「みまた・演劇物産展」スタート、無色透明・PUYEYが登場!

2017.08.13

三股町立文化会館(三股町)が「みまた・演劇物産展2017夏」を立ち上げ、 #1に舞台芸術制作室 無色透明(広島)『のちの白鬼』(演出:岩﨑きえ)を8月18日(金)~19日(土)に北諸県郡三股町五本松のあつまい劇場で、#2にPUYEY(福岡)『執活(しゅうかつ)』(演出:高野桂子)を9月3日(日)に北諸県郡三股町樺山のえき劇場で上演する。

みまた・演劇物産展2017夏#1 舞台芸術制作室 無色透明『のちの白鬼』 みまた・演劇物産展2017夏#2 PUYEY『執活』

宮崎県の中南部に位置する人口約25,000人の街、三股町。この街で「まちドラ!」など、舞台芸術に特化した催しを発信してきた三股町立文化会館が、新たな演劇イベント「みまた・演劇物産展2017夏」を仕掛ける。このイベントのディレクターである永山智行(劇団こふく劇場)と、参加団体から舞台芸術制作室 無色透明の岩﨑きえ、PUYEYの高野桂子に、企画のこと、作品のことなどを聞いた。

ー永山さんに伺います。ここ数年、三股町に九州内外から観客やアーティストが集っており、「三股が面白い!」とちょっとした噂となっています。現在の三股の演劇シーンについて教えてください。

永山 2001年に開館した三股町立文化会館(※1)は、劇団こふく劇場をフランチャイズのカンパニーとし、当初より、種々の演劇事業を共に企画・展開してきました。「まちドラ!」の前身の「ヨムドラ!」というリーディング公演事業では、九州各地の劇団などに戯曲講座作品の上演を依頼したり、また宮崎県立芸術劇場が企画していた「演劇・時空の旅シリーズ」(※2)も、ツアー公演先として、2回受け入れをしてきました。そして2012年には、いよいよ演劇フェスティバル「まちドラ!」がスタートし、それまで以上に九州内外の演劇人たちが集う劇場になっていきました。当然、劇団やユニットのツアー先としても、検討していただける機会も増え、これまでも札幌、三重、京都、福岡、熊本などのカンパニーが作品の上演地として三股町を選んでくださいました。今後も、劇場と劇団が共同している劇場として、全国各地のみなさんに気軽においでいただけるような場所であれたらと願っています。

ー「みまた・演劇物産展」とはどのような企画でしょうか?

永山 たまたま同じような時期に、今回参加の2団体の方から三股町で上演をしたい旨のご相談をいただき、それならば連続企画として上演した方が、これまで三股町でやってきた演劇事業のストーリーとしても、みなさんに受け入れていただけるのではないかと思い、新しくこの企画をはじめることにしました。旅先でその土地の美味しいものをいただくように、三股町で各地の美味しいものを召し上がっていただける、そんな企画になればいいなと思っています。

ー参加する2団体について教えてください。

永山 舞台芸術制作室 無色透明の岩﨑きえさんとは、彼女が所属していた山口県の劇団が企画した演劇祭にこふく劇場が参加した時に出会いました。その後、広島に戻られてからも、こふく劇場の広島公演の受け入れなど、劇団と地元制作スタッフとして長くおつきあいをさせていただいています。そんな彼女が久しぶりに女優として舞台に立つ、しかもひとり芝居で。それをわたしたちの地元で観られるということでほんとうに楽しみにしています。PUYEYの高野桂子さんは、実は日田三隈高校演劇部の生徒として舞台に立っていた姿をたまたま観ていました。その後、福岡でばったりと再会し、それからのつきあいです。その後、彼女がプロデューサーをしていた「ひた演劇祭」(※3)にも呼んでもらったり、女優として「演劇・時空の旅シリーズ」に出演してもらったりという関係でしたが、今年はいよいよ「まちドラ!」にもツアー・コンダクターとして参加してもらいました。PUYEYとしての作品を観るのはわたしもはじめてなので、とても楽しみにしています。

ー参加団体の高野さん、岩崎さんに伺います。ご自身の団体はどのような団体ですか?

