特集:九州地域演劇協議会(第2回)

2015.05.10

前回に引き続き(特集:九州地域演劇協議会(第1回)参照)、九州地域演劇協議会の活動を紹介したい。

九州戯曲賞チラシ

現在、九州地域演劇協議会・NPO法人FPAPが主催する「九州戯曲賞」の募集が行われている。福岡、佐賀、長崎、熊本、大分、宮崎、鹿児島に在住、もし くはこの7県を主たる活動の場とする劇作家の戯曲を対象としており、九州から優れた戯曲を全国へ発信することを目的に設立された賞である。

「九州戯曲賞」の大きな特色として、対象地域を「九州」に限定しているという点がある。国内には、岸田國士戯曲賞をはじめとして多くの戯曲賞が存在するが、対象地域を設けている戯曲賞は少ない。あえて「九州」という縛りを設ける理由は、国内の主要な戯曲賞が関西圏より東に集中しており、審査員による観劇が条件という賞もある中で、九州というフレームの中での人材育成を行いたいという九州地域演劇協議会側の思惑があるようだ。

賞を設けた場合、当然だが大賞という部分にスポットがあたりがちになる。「九州戯曲賞」は、第一回から応募者全員に一次審査の講評を届けており、最終選考に残らなかった多くの応募者・応募作に対しても、今以上の創作活動を続けていくためのケアを行っている。このことが実際に血となり肉となった実例として、第6回大賞受賞者である幸田真洋(劇団HallBrothers主宰・福岡)を挙げることができるのではなかろうか。詳しくは、コラム「賞に応募を続けて見えてきたこと」を参照してほしい。

そのような目的で設立されている「九州戯曲賞」は、実際どれくらい九州演劇の才能発掘・レベル向上に寄与しているのだろうか。以下に、「九州戯曲賞」で大賞・佳作などを受賞した受賞者の、その後の活躍をまとめた。

平成21年 第1回大賞受賞者 森馨由(長崎)

・『血の家』が、平成25年 第19回劇作家協会新人戯曲賞優秀賞受賞

平成22年 第2回佳作受賞者 河野ミチユキ(熊本)

・受賞作品である『義務ナジウム』が、平成26年度戦略的芸術文化創造推進事業ステップアップ・プロジェクトに選出

平成23年 第3回大賞受賞者 島田佳代(鹿児島)

・平成26年、大賞受賞作『四畳半の翅音』が、福岡/釜山-劇団・作品交流プロジェクト上演作品に選出
・所属劇団が同作品で初の県外ツアーに
・『乗組員』が、平成26年 北海道戯曲賞優秀賞受賞

平成24年 第4回大賞受賞者 川津羊太郎(熊本)

・平成25年、文化庁 公益社団法人日本劇団協議会主催「日本の演劇人を育てるプロジェクト」に戯曲『虚人の世界』を書き下ろし
・『街に浮遊する信号器』で、平成26年 第2回せんだい短編戯曲賞受賞

平成24年 第4回大賞受賞者 谷岡紗智(福岡)

・平成25年・26年、マレビトの会『長崎を上演する』プロジェクトメンバーとして参加

平成25年 第5回大賞受賞者 後藤香(福岡)

・平成26年、大賞受賞作『タンバリン』を所属劇団で韓国・釜山公演

平成26年 第6回大賞受賞者 幸田真洋(福岡)

・平成26年、所属劇団で大賞受賞作『となりの田中さん』を約2週間に亘るロングラン公演を実施

受賞者のその後の活躍は、当然のことながら、それぞれの才能や努力があったからこそである。しかしながら、「九州戯曲賞」がきっかけとなり劇作家の背中を強く押したという側面もあるのではなかろうか。

九州の才能を発掘する「九州限定」の賞といえども、最終審査は全国で活躍する第一線級の劇作家が行う。我こそはと思う九州の劇作家は、力試しのつもりで応募するのも良いかもしれない。九州が主体的に九州の才能を育成・発掘する土壌が整いつつある現在、「一発当てたければ東京へ」という選択肢自体を否定するつもりはないが、そういった時代は、九州では終わりつつあるのかもしれない。九州地域演劇協議会の目的である「発掘と底上げ」は、着実に成果をあげていると考える。地道な活動であるが、その活動を今後も見守りたい。

なお、「九州戯曲賞」は現在、5月20日(水)当日消印有効で作品を募集している。詳しくは九州地域演劇協議会サイトを参照してほしい。

構成・文章:北村功治(kitaya505)

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