バカボンド座新作稽古場に潜入!

2018.09.28

9月29日(土)〜30日(日)に、北九州市小倉北区大門のengelで行われる「engel fes ’18」で、バカボンド座(北九州)の新作『美しい国と親愛なる母』(作・演出:渡辺明男)が上演される。

昨年11月に上演された『子どもに見せてはいけない祭り』から約10か月ぶりとなるバカボンド座の新作は、30分程度の短編。およそ半月という集中した稽古期間で作られるこの作品。稽古開始4日目の稽古場に潜入し、稽古の様子を探った。

この日は作・演出の渡辺明男が仕事で稽古場入りが少し遅めであったため、稽古開始まで各々が自分のペースで過ごしていた。台詞を覚える者、ストレッチをするもの、お菓子を食べ続ける者。他の俳優が後半を覚えるなか、お菓子を食べ続ける者は1ページ目を熱心に覚えていた。

お菓子を食べる者

渡辺が来て、稽古はクライマックスのシーンから始まった。まだ1ページ目を一生懸命覚えている段階の者もいる中、いきなりのクライマックス。台本を片手に持ってはいるものの、全員あまり台本を見ずにシーンを作っていく。渡辺は、役の心境なども説明しつつ、丁寧に立ち位置や動きの注文をつける。時には自ら動いてみせる。

丁寧に演出をつける渡辺

休憩に入り、渡辺にいくつか質問をしてみた。

ーまず、今回の作品がどういうお話か聞かせてもらえますか?

渡辺 タイトルにもあるように、「美しい国」……日本の話ですよね。

ータイトルを見て、思想的に右寄りの話なのかな、と思っていましたが、稽古を見た限りだと、そうでもないのかな? でも右っぽい台詞もあったしな、どっちなのかな、と思ったんですが……。右とか左とかっていうよりも、以前渡辺さんとお話した際に「自分としては王道に行きたい、行ってるつもりだけど自然とズレる」ということを言われていたのがとても印象に残ってるんですけど、そういう意味で「まっすぐ真ん中を行ってる」っていうことなのかなと思いました。

渡辺 あ、そういう政治的な話します?(笑)個人的には左に寄っても「お父さんに文句言ってるだけ」くらいの威力しかないと思ってて。あとは本気になっても過激派になるしかないじゃないですか。そういう、口先だけというか、テーマだけ「社会を変えたい!」みたいなことを言って「そうだ! 変えられるんだ!」で幕が下りる、みたいな、「なんやそれ、言っとるだけやないか」みたいな。そういうのは嫌いなんですけど。かと言って明らかに別にいまの体制をいいと思ってはないなこのひとたち、という話ではあります。

ーなるほど。

渡辺 「ニュートラルです」とか言ってカッコつけるつもりもないんですけどねえ。「中立です」とも思ってないし。俺は俺でひっくり返したいみたいな部分も持ってるだろうし。でも、まあそういう話です。いまの日本っていうか。それを、ディスらずに、かつコミカルに、真面目な顔してやるんじゃなく表現できないかなというのは、書きながら思ってました。……あとは上演するのが公共の劇場とかじゃないので、engelでならここまでやってもいいやろ、みたいなことは考えますねえ。

ーそういうバランス感覚みたいなのが、実はすごくありますよね。

渡辺 1回公共の場でやって怒られた(※1)けですね。

※1)1回公共の場でやって怒られた
2012年、第2回公演『見晴るかす金鳳花』を公共劇場の稽古場で上演した際、ちょっとなんかあった。

ー(笑)

渡辺 みんなから何か一言的なやつはいいですか?

ー(笑)じゃあ、みなさん稽古4日目とのことですけど、いまの感触はどうですか? まずは遠路はるばる宮崎から、バカボンド座初参加の田原さんから。

田原 楽しいです。普段あんまりやったことがない稽古だと思います。いままではあまり言われないというか、自由度が高すぎることの方が多かったんですけど、バカボンド座は(渡辺)明男さんの演出が細かくついて、私が気の利いたおもしろいことをパパパッとできるタイプじゃないので……。自分が得意じゃないことをやる、というのは楽しいです。ありがたいしうれしいし楽しいです。一個の考え方に固執しちゃうとよくないなと思ってたタイミングだったので。

ーじゃあ次はバカボンド座2回目の荒木さん。台本の書き込みがすごい!

