下鴨車窓、3年ぶりの福岡・北九州公演
下鴨車窓(京都)が『微熱ガーデン』(脚本・演出:田辺剛)を2月9日(土)~10日(日)に福岡市南区大橋のゆめアール大橋 大練習室で、2月11日(月・祝)に北九州市八幡東区枝光本町の枝光本町商店街アイアンシアターで上演する。
パクチーを育ててるんだと彼女は嘘をついた
とある地方の寂れた町。結のアパートは町の真ん中からさらに離れたところにある。鉢植えばかりになった小さな和室にももう慣れた。慣れたというより違和感に悩む余裕がなかった。
種まきから収穫まで淡々と、けれども抜かりなく育てる日々。大学の授業も抜かりなくこなす日々。
そうしてすべてにおいて抜かりなくやっていたはずなのに、いつの間にか取り返しがつかないことになっていると気づいたある日。
空は曇天の冬、乾いた田んぼ、つい口ずさんでしまったジングルベル。
京都を拠点に活動する下鴨車窓が、3年ぶりに福岡と北九州で公演を行う。公演に先駆けて、下鴨車窓主宰の田辺剛と、78produce(福岡)主宰の宮園瑠衣子による対談を行った。
ー自己紹介をお願いします。
田辺 田辺剛です。下鴨車窓という演劇ユニットをやっています。下鴨車窓は、今年でちょうど活動15年、演劇は20歳から始めたので23年になります。京都を拠点に活動していますが、実家は福岡です。下鴨車窓はユニット形式で、その都度出演者やスタッフを呼んだり、オーディションしたりして創作しています。劇団員は特にいなく、私一人でやっています。10年くらい前から積極的に京都以外での公演をするようになりました。福岡は今回の『微熱ガーデン』で4度目、北九州は2度目の公演になります。
宮園 宮園瑠衣子と言います。劇作家です。もともとお芝居はよく観ていたんですけど、北九州芸術劇場がオープンした時に戯曲講座をやってて。その時の講師が飛ぶ劇場の泊(篤志)さんで。気軽に参加してみようと思ったのが演劇との出会いです。
ー田辺さんは、演劇は福岡にいらっしゃた時からやっていたのですか?
田辺 いえ、京都に出てからです。僕が福岡にいた時はまだ、ぽんプラザホールもなくて、当時はキャビンホール(※1)があった記憶があります。九州を出るまで、演劇をやっていなかったから九州の演劇情報がなくて。ぽんプラザもできて九州や福岡の演劇がなんだか盛り上がっているのがこちらにも届いてきて、10年くらい前に鹿児島で行われた九州演劇人サミット(※2)に参加して、九州の演劇事情を知り、繋がりもできました。
(※1)キャビンホール 福岡市大名にあったホール。1998年閉館。閉館まで音楽ライブなど福岡の文化の発信地となっていた。 (※2)九州演劇人サミット |
ー田辺さんが演劇に関わることになったきっかけを教えてください。
田辺 もともとは大学で哲学の研究者になりたくて。ただ、当時は就職氷河期で。すごく優秀な先輩が就職できない暗い時代で、大変だなと思ってて。演劇やりはじめて、戯曲を書いてて、3作目で劇作家協会の新人戯曲賞(※3)の最終候補に残ったりして。研究の道より、劇作家の道の方が茨の道だけどやりがいがある感じがしました。
ー宮園さんは、泊さんの戯曲講座後はどのような活動をされたのですか?
宮園 私は、泊さんの講座の翌年に坂手さん(※4)の戯曲講座を受けまして、そこで衝撃を受けました。講座が終わって「遊び半分で書いてるんじゃ楽しくないだろう」と思って書いたのが『よかっちゃん』という短編戯曲です。その戯曲がかながわ戯曲賞(※5)の最終候補に残ったことで、福岡の演劇関係者の方々と繋がりが出来ました。次に書いた『春、真夜中の暗号』が九州戯曲賞の最終候補になって、ぽんプラザの10周年記念でこの2作品を連続上演(※6)してくださいました。
ー戯曲講座を受けたのがきっかけで、劇作家、演劇の道に?
宮園 はい。それまでは東京や大阪の演劇を観劇するという感じでしたね。
(※3)劇作家協会の新人戯曲賞 一般社団法人日本劇作家協会が主催する戯曲賞。田辺は『その赤い点は血だ』で第11回の大賞を受賞。宮園瑠衣子は第18回に『偽りのない町』で最終候補に残った。 (※4)坂手さん (※5)かながわ戯曲賞 (※6)ぽんプラザの10周年記念でこの2作品を連続上演 |
ー田辺さんに聞きます。上演作、『微熱ガーデン』はどのような作品ですか?
