『神舞の庭』田中美央インタビュー

2018.02.24

宮崎県のさまざまな場所や事象を切り取って、国内の第一線の劇作家が物語を紡ぐ「新 かぼちゃといもがら物語」。第2弾となる今作『神舞の庭』では、宮崎の伝統芸能「神楽」を守り伝える山間(やまあい)の集落を舞台に、その土地で暮らす家族の姿が描かれる。今作で主人公の俊一を演じるのが、大河ドラマ「おんな城主直虎」で奥山六左右衛門役を演じた劇団俳優座の田中美央(たなか・みおう)。作品の魅力などについて話を聞いた。

田中美央

―今回宮崎で1か月の滞在制作ですが、宮崎はどんな印象ですか?

楽しんでます! と言っても、神楽を見に(県北部の)日之影町には行きましたが、基本的には駅前と稽古場周辺をぐるぐる回ってて、まだ堪能しきれてはいないですね。食べ物もおいしくて。人も穏やか。南国ムードっていうのかな。海も山もあって自然が豊か。僕は神戸市の中でも山手の、有馬温泉の辺りの出身なんです。畑もあり、山も川もある中で育ったので、なじみやすいですね。

―作品についてお伺いします。オファーをもらった時はどう思われましたか?

まず「新 かぼちゃといもがら物語」というタイトルを聞いて、子ども向けミュージカルだと思ったんです。僕、そういうのは好きなので、楽しくなっちゃって。宮崎に1か月行けるというのも嬉しかったし、「ぜひやらせてください!」と。
それで、台本が届いたら、かなり重厚な物語で。「これは……かぼちゃといもがらはどこに?」って。結局それはシリーズ名で、タイトルとは別だったんですけどね。かなり意表を突かれました。
僕は本来、新劇の役者なので、あるべき姿といえばそうなんですが(笑)。

―本シリーズの特徴の一つが、全編「宮崎弁」での台詞ですね。

うーん、やはりネックですね。宮崎弁の持っている独特の音階が、すごく穏やかに聞こえる。僕の役・俊一には、弟・亮二役の松本哲也くん(劇団小松台東)と激しい言い合いをするシーンがあるんですけど、地元出身の松本くんの宮崎弁にすごく癒やされてしまって……。「いやいや、癒やされている場合じゃない、今ケンカしてるんだぞ」と一生懸命自分に言い聞かせています。

―田中さん演じる俊一は上京して働いていますが、ある出来事で心に傷を抱えて帰省する役だそうですね。

(俊一は)ずっと立ち位置を探している感じですね。自分の心もままならない中で、故郷の家族と、今自分が抱えている家族の思いに挟まれる。一方の家族にしか見せていない表情があるから、自分自身が分裂して、立ち位置、つまり自分の居場所が分からない。
じゃあ「居場所」って何だろう。昔集めていた物だったり、学校のアルバムだったりという「記憶」と密接に関係しているものかもしれない。いわゆる地元や「ふるさと」かもしれない。ふるさとって場所も指しますし、心のより所という意味もあるでしょう。俊一にとっての「居場所」=より所はどこにあるのか。どう向き合っていくのか。その変遷を、このドラマの中で生きていきたいですね。
あとね、本当にしゃべらないんです、俊一は。主役なのに黙っているシーンがすごく多い。今声を上げれば丸く収まるんじゃないかな、と思うことが多々あるんですけど、我慢してしまう。僕はしゃべりたい人ですから、この「我慢」は何なんだろうと。舞台上でそれを考える時間も、楽しみます(笑)。

―今回、宮崎出身・九州出身の役者たちとの共演ですが、どういう印象ですか?

