ビーネ!中川裕可里ロングインタビュー(後編)

2017.03.12

ビーネ!(北九州)が『猫背』(作:中川裕可里)を3月25日(土)~26日(日)、北九州市小倉北区大門のengelで上演する。

飛ぶ劇場(北九州)に俳優として所属する中川裕可里が主宰するビーネ!の第二回公演『猫背』インタビュー。後編では、本作『猫背』のことを中心にお届けする……予定ではあったが、小倉駅前にある北九州の演劇人ご用達の居酒屋「白頭山」で飲みながらの取材だったため、次第に中川の酔いが回り始め……。

真に受けない! クソ真面目にならない! 楽しむ!

―では今回の『猫背』のことを改めて伺います。

……芝居をですね。

―はい。

もうやめようかなあって……。

―え?

いまは全然そんなことないですけど、一時期ちょっともういろいろきつくて無理かなあー、やめようかなあーなんてのがありまして。……結局やめてないから「やめるやめる詐欺」ですね。ははは。ごめんなさい!!! 乾杯!

―乾杯。

咳が出るんですよ。公演のたびに。病院行ったら咳喘息だって。えへへー。

―えへへーじゃないですよ。それ芝居が原因じゃないですか。

あはは。稽古中に咳が出ちゃうから「あれ、もしかしたら演劇が原因?」みたいな感じはしてて。立て続けに舞台に立ってた時期に喘息も続くからつらくてつらくて。病院行ったら喘息って言われて。あははは。薬もらって、咳止めながらやる、みたいな。

―そうだったんですね。

それが、今年に入ってモノレールの公演(※1)くらいからかなあ、なんとなく体調を崩さない方法みたいなのが掴めてきて。

―どういう方法だったんですか?

私、真に受けすぎ! いろいろ真に受けちゃうんです。アドバイスとか。考えすぎると逆にどうしていいかわかんなくなる! みたいなのがありまして。喘息が出て、悩んで、なんか体調崩して、薬飲んで副作用でゲロゲローみたいな。あははは。そんな繰り返しで、もう芝居やめようかなって。それが、銀鉄(※2)やモノレール公演なんかで楽しい環境が続いたからかなあ。「何か掴んだ!」って感じになったんです。

―つらくならないコツを?

そう。「真に受けない! クソ真面目にならない! 楽しむ!」。

銀鉄とモノレール公演

―では、いま話に出た『睡稿、銀河鉄道の夜』について伺います。中川さんは、役がそれまで演じていたカムパネルラからジョバンニに変更になり、カムパネルラは不思議少年の森岡光(※3)さんになるという大きな変化がありました。このことを中川さんはどのように受け止めましたか?

はい……。名古屋で手羽先食べました。

―ん?

二日続けて食べました。

―え。

それから京都にも行きました。でも私はバイトがあって帰りました。バイト終わって京都行ったら制作さんが手配した宿には外国の人しかいませんでした。

―いや、そういうのじゃなくて、カムパネルラからジョバンニへの配役変更がありましたよね?

ですです。

―不思議少年の森岡さんが新たなカムパネルラとして加入しましたよね?

ですです。

―それについて感想などを。

あー。ピッピ(森岡)や穴迫ちゃん(※4)が、わりと年齢近かったので気を使わなくてよかった! ツアーが本当に楽しかった! 今まではよんさん(※5)がジョバンニをずっと演じてたから、『睡稿、銀河鉄道の夜』イコール「大畑ジョバンニ」でしょ? だからジョバンニを演じるってことはプレッシャーでした。あははー。

―なるほど。

だから、最初は「マジで!! うわーーーーっ」てのがあったけど、稽古はじまったらそんなこと全部忘れました。あははは。

―では、モノレール公演に参加しての感想を聞かせてください。

振付が大変!

―ダンス作品だったんですか?

ダンス? 演劇? なんだろう。その場所でしか出来ないパフォーマンス公演?

―モノレールの中でやったんですよね?

そうそう。ダンスの経験とかないから大変で。振付、みんなすぐに覚えるんですよ!

―中川さんは?

えへへ。覚えられないから案の定、壁にぶつかりまして。演出の穴迫ちゃんに、「私、すぐには出来ないのでしばらくほっといとって」ってメールしまして。モノレール全体が会場だから隣の車両にも演者がいて、みんなが見えないからカウント取ってタイミングを合わせて(身体でカウントを取る)。それが私なかなかできなくてーえーんーあはは。稽古終わってからも家に帰りながら曲聞いて、踊ってぇ……。(踊りながらビールを注ぎに行く)……ずっとカウントとってー……(ビールを注ぎながら踊る)……稽古でいっぱいいっぱいだったけど、楽しいから早く稽古行きたいって思ってましたー。今までなら、どうして出来ないんだろうってなってたかも。……楽しかったなあ。

『猫背』というタイトル

―では、話の途中だった第2回公演『猫背』のことを伺ってもいいですか?

ですです! どこまで話しました?

―えーっと、『猫背』という狂言はないってのと。

あははは! 狂言にそんな演目ないですよ! あ、『鶏猫』(※6)って演目ならありますよー。

―けいみょう?