田辺 昨年、京都・札幌・津と3か所で公演が終わりました。2月に、福岡と北九州と公演して計5か所のツアー公演です。
宮園 初演を2016年にされているんですよね?
田辺 初演を2016年の暮れに行って、2年越しの上演ですね。若い俳優らと一緒にやろうと思って書いた作品で、当時のメンバーは学生劇団にいる方とか、大学卒業したての方とか。今回のメンバーは総入れ替えで、オーディションで新たに集まった方です。当時のメンバーにあてて書いたので、今回のメンバーは多少難しかったと思います。
宮園 当時の出演者の雰囲気、イメージを膨らませて書いたんですか?
田辺 そうですね。半年くらい時間をかけて、当時の俳優にビジュアルを合わせましたね。
ー作品の中身について教えてください。
田辺 作品を書こうと思って大まかな筋、ネタみたいなのを考えていたときに、ご存知かも知れませんが、「ブレイキング・バッド」(※7)というアメリカでヒットしたテレビドラマを見てまして。それが面白くって影響を受けてしまいました。単純ないきさつで申し訳ないんですけど(笑)。女子大生がすごい大きな売春組織を率いている話にしようかとか思ったりして(笑)。で、いろいろ構想を練ってて、「安アパートの一室」とか、「大学生」っていうのがあって。大麻……とは舞台では一言も言わないんですけど、パクチーとかハーブか言うんですけど、15個くらいのバケツに植物を育てているという。
宮園 実際は、何を使っているんですか?
田辺 あれはパセリ。パセリの造花を使っています。
宮園 へーー! そうなんですか?
田辺 バケツ15個にパセリの造花を突っ込んだら、パセリとは見えない。大麻は……大麻とは一言も言ってませんが、本物は葉がギザギザしているんですよね(笑)。いや、それはいいんですけど。演劇を作るときに、舞台の上に人がいるだけでなく、物もあってほしいっていうのがあって。で、大麻……「植物」がある、と。これは、戯曲とか演出のテクニックになってくるんですけど、そこに実際に物があるのとないのとでは、できることが全然違ってきて。
(※7)「ブレイキング・バッド」 米国とカナダで放映されたTVドラマ。ゴールデングローブ賞、全米映画俳優組合賞など多くの賞を受賞している。日本でも放映され人気を博した。主人公は、アメリカ田舎町の高校化学教師。自身が肺がんに侵されている事を知り、死ぬ前に家族に財産を残すため主人公は化学の知識を活かして合成麻薬の密造を決意する。密造された合成麻薬をめぐって様々なトラブルに巻き込まれ、家族を守るために決意した行動が家族の絆を壊し、主人公自身も変貌していくというストーリー。 |
ー宮園さんは12月に上演を終えたばかりですね。
宮園 はい。
ーこれまでは、外部から演出家を招いて上演されていましたが、12月の『谷間の姫ゆり』では演出も担当されています。作・演出をご自身で行った意図などはありますか?
宮園 私が自分の作品をやる時は「78produce」として、これまで外部から演出家を招いて上演してきましたが、少し活動に間が空いてしまって。観客との距離間、触れ合いがなくて、書くモチベーションがちょっと下がってたんですね。どうしようかと考えたときに、「78produceでセルフプロデュースをすれば、劇作家としてのモチベーションが上がるんじゃないか」と思って『谷間の姫ゆり』を自分で演出しました。
ー書いて自分で演出することで、得られたことはありましたか?
宮園 まず、俳優と関われたというのが大きいです。俳優って最初に戯曲に触れる読者なんだと。俳優とのディスカッション、役についてとか、戯曲に書いてない場面を役者と思いを巡らせて、「こういうことがあったのでは」みたいな話ができたこともよかったですし、上演したときにアンケートの回収率が高かったのはびっくりしました。うれしかったです。そういったことに励まされたのが大きいです。
田辺 反応があるってのはいいですよね。ネガティブなこともふくめて、励みになりますね。
ー宮園さんは次回作の計画はありますか?
宮園 あ! そうなんです。毎回演出家を探しているんですけど、お陰さまで『谷間の姫ゆり』を観劇した演出家から、私の戯曲に興味があると声をかけてくださって。
田辺 それはよかったですね。
宮園 はい、今年の秋に新作をやる予定です。
田辺 いやー、それは作家冥利につきますね。……いやーなかなか、書けなくてねぇ。
ーえ?
田辺 いや、ほんとに。ほんまどうしようかと思います。
ー何年書いていらっしゃるんですか?