荒木 いやいや……。すごく濃密なので、「あ、まだ4日目か」という感覚です。自分が前にお芝居に出たのが1年前なので、ブランクもあり。言われたことをその場で書き込まないと覚えられないタイプなので、どんな些細な一語一句もメモは取ろうと思って。不器用なりにみなさんの足を引っ張らないように、みなさんといっしょに作るものだと思っているので、みなさんと一緒に……本番でいきなり全く違うことをやらないように、がんばりたいと思います。

ーでは次高野さんお願いします。バカボンド座は出演何回目ですかね?

高野 2回目です。

ーえっ! 2回目? もっと出てるイメージがあった。

高野 えっ。よくいっしょに遊んでるからかな。1回目は喉枯らして終わった(※2)っていう……。だからずっと呼んでもらえなかったのかな……。

※2)1回目は喉枯らして終わった
高野は2016年、バカボンド座の天地創造シリーズ『歩くモーゼと原人』に出演。喉を酷使し、本番で声が枯れていた。

ーいまは「台詞覚え脳」になってると聞きましたが。

高野 そう。最近は台詞がスラスラと入ってきて。でもその代わり日常生活のことが頭にまったく入らなくなってて。さっき出したハンバーグをお弁当に入れようと思ったら、どこに行ったか思い出せないみたいな。気がついたら後ろにあるんですよ……。

ー今回2年ぶりのバカボンド座出演とのことですが、2年前と比べてどうですか。

高野 成長した感はまったくないんですけど、前回は明男さんが書く謎の造語、「ぎゃぷー」みたいな、あれをナチュラルにしてみたらバカボンド座ってどうなるんだろうと思ってやってみたら、全然しっくりこなくて。「あ、バカボンド座って全然ナチュラルにしない方がいいんだなあ」って思って(笑)。

ー(笑)

高野 思いっきり別次元でやった方がいいんだなというのは学びました。ナチュラルな役者とバカボンド座をかけあわせてもだめだ、コラボレーション意味なかったなって(笑)。

ー(笑)

高野 いや、「なんで私が呼ばれたんだろう」って考えたんですよ。でも結果出なかったな……みたいな。なので今回は前回を踏まえて、最初から乗っかっていこうと思っています。

ーじゃあ最後は飯野さんお願いします。

飯野 楽しいです。よし。

ー稽古見てると、演出がすごく細かったのがイメージと違ってびっくりしました。

渡辺 ほんとはあんまいろいろ言いたくないんすけどね。「こうした方が面白いんやないかな」っていうのを思いついたら言うんすけど……役者は「嫌」とは言わんやないですか。「それは……やりたくないです」とか。

ーそうですね。

渡辺 いろいろ言って、「ほんとはこれやりたくないんだけどな」とは思ってほしくなくて。それならちゃんと「やりたくない」って言ってほしいというのがあって、あんまり言いたくないとは思ってるんですけど。

ー欲しい画が結構はっきり見えてる感じがしましたね。

渡辺 ああー……。
田原 明男さんマンガ描いてるからかなあと思いました。

ーあー! 確かに。構図はきちんと見えてるというか。

渡辺 そうなんすかね。


そうしてまた稽古時間ギリギリまでシーンを作り込んでいたメンバーたち。バカボンド座はいまの日本をどう捉えているのか。ひさしぶりの新作に期待したい。

出演は、荒木喜成(宇都宮企画)、飯野智子、高野由紀子(演劇関係いすと校舎)、田原光。

料金は無料だが、engel fes’18へ入場はチャージ料等が必要。

engel fes’18へのお問い合わせはcafeandmusik@gmail.comまで。


engel fes’18参加作品
バカボンド座『美しい国と親愛なる母』

作・演出:渡辺明男
日時:2018年9月29日(土)19:00ごろ
        30日(日)16:00ごろ
会場:engel(北九州市小倉北区大門2-7-5)

【関連サイト】
バカボンド座
engel

※情報は変わる場合がございます。正式な公演情報は公式サイトでご確認ください。

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