劇団ヒロシ軍旗揚げ10周年記念!(後編)中村幸×Yukky×永吉祐美×宮﨑康平対談
劇団ヒロシ軍(諫早)が十周年記念公演として第14回本公演『誰かのための立ち位置』(作・演出:荒木宏志)を7月15日(土)〜16日(日)、北九州市小倉北区の北九州劇術劇場 小劇場で上演する。
今年で劇団結成10周年を迎えた劇団ヒロシ軍。座長の荒木宏志は今でこそ九州の演劇人に認知されているが、劇団員は未だ謎に包まれた存在。そこで、表舞台になかなか出てこない劇団員たちにスポットを当て、劇団員たちの目からみた「劇団ヒロシ軍」の10年ついて、座長不在の座談会を開催。劇団員である中村幸、Yukky、永吉祐美、宮﨑康平に話を聞いた。
みんなヒロシがキライだった
ーまずは簡単な自己紹介をお願いします。また、劇団ヒロシ軍へなぜ入団しようと思ったのか教えてください。
Yukky Yukky(ユッキー)37歳です。ヒロシ軍はただ単純に面白かった。見てる人にとってわかりやすいストーリーが多かったし。親近感があった。お客さんと近い感じ。それがよかった。でも、ヒロシの最初の印象は最悪でした。平成22年に長崎ブリックホールであった『青木さんちの奥さん』長崎バージョンの公演(※1)で共演したのが初めての出会いなんだけど「こいつ、クソ以下やな」って思った。年上に対して礼儀もなってないし。何コイツって感じだった。でも、ずっと一緒にいる時間が長くなるうちに「そこまで悪いやつではないんだ」って気付いたかな。その共演したのがきっかけで、客演に行くようになり入団しました。入団して6年目かな?
永吉 永吉祐美26歳です。私は客演で最初に出たのが、5周年記念公演『ホームレス3部作』(※2)。これ、3週連続週替わりで、違う作品の本公演をするという無茶な企画でした。でも楽しかった。その流れで自然と入団しました。今年で5年目ですね。
中村 中村幸21歳です。最初に客演にきたのは18歳のとき。そのあと、19歳の時に「劇トツ×20分」2015(※3)に客演として出て。その打ち上げのときに言われたのが、「ヒロシ軍よかったよ」ではなく「ヒロシさんよかったよ」ばっかりで。それがすごく悔しくて。ヒロシ軍で出てるのに、なんでヒロシさんしか褒められないの!? ってのがあって。「いつか絶対ヒロシさんをぶっ潰す」と思って入った(笑)。
一同 (爆笑)
宮﨑 宮﨑康平、29歳です。最初2年目に入団したんですが1回辞めて、2015年9月に再入団しています。俺も、最初は荒木が嫌いでしたね。いつもふざけてる感じで。でも、バイト先がいっしょになり、だんだん仲良くなって、誘われて観にいったヒロシ軍の芝居に感動して、自分から入団させてほしいと話しました。
ヒロシ軍はハード!?
ー毎週のように公演やイベント出演などのハードスケジュールの劇団ヒロシ軍。そんな精力的な活動を続ける劇団ヒロシ軍との付き合い方を教えてください。
Yukky ヒロシ軍って楽しんだけど活動がハードだからさ。みんな一度崩壊するよね。
宮﨑 体力的にもきつくなるし、そうなると精神的にも追い詰められるし。
永吉 ヒロシ軍メンバーで無理をしていない人なんてひとりもいないよね。振り返るといろいろあったなあって思う。
中村 うんうん。そうだよね~。
宮﨑 俺は一度辞めてるしね。みんなも辞めてなくても休団したり。
中村 でも、そんなして辞めたのになんで戻ってこようって思ったの?
宮﨑 ヒロシ軍を辞めてしばらくして落ち着いてきたら、「あれ、何かが足りないぞ。自分の中にあったなんかが足りないぞ」っていう気持ちになった。辞めて、半年後ぐらいに荒木から「ちょっと手伝いにきてくれん?」って声がかかって手伝いに行ったら、「あ、ここだ! 足りなかったのはここだ!」みたいな感じになって。でもしばらくは、2〜3か月に1回スタッフで手伝いに行くみたいにしてて。でも「やっぱ楽しい」ってなってなんだかんだで帰ってきた。1回辞めて復帰するまでの間は2年ぐらい。やっぱり、一回限界を見て、「あ、ヒロシ軍とはこれくらいの距離感でつきあったらいいんだ」って学んだ感じ。辞めてから、つきあいかたがわかったというか。自分の立ち位置がわかるようになった。自分の限界みたいなものをわかったうえで、「ヒロシ軍とはここまで」「ここまでは手伝いたい」「これ以上は難しい」みたいなことがわかるようになったかな。
一同 それ、わかる~
やっぱりヒロシ軍がすき
ー劇団ヒロシ軍の魅力はなんですか? また、10年を振り返って、印象に残るエピソードがあれば教えてください。
永吉 ヒロシ軍に入ったころとか、原付で長崎から諫早まで通ってました。冬の公演で、稽古に通うのがほんとに寒かった。原付で1時間以上運転してですよ。もう今じゃやれませんね。徹夜稽古とかしてたなあ……。でも、みんなで毎週泊まり込んで楽しかったな。合宿みたいな……お祭りでしたね(笑)。
Yukky 俺、本番に裸足で出ていて、ヒロシは靴をはいてて、抱きしめあうシーンで、あいつが俺の足の甲の上に乗ってきて全体重をかけてこうくるからさ、「痛い!」となって。
永吉 Yukkyさん、足血まみれになったよね!
