を済ませ、ふと横を見ると、「コロッケ100円」「ビール300円」「焼酎300円」といった張り紙がある。なるほど、なるほど。階段を上がるところから作品が始まっていたのか! ゲネプロの時点で会場外の演出まできちんと行っているとは! 心憎い! ダブルクラブのこの公演に対する並々ならぬ意気込みが感じられる。なかなかやるなダブルクラブ。これからは要チェック団体としよう。
……ん? しかし会場に入る前から作品世界にいざなう演出があるとか、煮物の匂いを感じることができるといった情報は、事前には聞かされてなかったような……。はは~ん、なるほど、なるほど。油断してしまった。小出しで情報を出してくるとは。余裕すら感じられる。心憎い団体である。敵ながら天晴れだ。ダブルクラブ、要チェックである。
ゲネプロが始まる。上演時間は約90分。公演前なので内容は具体的には書けないことに、この文章を書きながらいま気が付いた。記事になると思ってゲネプロを観に行ったのに。不覚だった。……とにかく90分後、ゲネプロは終わった。
料理は……厳密に言えばアレが出てきたシーンはあったが、でもアレはそういう匂いではないし……。そもそもこれは料理押しの作品ではない。開演前に嗅いだあの煮物の美味しそうな匂いはなんだったんだろう。「コロッケ100円」などの張り紙は一体なんだったんだろうか……。
観劇後、料理や匂いのことばかり考えていると、ダブルクラブの方に感想を求められ、少し動揺した。「別のベクトルで観劇してしまったので、もう1回ゲネ観せてください」とは到底言えず、しどろもどろでそれらしい感想を述べ、逃げるように会場を後にしようとした。
すると、受付に立っていた関係者が近づいてきた。……私の知人だった。90分前に美味しい匂いを嗅いだあの階段で、知人はいきなり私に「子どもができました、双子(※2)です」と言ってきた。一瞬なんのことかわからなかった。何のサプライズかわからない報告をされ、さらに動揺した。この階段は時空がねじれてて五感が変になるのか? え? ダブルクラブのダブルってのはそういうことなのか? それとも、これも演出?? 演出のために子どもが、しかも双子ができたのか???
というわけで、演劇プロジェクト・ダブルクラブ #19『Manana~いつかくるかもしれない日~』は、1月24日(土)〜25日(日)、小倉北区紺屋町のギャラリー還にて上演される。会場がややわかりづらいところにあるため、方向感覚に自信のない方は、時間に余裕を持って行くことをオススメします。
会場までのヒント。ドンキホーテ小倉店を背に、旦過方向へ200メートル。右手にある公園を通り過ぎて右の路地に入って、豚天で有名な中華調理屋「春燕(しゅんえん)」の斜め前。1階が薬局。
取材・執筆:北村功治(kitaya505)
(※1)ゲネプロ:正式には「ゲネラルプローベ」という。本番同様に行うリハーサルのこと。ゲネとも呼ばれる。
(※2)双子:母体の中で5か月目に入ったところ。性別はまだわからないらしい。
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