飛ぶ劇場が原点『ジ エンド オブ エイジア』を21年振りに上演
飛ぶ劇場(北九州)が『ジ エンド オブ エイジア』(作・演出:泊篤志)を11月5日(金)~7日(日)に北九州市小倉北区室町の北九州芸術劇場 小劇場で、1月22日(土)~23日(日)に久留米市六ツ門町の久留米シティプラザ Cボックスで上演する。
立っていた 地上で一番高い場所に
生きていた 混沌と渦の中で
九州を代表する劇団として活動を続ける飛ぶ劇場。今年は劇団初期の代表作のひとつ、『ジ エンド オブ エイジア』を上演。劇団の大きな起点となった作品について、20年以上前の初演と再演に出演した北村功治(kitaya505)が聞き手となり、劇団代表で本作の作・演出を務める泊篤志と語り合った。
ー『ジ エンド オブ エイジア』は、1995年に北九州で初演の後、2000年~2001年に北九州・東京・兵庫で再演されています。20年以上前の作品を、なぜ今回上演しようと思ったのでしょうか?
公演の計画をしていたのがちょうど1年前で、まだコロナ真っただ中で、感染症を扱った『ガギグゲゲ妖怪倍々禁』を作ってて、まあ大変だったんですよ。感染予防もそうだしモチベーションも。そんな中、1年後に何か新作を作ってるイメージがぜんぜん湧かなくって、で、劇団員に「再演するんだったらどの演目がいい?」ってアンケートとったら、意外や『エイジア』が人気高くって。
ーベテランメンバーだけでなく、中堅、若手、新人とさまざまなメンバーがいる飛ぶ劇場で、20年以上前の作品が人気なのは意外ですね。
いや、結局『エイジア』に投票したのは古いメンバーだったり、「客として観た」という中堅だったり、「飛ぶ劇の原点らしいから」みたいな理由での投票だったりなんですよ。で、自分も「そう言えばずいぶんやってないし、今だったらどんな『エイジア』を作るだろう?」と思えてきて、21年ぶりの『エイジア』再演を決めました。
再演すると決めたら今度、じゃあ今のヒマラヤを見ておきたいなって思って、上演前にヒマラヤに行こう! と決めた……んですけど、コロナがもうぜんぜん収束しなくって諦めました。週一で近所の山に登ったりジョギングとかしてトレーニングもしてたんですけどね。前は22歳でヒマラヤに登って、高山病とかにもなったりして、今思えば若いから無理もきいてたと思うんだけど、今もう53歳だから、ちゃんと鍛えてないと絶対に無理だと思って。
ー53歳でヒマラヤ行こう! ってのもなかなかだと……。
で、思い出したんですよ。登った時は22歳だったんだけど「大人になって多少経済的に余裕ができたら、ちゃんと登山ガイドとか雇って登ろう」って心に決めてたなーと。だったらやっぱ登らないとな、と。なので、今はコロナで外国とか行けないけど、落ち着いたら本当にチャレンジしようとは思ってます。
ーヒマラヤと聞いてもちょっとどんな所かイメージつかないですね。どんな場所ですか?
世界最高峰のエベレストを擁するのがヒマラヤ山脈で、自分はネパール側から、真っすぐ行けばエベレストまで行ける、通称「エベレスト街道」ってのをずんずん登ってました。エベレストの頂上が8850mで、自分はパンボチェという4000mくらいの所まで行きました。
ー富士山より高いところまで登ったんですね。
まずプロペラ機で2800mくらいまで飛んで、そこから登り始めるんだけど、もうその時点で空気が薄いんですよ。すぐ息切れしちゃって。日本の山を登ってるのともうぜんぜん違う。50歩登って休憩、みたいな。夜も眠れないし。で、3400mくらいのナムチェバザールってところで高山病になりました。頭がガンガン痛いし、めまいっていうか立ってられないみたいな。そこで3日くらいダラダラ過ごしてカラダを慣らして、もうちょっと上まで登った、みたいな感じです。ほんと「ヘタしたら明日生きてないかも」とか思ったり、いやー若気の至りですね。まあでも実際若かったし……なんて言うの? いろいろと心に大きな杭を打ち込まれて帰ってきたわけですよ。
ーその経験を作品にしようと?
当時はそれが演劇になるとは思ってなくって、で数年経って、あ、演劇にできるかもって、ヒマラヤの山小屋に出入りする登山者や現地の人を淡々と描くことで、芝居になるんじゃないかとひらめいて。当時、飛ぶ劇場は小劇場ブームのなごりのような「走ってギャグ言う」みたいなことをやってたんで、そんな渋すぎる芝居やっていいんかなーとは思ったんだけど、ちょうどその年に劇団代表にもなったので、今だ、やっちゃおう、と。
ー初期の飛ぶ劇場ってギャグを言う作風だったんですね……。僕は入団して1年くらいで、この『ジ エンド オブ エイジア』の初演で本格的に舞台に立ったので、「飛ぶ劇=こんな感じの作品」でしたね。
まあでも、後にも先にも公演初日であんなに緊張したことはないですね。お客さんも「あれ?」「いつもと違うぞ?」って思うよなあ、と。これ最後、カーテンコールで拍手くるんだろうか? とビクビクしてて。あの時まだ自分も役者やってて舞台に立ってたから、いやー怖かった。ちゃんと拍手きてホッとしたもん。それまでと真逆のことをやったんだけど、それなりにお客さんにも伝わってて、本当に心の底からホッとしました。
ー2021年版の『ジ エンド オブ エイジア』、前から変わったのはどこですか?