実広さん(実広健士・劇団ぐるーぷ連)はじめ、皆さん、徳を積まれている感じだな、と。実広さんとは、舞台上で対峙(たいじ)すると怖いくらいの圧力があって。本当に勉強させてもらっています。
みんなでご飯食べたり、遊びに行ったり、いつも一緒にいるので、芝居に関しても「こんなところで悩んでる」というのをその都度共有できる。家族感が深まってきているというか。これが(演出の)永山智行さんの「永山マジック」ですかね。

―「集落」のつながりもテーマになっていますね。

僕は1974年生まれで、ちょうどその頃から、「集落」や血族間の連帯みたいなものが、希薄になってきたんじゃないかというのがあって。つながりよりも「個」が尊重される現代に続く流れが始まった。なので僕は親族が集まる場だと、ちょっと緊張してしまうんです。今の時代、一人の方が楽じゃないですか。
集落とか親族ってものが自分のふるさと、居場所ではないんじゃないかと考える一方で、どこか動物的な感覚で他者との触れ合いを渇望している自分がいる。その渇望を完全に無くしてしまうことは、人間性を完全に失うことに等しい。この芝居にはそんな個々の「孤独」を輪っかでつなぐことの大切さが詰まっていると思っています。

―劇中では神楽を舞うシーンもあり、実際の神楽も鑑賞したそうですね。

本来、人に見せるためのものじゃない本物の「神楽」の在り方は、新鮮でした。観客は僕らのほかは地元の人だけ。僕らの舞台だと、見せるためにはどうしても盛らなきゃいけないことが出てくるわけですが、実際に行われている神楽には、そういった「うそ」がない。とても神聖なものだと感じました。

―最後に来場者へメッセージをお願いします。

県外の方にももちろん観ていただきたいのですが、何より地元・宮崎の皆さんに足を運んでもらって、地元の魅力を再発見してほしい。それから、この作品の中に描かれる「家族」の中には、それぞれの家族と重なる部分が必ずあると思います。その「気づき」を、家族間で語り合う。そんなきっかけにしてもらえたら嬉しいですね。
あと、僕の宮崎弁は、どうか大目に見てください(笑)。

インタビュー・執筆:九州演劇応援隊 隊員P


宮崎の山間にある集落で、代々その神楽を受け継いできた中崎家。祭りの前日、母・登志子が亡くなった。数年ぶりに集まった家族は、それぞれに問題を抱えている。東京在住の長男・俊一は、自殺が頭をよぎるほど疲弊しているが、家族に悩みを打ち明けられずにいた。実家で暮らす次男・亮二は俊一に神楽の舞手を頼むが、自分にはその資格がないと断られてしまう。やがて夜がふける頃、それぞれが抱えてきた思いが溶け出していく―。

出演は、田中美央(俳優座)、内田淳子、実広健士(ぐるーぷ連)、松本哲也(小松台東)、古賀今日子、森岡光(不思議少年)、片渕高史(宇都宮企画)、成合朱美(劇団SPC)。

チケットは、一般3,500円(くれっしぇんど会員3,100円)、U25割1,500円、ペア割6,000円(くれっしぇんど会員5,400円)。メディキット県民文化センター、宮崎山形屋、宮交シティ、蔦屋書店宮崎高千穂通り、チケットぴあ(Pコード:483-233)での取り扱い。

お問い合わせは宮崎県立芸術劇場0985-28-3208まで。


宮崎県立芸術劇場プロデュース 「新かぼちゃといもがら物語」#2『神舞の庭』

作:長田育恵
演出:永山智行(劇団こふく劇場)
日時:2018年2月28日(水)19:00
       3月1日(木)19:00
        2日(金)19:00
        3日(土)14:00★
        4日(日)14:00
   ★アフタートークあり
会場:メディキット県民文化センター イベントホール(宮崎市船塚3-210)
料金:一般3,500円(くれっしぇんど会員3,100円)
   U25割1,500円
   ペア割6,000円(くれっしぇんど会員5,400円)

【関連サイト】
メディキット県民文化センター新 かぼちゃといもがら物語」#2『神舞の庭』

※情報は変わる場合がございます。正式な公演情報は公式サイトでご確認ください。

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