岩﨑きえ

岩﨑 「舞台芸術芸術室 無色透明」は広島で、小劇場演劇を中心とした、パフォーミングアーツの企画制作事業を行う制作事務所です。広島市を拠点に、西日本を中心とした制作ネットワークを生かし、公演事業をシェアしたり、ツアーの受入制作などをしています。また、地元で俳優育成のための長期講座の主催、エイブルアート(※4)への参画、ダンスなど、活動の幅を広げています。
高野 「PUYEY」は高野桂子と五島真澄による、福岡県を拠点に活動する演劇ユニットです。上演する空間、観客の年齢や国籍にかかわらず、観たらちょっぴり生きやすくなる作品を発表すべく活動しています。「PUYEY」の語源はタイ語で「わたげ」という意味の「PUY」に、エイ!と勢いをつけるため「EY」をつけた造語で、「たんぽぽのわたげのように風に乗って各地へ飛んでいき、落ちたところで花を咲かせたい」という願いを込めて名付けました。2名のみのコンパクトなユニットという特性上、フットワーク軽く各地に赴き、DIY精神溢れる作品創りを展開しています。

ーそれぞれの活動歴や舞台歴を教えてください。

岩﨑 福岡県の九州大谷短期大学(※5)演劇コース卒業。その後、2003年~2006年に山口県の柳井市という人口3万人くらいの土地で劇団に所属し、役者として下積みをしていた際、同劇団が立ち上げたアートNPOの活動に参画し芸術祭を運営していたことがきっかけで、「制作」というスタッフに出会いました。役者としては2007年青年団プロジェクト『隣にいても一人~広島編~』(※6)(作・演出:平田オリザ)への出演を最後に引退。その後は広島で制作事務所を立ち上げ、制作者として演劇活動をしています。

高野桂子

高野 高野は2015年3月までvillage80%(北九州)という劇団に所属していまして、女優として活動する傍ら北九州芸術劇場のモノレール公演の演出をブルーエゴナク(※7)の穴迫くんと共同で手がけたり、地元大分県で演劇祭のプロデュースや高校の非常勤講師として演劇を教えるなど、地域や教育と演劇のあり方を模索しています。五島はフリーの俳優以外に、イラストを描いたり、ギターによる弾き語りやダンスなど様々な媒体でアウトプットを続けています。日系アメリカ人の母を持っていてバイリンガルであることも非言語の表現に向かっていることに影響を与えていると思います。そんな二人が2016年5月に結成したのがPUYEYです。

ー岩﨑さんに質問です。普段は企画や制作業務をされている中で、一度は俳優活動を引退。今回は俳優として舞台に立たれるとのことですが、俳優復帰に何かきっかけがあったのでしょうか?

岩﨑 えー。非常にお恥ずかしい話なのですがお茶請け代わりに正直にお話しますね(笑)。年間を通していろんな制作事業をしているのですが、常に家計は火の車。それでもどうにかこうにか回してきましたが、去年立ち上げた自主事業でついに大赤字が決定しました。制作の仕事がない中でお金を稼ぐには? と考えたとき、自分にできることは、かつて身を投じていた役者しかありませんでした。少しでも可能性があるなら噛り付こう! と、ひとり芝居を打つに至った次第です。ただ昔と違い、今はスタッフという財産が在ったことが、実行に踏み切れた最大の要因だと思います。
わたしは「赤字が出たら自腹を切ればいい」という考え方が嫌いです。やむを得ずそうなってしまう場合は無論ありますが、採算をとる責任を顧みず、赤字が出たら関わった人間で頭割りね、という演劇はしたくない。なぜなら、ただでさえ我々は社会機構の中で非常に脆弱な存在だからです。演劇で使うお金を演劇で稼ぐことに、まず自分が責任と覚悟をもたなければ、いつまでも演劇活動が社会で市民権を得ることは出来ないし、演劇活動に対価を払えないし払ってもらえないと思っているからです。……という理由で説明になってますでしょうか?