田辺 20年くらいですかね。書くの、難しいですね。よく言えば自分に厳しくなったんでしょうけど。また似たようなこと書いているなとか、チェック機能が厳しくなったのかもしれない。なんか書くのが面倒臭くなっているのもあるし。時間をかけないと書けない。
ーこの先の計画はありますか?
田辺 今年、新作のプロジェクトを始めようと考えているんですけど、試演会……試しにやってみるということを繰り返しながら形にしないと、消耗するというか。追い付かない……とまでは言わないんですけど、ちょっと納得のいく創作方法を試してみたいですね。アイデアの貯金を切り崩しすぎたのかもしれません(笑)。
ーじっくり創作をしたい?
田辺 そうですね。勉強しながらとか、考える時間がほしいとか。じっくり取り組まないと半端になりそうで。……尿酸値が高かったりするんですけど、「尿酸値高いなあ、いつまでやってられるかなあ」とか考えたりしてね。無呼吸症候群なんですよ。
ーなんの話ですか?(笑)
宮園 (笑)
田辺 いや、もう「人間どうなるかわかんないなー」って思いますよ。一作一作の重みが増してきて、「これが最後くらいのつもりでやらないと」っていうのはあります。数打ちゃ当たる時代は終わったなと思って。蛇口ひねってもジャバジャバ出てこないし。
宮園 (笑)
ー宮園さんから、田辺さんになにかありますか?
宮園 作家の視点に興味があって。最近観るお芝居も、構成とか、どういった視点で書かれているのかを考えてしまいます。
田辺 同時に複数という感じはあります。上から俯瞰している視点と、登場人物と同じ目の高さの視点。あとは、客席ですね。うまくこの3点がすれ違うとか交わるとか。最近は、少し引いて見ている視点が強い感じはします。戯曲講座とかやっているので、少し引いた視点が強くなってきたのかな。……ちょっとつまんないかも。
宮園 次の台詞が劇作家として出ないときに、私は「どう視点をもっていこうか」と思う方で。
田辺 視点というか、論理的な会話でなく、脈略もなく文脈とは関係ない会話もありますよね。
ー会話ってよく聞くと結構成立してないんですよね。
田辺 そうそう。「尿酸値の話とか聞いてないわ!」みたいな。会話って「AだからB、BだからC」という文脈がいつもきちんとあるわけじゃなくて。頭で考えた言葉じゃなくて、思わぬ転がりが生まれておもしろいっていうのはありますよね。
ーでは最後に、mola!をチェックしている方へメッセージをお願いします。
田辺 3年ぶりの福岡・北九州の公演です。前回の作品『渇いた蜃気楼』はアラフォー世代の物語でしたが、今回の作品『微熱ガーデン』の登場人物はみな20代半ばくらいの設定です。ただその物語は若者の視点だけで描かれたのではなく、わたし自身がもう中年ということもあり、若者とかれらを取り巻く環境を引いた視点で見て、孤独や悪を描いたものになっています。前作よりも具象性が強い作品で、若い人はもちろん、もっとお兄さんお姉さん世代の方にもご覧いただければと思います。福岡はわたしが育った街でもあるので、これからもできるだけ頻繁に公演できればと思ってまして、そういう意味で『微熱ガーデン』次に繋がる作品になればと思っています。ぜひご覧ください!
宮園 田辺さんの戯曲『微熱ガーデン』は電子書籍で読みましたが、じわりとたたずむ悪がどのように上演されるのかとても気になりますし、みなさんにお勧めしたい作品です。私の方は、秋に新作の上演を準備をしているところです。早く詳細をお届けできるようにがんばりますので、どうぞよろしくお願いいたします。
出演は、中村彩乃、野村明里、吉田知生。
チケットは、一般2,500円、ペアチケット4,300円、ユース(25歳以下)1,800円、高校生以下1,000円。
お問い合わせは下鴨車窓hello@mogamos.link、050-3709-9538まで。
下鴨車窓『微熱ガーデン』
脚本・演出:田辺剛
料金:一般2,500円
ペアチケット4,300円
ユース(25歳以下)1,800円
高校生以下1,000円
【福岡公演】
日時:2019年2月9日(土)13:00☆/18:00☆
10日(日)13:00
☆トークイベントあり
会場:ゆめアール大橋 大練習室(福岡市南区大橋1-3-25)
【北九州公演】
日時:2019年2月11日(月・祝)19:00☆
☆トークイベントあり
会場:枝光本町商店街アイアンシアター(北九州市八幡東区枝光本町8-26)
【関連サイト】
下鴨車窓『微熱ガーデン』特設サイト
下鴨車窓(Twitter)
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