咀嚼伯爵(最終回)

2021.02.24

【21】前方右・上手前

公演当日。
会場は劇場でなく、普段はカフェだという地下の小さな空間。
そこに平均年齢ハタチくらいの男女がひしめいていた。
どこに座れば…
「あちらのお席にどうぞ!」
黒いシャツの、ハキハキした、言い換えれば遠慮のない、客席整理らしき女子が前方の隅っこの椅子を指した。
ひと息つくと、周囲が見えて来た。
ひとりで来てる人は少なくて、数名で連れ立って来ている「チーム」が多い印象だった。

「え?ロッピョウ観るの初めて?」
「エグいよ。」
「うん、エグい。」
「でも大体救われるから安心して。」
前の席の、10代と思しき男子たちが、間に座った女子にうざったく語っていた。

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