ーなってますなってます(笑)。おふたりに伺います。今回の作品はどのような作品ですか?

岩﨑 前述した芸術祭の2004年の回に参加された2団体の現場担当として、初めて制作スタッフにつきました。この作品はそのうちの1団体、京都の劇団「魚灯」さんが上演されたもので、その小劇場ならではの繊細で力強い作品性に衝撃を受けました。去年、久しぶりに役者をすることになった時、いろんな意味で原点となったこの作品を上演させていただくことにしました。
太平洋戦争末期から現代に生きたひとりの女の話です。大きな時代の流れに翻弄されながら彼女なりの生きる姿が緻密に描かれており、初演から10年を経ても、織り成される台詞から描き出される人間に、色あせない鼓動や衝動があることを演じていて改めて感じ、その魅力を、お客様にお届け出来ればと思っています。
高野 舞台は「北の港町」のフェリーターミナルで、不採用続きの女が「影の絵」を描き続ける路上生活の男と出会ってお互いの価値観が少し更新されるお話です。苫小牧での制作にあたって、完全なよそ者として苫小牧市で生活し街の方々と1から関係性を形成することと、就職活動のイメージを重ねてこの設定を思いつきました。

ーおふたりの三股の印象をお聞かせください。

岩﨑 えー、前述した演劇祭の2004年の回に参加された2団体の現場担当の(笑)もう一団体が宮崎のこふく劇場さんでした。これもまた、わたしにとって大きな出会いでした。こふく劇場は、当時所属していた劇団と作品性も近く、活動環境も似ていて、そしてほぼ同じ年齢の役者ばかりでした。鳴かず飛ばずで、何をやってもダメダメの下積み劇団員だったわたしと違い、のびのびと、そして堂々と劇団で活躍するこふく劇場のメンバーはとても眩しく、うらやましく、妬ましく(笑)。同じような状況でなぜこうも違うのかと、幼い感情が邪魔して、役者さんたちと顔を合わせてもうまく話せないくらい(笑)憧れの存在でした。
退団後もこふく劇場さんとのご縁は現在まで続いています。そんな彼らが拠点とする三股の地に、今回なぜか役者としてお招きいただけたことは、光栄であるとともに、正直非常に恐れおののいています。制作となって、やっと幼い感情から解放され、アーティストと制作として彼らと対等になれたはずなのに、こと役者としてとなると、あのダメダメ時代の自分を彷彿とさせられます。当時全く敵わなかった彼らが育った地で、長く彼らの演劇をご覧になっているであろう皆様に、果たして作品を作品として観て頂ける技量などわたしにあるのだろうか。そんな不安と毎日闘いながら稽古してます。しかし、同じ年にわたしが出会った作品と劇団とが、時を経て不思議な形で結びつく機会がいただけたのも何かのご縁。誠心誠意力の限り演じさせていただこうと腹をくくりました。
一度、三股にお伺いさせて頂いた時はこんなことになるとは露とも思わず、素敵な劇場と素敵な現場と素敵な人たち、そして美味しい鶏とお酒だあ~♪ とすんごくのんきに堪能しました。願わくば、この度も、素敵な人たちと美味しいお酒が飲めますように! その為には三股の皆さまに、良い演劇の時間を過ごしていただくことが必要不可欠なので! がんばります!
高野 今年の5月にまちドラ2017にツアーコンダクターとして参加させていただいた時に、お客さんの前のめりで演劇を楽しむ姿勢に驚きました。それはもう、常軌を逸していました。いい意味で。劇団きらら(熊本)の池田さんが三股のことを「演劇温泉」とおっしゃっていて、言い得て妙でした。観客も作り手も演劇への熱意でほっかほか。
私たちは「セリフのない紙芝居」という5分くらいのパフォーマンスをレパートリーとして持っているのでランチタイムに披露させていただいたのですが、その時の反応の良さはこのパフォーマンスをしてきた中で過去最高でした。

ー最後にmola!をチェックしている方々にメッセージを!