主人公の設定を変えたんですよ。前回までは20代男性で、若い男の自分探しみたいなことになってたんだけど、もう自分探しにはそんな興味なくって。で、50歳前後の女性って設定に変えました。あと秘密の裏設定とかもあるんだけど、それはまあ秘密ってことで。なので主人公の設定が変わると台詞はほとんど手を入れないとダメで、そういう意味では台本は70%くらいは書き換えちゃったのかなあ。全体の骨格は変わらないし、他の登場人物はそんな変わってないんだけど。
ー僕も、主人公がここまで変わると全然別物の作品になっちゃうんじゃないか? と思っていましたが、稽古を拝見して、確かに骨格は変わっていない感じですね。
台本を読み直して、31年前に登ったヒマラヤのことを思い出しました。随所にその場に居た人間ならではのこだわりというか描写が入ってて、あーそうだった、そういう人がいた、そういう空気だった、みたいなことを思い出して、そういうのを当時、ちゃんと書き込んでてよかったなと思いましたね。
ー21年ぶりの上演ってことで、あの頃の演劇への関わり方や劇団の仲間とのことをちょいちょい思い出すんですけど、大変すぎて今じゃ絶対に関われないですね。大変っていう感覚が当時と今とでずいぶん違うんでしょうし、あの頃は「何事も寝ないでやりゃどうにかなる」くらいでしたね。
これ、めちゃくちゃ大変な作品だよ! 初演時まだ若かったメンバーでよくこれを作ったもんだと驚きました。21年前の前回の映像も見たんだけど、すごいちゃんと作ってる! 21年前の舞台って普通「あーがんばってるけど完成度はまだ……ね」みたいに思ったりするし、『エイジア』もどうなんだろう? って思ってたんだけど、前回上演版、めちゃくちゃ稽古してるし、すごい物量の舞台セットとかも自分らで作ってて、そのパワーに驚いたし、まずはこれを越えなきゃ! という、そういう「目指す場所」を稽古前にみんなで見て、気合を入れ直しましたね。
ー本作は、日本語、英語、韓国語に加えて物語の舞台となる架空の「ゴアザーム語」の4か国語でセリフが構成されている作品です。21年前の僕は韓国人の「朴」という役だったんですが、24年前の初演はゴアザーム語を作るチームで、どちらも言葉に苦労しました。今回は多国籍言語を操る大変さなどはありますか?
大変なことしかないですよね。日本語じゃない台詞ばっかり出てくると、大まかに意味は分かっててもすぐには反応できないし、一度言葉の意味を見失うと「今これ何の話? 自分の台詞どこ?」って迷子になるんですよ。だからか、今回役者陣の台詞の覚えが早かったですね。まずは覚えないとマズいぞ! って思ったんでしょうね。まず台詞を覚えて、相手が何を言っているのかを把握してって、通常の役者の作業とだいぶ違った遠回りなことをやってるんだと思います。
あと、稽古序盤は緊急事態宣言中だったし稽古場が20時に閉まっちゃったり稽古時間も足りなかったし、焦ってたなあ。稽古序盤は、こんなの本当に演劇になるのか? って不安になってましたよ。
ー本作自体の大変さとコロナのダブルパンチだ。
さすがにもう芝居もカタチになってきたんだけど、やっぱ今の役者陣で作ると今の飛ぶ劇場の芝居になるんですよ。当たり前かもしれないんだけど。自分の演出は「ヒマラヤへのこだわり」はきっと前回よりは薄くなってるんじゃないかな。時間も経ったし。その分、ひとつの舞台作品としてより多くの人に楽しんでもらえる仕組み……みたいなのは増してるんじゃないかと思います。そういう意味では前回とはずいぶんと雰囲気は違うんじゃないかな。そんな前回を観て覚えてる人とかほとんどいないと思うけど。
ー最後に、mola!をチェックしている方にメッセージをお願いします。
普通の観劇と違って「体験」みたいな観劇になるんじゃないかなあと思います。ホントにヒマラヤの山小屋に自分も居るような。なるべく前の方に座って、その世界にどっぷり埋没してほしいですね。
出演は、桑島寿彦、内山ナオミ、木村健二、葉山太司、中川裕可里、脇内圭介、文目卓弥、佐藤恵美香、酒井望加、德岡希和、乗岡秀行、林泰輝、松本彩奈(北九州公演のみ)。日替わり出演に、宇都宮せいや(11/5(金))、藤原達郎(11/6(土))、角友里絵(11/7(日)・1/22(土)・1/23(日))。
チケットは、一般2,800円(当日3,000円)、学生1,800円(当日2,000円)、高校生以下1,000円(当日1,200円)。取り扱いの詳細は飛ぶ劇場サイト参照のこと。
お問い合わせは飛ぶ劇場info@tobugeki.com、080-3901-5373まで。
飛ぶ劇場 Vol.43『ジ エンド オブ エイジア』
作・演出:泊篤志
料金:一般2,800円(当日3,000円)
学生1,800円(当日2,000円)
高校生以下1,000円(当日1,200円)
【北九州公演】
日時:2021年11月5日(金)19:00
6日(土)14:00/18:00★
7日(日)14:00
★…アフタートーク実施
会場:北九州芸術劇場 小劇場(北九州市小倉北区室町1-1-1-11)
【久留米公演】
日時:2022年1月22日(土)18:00★
23日(日)14:00
★…アフタートーク実施
会場:久留米シティプラザ Cボックス(久留米市六ツ門町8-1)
【関連サイト】
飛ぶ劇場
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