Yukky 他の芝居でも足にひびがはいったこともあって、本番中に動けなくなったり(笑)。あんときは、マジでビビった。殴るシーンもあいつ本気で殴るから、みんな胸にパッドいれてやってるんだけど、俺、それじゃリアリティーが出ないと思ってパッドいれずにやったら痛くて。そのあと、くしゃみができない(笑)。とか、結構、体張ってきたかな(笑)。
永吉 あと、おなか壊したやつ(笑)! あれも面白かった!
Yukky あったね~(笑)。ケータリングにあたって、役者が3人おなか壊した状態で、舞台に立つっていう。舞台に出て袖にひっこんだら、みんなかわるがわるトイレに走って(笑)。あんな本番ってない(笑)。
宮﨑 まあ、ヒロシ軍って、おしっこ事件とかゲロ事件とか、汚いエピソード多いよね(笑)。でもまあ、そんなトラブルとかも笑える。みんなでいるだけで面白い。バカばっかりしてる感じ(笑)。あと、作品でいうと、俺はなんといっても『雨の蝉』(※4)とか『ドスのきいた青』(※5)が好き。
Yukky あー、『ドスのきいた青』いいよね! やりたい! あのラストシーンいいよね!
宮﨑 あの、曲に合わせて徐々に盛り上がっていくところとかね!
中村 いいよね~! ヒロシ軍はほんっと選曲いいよね!
宮﨑 荒木が選曲するんだけど、いっつもセンスいいもんな!
一同 そうそう!(頷く)
中村 わたし、『素晴らしき糞人間たち』(※6)も好きだな。入団前で、お客さんで見に行ってたんだけど、ラストのセリフ「それでも生きていかなくちゃ」って、いまだに覚えてるもんね。
Yukky あれ、いい作品だったよな~。作るときはもう徹夜で稽古したりして、ボロボロになりながら作って、正直、初日はあんまりいい出来でなかったんだけど、何回も公演するうちに、だんだん良くなっていったんだよね。千秋楽はよかったもんなー。
宮﨑 社会の片隅で生きているどうしようもないひとたちの話で。もっと、ブラッシュアップしたら、もっともっといい作品になると思うんだけどな。
永吉 『日常コンクリート』(※7)も楽しかったね。
Yukky 楽しかった! いい作品だった!
宮﨑 これも、生きづらさを抱えている不器用な男をコミカルに表現してて。キャラクターが生きてたよね! 最高に面白かった!
中村 新作ばかりじゃなくて、再演もしてみたいなあ。
永吉 いいね! やりたーい!
中村 でも、ヒロシさん、今は前の作品はやりたがらないんだよね。新作をやりたい気持ちが強い。最近の作品は断片的なものを集めて作品にしましたみたいなものが多いんだよね。まあ、はっちゃけてるから、面白くて好きではあるけど。とはいいつつ、今度の十周年記念公演は再演だけどね。
宮﨑 昔はさ、「作:荒木宏志/脚色・演出:渡邉享介(※8)コンビ」でやってたよね。そのころ渡邉さんがよく「今のお前はまだファンがまだいないから、お前の発想の作品をやっても誰もついてこれん。おまえの作品に共感できるひとたちが増えてきたときに自分のやりたいようにやれ」って言ってた。今がそのときなのかなって思う。今、共感できる人たちが九州内に出てきていて、「オモシロイ!!!」ってなってるんだろうね。ヒロシ軍の魅力は、「はっちゃけてるとこ」「親近感がある」「お客さんとの距離が近い」ってとこかな。演劇っぽくないから、演劇を見るのが初めての人でも観やすいと思う。これから新作をやっていくのもいいと思うし。一方で過去を振り返って、前の作品を再演してみて、荒木も改めて演出をしてみたら、新しい何かが見えてきたりするのかもね。
これからのヒロシ軍に思うこと
ーこれからのヒロシ軍に期待することなど、思うことを自由に語ってください。
中村 これからは、ヒロシさんはヒロシさんとしてどんどん売れていってほしいし、ヒロシ軍はヒロシ軍として劇団員みんなで作りあげたい。みんなでやることに意味があると私は思うし。個人的にはいろいろ輪を広げて、自分のやりたいことをやっていけたらいいなと思います。
Yukky これからもみんなと仲良くしたい。お互いに仕事しながらの演劇活動だから、時間も合わないし。やりたいけど思いっきりやれないっていう状況はもどかしくて、ヒロシとさっちゃんには申し訳ないなと思うけど、そんななかでも劇団に置いてくれてるヒロシ軍にはすごく感謝しています。
永吉 私もみんなと劇を作りたいなと思います。仕事であんまり関わることができないし、申し訳ないっていう気持ちもあります。でも、その中で時間つくってぜひ一緒にまたなんかしていきたいなっていう気持ちはすごくあるから。役者として出れる機会があったらいいなと思っています。