そうそう。鶏と猫って書いて「けいみょう」って読むんです。あははは。

―どんなお話なんですか?

んーーよく知りません!あははは。

―そうなんですね。ごめんなさい。『猫背』について、なんですが。

そうだった!ですです!

―今回、狂言の要素を含んだお芝居なんですよね?

ですです!

―で、後見(※7)を据えて作品作りを行うと。

ですです! よく知ってますね?

さきほど伺いましたので。

そう? あはは。じゃあ中島先生は?

―後見の方ですよね。では、後見の中島先生のことを教えてください。

はは。なんでも知ってるー。中島先生は大学卒業してからこっちで習ってた狂言の先生で、もうすぐ死ぬから楽しいことをやろう! ってチャレンジ精神のある71歳です。あはははー。

―ダメでしょ死ぬとか。

だって、狂言やってる人が少ないから、こういった機会に積極的に若い人とも関わりたいって。

―そういったいい話をもっとください。

インターネットとかで活動を配信して、もう71歳だから、そのうち死ぬからって……。

―死ぬとかはいいですから。

後見は、影の実力者なんです! 役者が台詞忘れたり、何かあってもう出来ません!! ってときに助けてくれるんです!

―それって、プロンプ(※8)やったり、代役も行うってことですか?

ですです。

―後見がすべてを把握して、なにかあったらやってみせますわよ的存在ということですか?

ですです!!

―じゃあ後見が全部やるのが早いんじゃないですか?

………。

―……すみません。では『猫背』というタイトルについて教えてください。

ネタバレになりません?

―バレると問題ありますか?

ぬいぐるみの名前。

―はい?

子どもの時にずっと大事にしていたぬいぐるみです。

―猫背が?

そうです。

―ぬいぐるみの名前?

ですです。近所のおじさんが「猫背」って呼ぶんで、いつの間にか私も「猫背」って呼ぶようになりまして。

―近所のおじさんが中川さんのぬいぐるみに「猫背」と名付けた。それがタイトル?

ですですです! ずーーっと大事にしていた、外に出るときもいっしょだった、いまも大事にしているぬいぐるみです。

―「猫背」とは何年くらいいっしょなんですか?

んーーーあれ? いつからいっしょなの? いつから?? ……気が付いたらいっしょ。

―そのずっといっしょのぬいぐるみが、今作のタイトルになっている、と。

ですです。

―狂言で『猫背』。ぬいぐるみの「猫背」は実際に出てくるんですか?

んーーー。

―言いたくなかったら秘密でもいいですよ。

んーーーそこはご来場いただいて確かめていただければ! あははは。

―わかりました。楽しみにしています。

構成・執筆:北村功治(kitaya505)

※1)モノレールの公演
北九州芸術劇場主催、北九州芸術工業地帯モノレール公演『はなれても、燈』。北九州市小倉北区と南区を南北に走る北九州モノレールを舞台にパフォーマンス公演が行われた。

※2)銀鉄
飛ぶ劇場『睡稿、銀河鉄道の夜』。これまでに北は北海道、南は鹿児島と公演を行い、今年度は名古屋、京都、北九州で公演した。

※3)森岡光
不思議少年(熊本)の俳優。愛称はピッピ。『睡稿、銀河鉄道の夜』にカムパネルラ役として客演。

※4)穴迫ちゃん
ブルーエゴナク(北九州)代表の穴迫信一。『睡稿、銀河鉄道の夜』に客演。

※5)よんさん
元飛ぶ劇場の俳優、大畑佳子。ジョバンニは、中川の前は大畑が演じていた。

※6)鶏猫
狂言演目。猫を盗んだ父を子どもが訴え、罰せられそうになった父を訴えた子どもが救うという内容。猫と牛を入れ替えた「牛盗人」という演目もある。中国能「羊」にルーツがある。

※7)後見
能、狂言、歌舞伎、舞踊などで、演技者の助けをする役。

※8)プロンプ
プロンプターの略。講演・演説・コンサートなどの際、原稿や歌詞などを表示し、演者を補助するための装置・システム。演劇では、演者が台詞を忘れたときに脇から人が補助する場合が多い。


一時は俳優活動にピリオドを打とうとしていた中川。演劇活動を継続する難しさを抱えているのは中川だけではないだろう。上手く演劇と付き合う術を身に付けることは誰もが出来ることではない。しかし、そういったことを乗り越え、狂言の要素を取り入れ、物心付いた時にいっしょだったぬいぐるみが作品の「核」となる予感がする『猫背』に注目したい。

出演は、中川裕可里。後見、中島清幸(能楽師大蔵流狂言方)。

チケットは、カンパ制(要ワンドリンクオーダー)。

予約・お問い合わせはビーネ!beneinfo.2015@gmail.comまで。


ビーネ!『猫背』

作:中川裕可里
日時:2017年3月25日(土)18:00
        26日(日)14:00/18:00
会場:engel(北九州市小倉北区大門2-7-5)
料金:カンパ制(要ワンドリンクオーダー)

【関連サイト】
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※情報は変わる場合がございます。正式な公演情報は公式サイトでご確認ください。

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