咀嚼伯爵(第3回)
2021.02.23
【11】毛布
年明け。
皆の顔にゆとりがなくなり、自分のペースで学習する為に欠席する人も増えて来た。
合格者の名前が廊下に張り出され、プレッシャーは募るばかり。
その緊張感のせいか、咀嚼伯爵大活躍!
「噛めかめかめ!」
体重は自分史上最高58キロ!
脇腹・尻・ふとももも、全身ふくふくの肉ぶとんのようだった。
去年の冬あんなに寒かったのに、こんだけ肉がつくと、かなり過ごしやすかった。
肉ってすごい。服であり、鎧であり、毛布であるのだなぁ。
いや、要らんけど。
本物の毛布でいいけど。
終わったら痩せる。終わったら絞る。
呪文のように唱えながら受験本番期間に突入。
食べすぎで痛む胃腸をととのえる胃薬とセンナのお茶を頼りに、なんとか地元の大学に合格。
予備校的には自慢出来る学校ではないだろうけど、
自分の名前が書かれた張り紙を見て、ちょっと安心した。
そして。
緑山さんは、テニスサークルがたくさんある大学に合格していた。
チャラ男は緑山さんが話していた関西の大学。
どうやら無事、別れたらしい。
無事?
うん、無事。
「連絡しあおうね。」
3月。
予備校の廊下で緑山さんとばったり会った。
メガネをコンタクトにして、テニス大学入学準備万端、といった感じだった。
アドレスを交換した。
でも、やりとりをしたのは直後の3回だけだった。
精神病院で親友になった人たちが、退院した途端に連絡先を車の窓から捨てる、という本を読んだことがあったけど、なんだかその場面を思い出した。
合格から入学までひと月ちょっと。
絶対痩せる。せめて始まりの50キロまで。