岩﨑 はじめまして、こんにちは。わたしは九州大谷短期大学出身という事もあって、九州には少なからずご縁を感じております。広島らしい演劇、なんてものは存在しませんので、コレよコレ! というセンセーショナルな売り言葉は持ち合わせておりませんし、当然、真新しい何かができるわけでもありません。ごく普通の小劇場芝居です。
ただわたしはある種、小劇場演劇を偏愛してきて今に至る人間だと思います。そんなわたしが、一体小劇場演劇の何を愛しているのかを、わたしなりにこの約1時間の作品に詰めることができたのではないかなあ、と思っております。それをもし、お客様と共有できたら、こんなに嬉しいことはありません。
そして、劇場に来てくださったみなさまと同じ時間を過ごすということの責任について、普段口を酸っぱくして言っている立場の分、自分がそれに恥じることが無いようにだけは、なにもかもを引き締めて臨みますので、もしご興味のある方は覗きに来ていただけたら幸いです。
高野 自分たちにとって滞在制作は初めての挑戦です。きっと色んな面でキャパオーバーしながら創ることになると予想されます。だからこそ計算外の表現が出てくると思うし、それを“演劇温泉”の三股で九州ツアーを初められるのはとても光栄です。なぜなら、どんなものでも受け止めてくれる度量が三股のお客さんにはあるから。感想は色々あると思うけど、受け止めてくれる。その安心感の中、のびのびと今までの自分たちを更新していきたいと思っています。ぜひ、お越しください。
永山 どちらも狭い会場なので、ご予約などお早めにお願いします。三股町未体験の方はぜひ一度おいでください。ついでに三股駅の横にある物産館「よかもんや」もおすすめですよ。そして、三股町で作品の上演をしたいというカンパニーの方はぜひお気軽にこふく劇場・永山までご相談ください。そんなカンパニーがあれば、この企画も続いていくかと思いますので。金銭的にはあまり支援はできませんが、気持ちとしては熱く支援できたらと思っています。

※1)三股町立文化会館
宮崎県北諸県郡三股町にある、演劇事業に特化した公共文化施設。

※2)「演劇・時空の旅シリーズ」
2009年~2015年に行われた、宮崎県立芸術劇場の企画制作、永山智行の演出による演劇公演。

※3)「ひた演劇祭」
大分県日田市にある公共文化施設パトリア日田で2011年~2015年に行われた演劇祭。高野桂子がプロデューサーを務めた。

※4)エイブルアート
NPO法人エイブル・アート・ジャパンが主導する、障がい者芸術事業。

※5)九州大谷短期大学
福岡県筑後市にある短期大学。演劇を学べる学科、表現学科演劇放送フィールドがある。

※6)青年団プロジェクト『隣にいても一人~広島編~』
2008年に広島市西区横川町の山小屋シアターで上演された公演。

※7)ブルーエゴナク
北九州市を拠点に活動する劇団。


チケットは、一般1,000円(当日1,200円)、高校生以下500円。三股町立文化会館0986-51-3462、舞台芸術制作室 無色透明『のちの白鬼』web予約PUYEY『執活』web予約での取り扱い。

お問い合わせは三股町立文化会館0986-51-3462まで。


みまた・演劇物産展2017夏
#1舞台芸術制作室 無色透明『のちの白鬼』

企画・演出・出演:岩﨑きえ
日時:2017年8月18日(金)19:30
        19日(土)14:00
会場:あつまい劇場(北諸県郡三股町五本松10-6)
料金:一般1,000円(当日1,200円)
   高校生以下500円

#2PUYEY『執活』

作・演出:高野桂子
美術・音楽:五島真澄
構成・出演:高野桂子、五島真澄
日時:2017年9月3日(日)11:00/15:00
会場:えき劇場(北諸県郡三股町樺山4425 JR三股駅構内)
料金:一般1,000円(当日1,200円)
   高校生以下500円

【関連サイト】
三股町立文化会館
三股町立文化会館(Facebook)

※情報は変わる場合がございます。正式な公演情報は公式サイトでご確認ください。

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