宮﨑 10年間突っ走ってきたヒロシ軍だけど、今までの10年をもう1回見直したり、この10年を踏まえたうえで、次の10年を歩んだらもっと大きい作品ができてくるんじゃないかと思います。個人的な野望としてはいつか『雨の蝉』を小説にしたい。原作:荒木宏志で。ヒロシ軍の舞台をみても面白いし、小説もおもしろいみたいな。そういうのもやりたいな。「荒木宏志をずっとサポートしたい」と思っているから、自分のできることは協力していきたいなと思っています。
劇団ヒロシ軍のハードな活動を支える劇団員たち。劇団員ひとりひとり置かれている環境や劇団とのスタンスのとりかたは違っていて当たり前で、そのなかで劇団と寄り添い、ともに歩んできた10年といえるであろう。劇団運営というのは、きっとヒロシ軍だけでなく、どの団体も真剣に取り組めば取り組むほど、さまざまな問題が発生し、悩み、苦しむものである。そして、そこを劇団員みんなで乗り越えていく信頼関係が求められるのだろうと思う。これからもお互いの信頼関係を大事にし、更なる飛躍を劇団ヒロシ軍に期待したい。個人的には、笑いに特化したエンタメ作品とともに、社会に忘れられたひとたちや孤独を抱える人々、挫折や失敗、そこから立ち上がる人間の強さと優しさ、人間くさい、社会性のある普遍性のあるテーマの作品づくりに期待したい。そのうえで、いい意味で「バカである」「バカになる」ということをこれからも大事に、ヒロシ軍らしく「はっちゃけて」ほしいと願っている。
執筆・インタビュー:寺井よしみ
(※1)『青木さんちの奥さん』長崎バージョンの公演
南河内万歳一座の代表作品と言われる『青木さんちの奥さん』。作品の半分はアドリブで、役者の引き出しと瞬発力が試される。平成22年12月、長崎市が主催で、オーディションにより出演者を選出し、オリジナルメンバーとともに長崎ブリックホールで上演を行った。
(※2)『ホームレス3部作』
劇団ヒロシ軍5周年記念公演。座長の荒木宏志が扮するホームレスが出てくる本公演作品を3本、3週連続、週替わりで上演した。
(※3)「劇トツ×20分」2015
九州各地から集まった5団体が短編作品を競い合う、北九州芸術劇場の事業。優勝団体には、翌年度の北九州芸術劇場 小劇場での上演権が贈られる。このときヒロシ軍は『ヌカルマ』という作品を上演。観客投票ダントツ最下位という結果に。
(※4)『雨の蝉』
旗揚げ作品。生まれてからずっとひきこもっていた孤独な青年が、初めて外の世界へ出る。
初めての世界と初めての幸せ。青年の選んだ幸せな選択とは……。蝉の一生に謎かけた、ある青年の1週間の物語。
(※5)『ドスのきいた青』
平凡な生活に退屈していた平井。ある日突然、拳銃を拾ってしまう。人間の幸せは、平凡な毎日? それとも刺激的な人生? そんなことを問いかけながら、物語は猛スピードで進んでいく! 「抑止力」「アメリカ」など難しいテーマを扱うも、あくまでもエンタメとして楽しめる作品。
(※6)『素晴らしき糞人間たち』
どこにでもいるような、糞人間。生きづらさや弱さを抱えた現代の若者たちの青春群像劇。夢や希望や絶望や恋や友情、仕事やお金や虚栄や甘え。生きていく中でもがく人間の醜さと美しさを、ユーモアと優しさとまっすぐな視点で見つめている作品。
(※7)『日常コンクリート』
幸せの絶頂にいるウエディングドレスの花嫁が逃げ出した!? そこで女が出会ったのは、カジという薄気味悪い男だった。カジは女に恋をするが……。「日常」のなかにある悲しみ。ともすると人からはバカにされ笑われてしまうようなささいな悲しみ。誰にも伝わらない日々。カジという男を軸に日常の中にある悲しみをシニカルな笑いに変換しポップに仕上げた作品。
(※8)渡邉享介
劇団ヒロシ軍旗揚げメンバーの1人。現在は退団。旗揚げの2007年~2013年まで「作:荒木宏志、脚色・演出:渡邉享介」のコンビで作品を創作していた。詳しくは前回対談記事参照。
劇団ヒロシ軍 第14回本公演 十周年記念公演『誰かのための立ち位置』
作・演出:荒木宏志
日時:2017年7月15日(土)14:00/19:00
16日(日)14:00
会場:北九州芸術劇場 小劇場(北九州市小倉北区室町1-1-1-11 6F)
料金:一般2,500円(当日3,000円)
高校生以下1,000円(当日1,500円)
リピーター価格1,000円
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