village80%再始動!高山力造インタビュー
village80%(北九州)が『彼女についてわたしたちが知っているいくつかのこと。』(テキスト・演出:高山力造)を6月27日(土)~28日(日)、北九州市八幡東区枝光本町の枝光本町商店街アイアンシアターで上演する。これまで福岡市を拠点に活動してきたvillage80%が活動拠点を北九州市に移し、2年ぶりとなる本公演を行う。本作でテキスト・演出を担当する高山力造に、拠点を移した経緯や北九州の印象、作品のことなどについて訊いた。
―なぜ活動拠点を福岡から北九州に移したのでしょうか?
高山:2012年の「ツドエmeets北九州」(※1)で公演をしたころからなんとなく考えてて。でも、初めはどっちでもいいかこだわらなくてもって感じだったけど、北九州で作品を発表して、こっちのほうが受け入れの間口が広いかなぁって……おぼろげに感じて。
―実際に拠点を移すことにした決定打はなんですか?
高山:やっぱり、北九州芸術劇場の存在が大きい。それと、枝光本町商店街アイアンシアター(※2)ができて、自分たちが創作・発表する環境や小劇場周りの環境が整ってきてる。これからも整っていくんじゃないかと。単純に観たいお芝居や関わりたい企画が結構北九州にあって、気が付いたらここ数年、福岡と北九州をとんでもなく往復してた(笑)。それで、時間のことやお金のことを考えたら、こっちに住んだほうがいいじゃんってなって。そしたら、ほかの劇団員も仕事の都合なんかで北九州に引っ越して。そもそも劇団員が少ないから、半分近くが北九州人って感じで。じゃあ、北九州で稽古したほうが都合がいいし、活動拠点も北九州に移すのが自然じゃないかって流れですね。
―北九州で活動を始めて気付いたことはありますか?
高山:稽古場の豊富さ。福岡市はパブリックな稽古場の使用料が北九州より高い。これが結構バカにならない。福岡市は無料で利用できる青年センター(※3)が飽和状態で、しかもその青年センターが今年度でなくなるらしい。となると、安定的に稽古場を確保するには、パピオ(※4)やゆめアール(※5)などの有料の稽古場を押さえつつ、地域の公民館や知人のツテで借りれる場所を確保するしかないんですけど、そういうのも劇団員の事情でなかなかできなくなったりしてきて……。
あとは、話が飛ぶんですけど若い劇団、イキのよい劇団がいる! できてる! 福岡もいま大学演劇が元気いいけど、こっちは北九州芸術劇場の企画などで集まった人たちが劇団とかユニットを立ち上げてて、それが刺激になる。面白い。
―刺激になる劇団や存在について、もう少し詳しく教えてください。
高山:ブルーエゴナク(※6)は純粋に勢いや、やっている内容とかが刺激にはなっているし、空中列車(※7)とか新しいおもしろい劇団も出てきて……。あとはう~ん、二番目の庭(※8)がやっていたことが、僕たちとしてはすごくシンパシーを感じてた部分があったり。ハシリュウ(※9)とは一緒にschop(※10)っていうユニットを立ち上げて、それって、やっぱり『輪郭、ほどけて隣に。』(※11)で客演してもらって彼から刺激を受けたからだろうし……。あとは……あ! そうそう、永久磁石だ! いまは名前変わってNomad(※12)ですね。いま、僕たちがやっていることの根本とか文脈とか、そういうのを理解してくれるんじゃないかと思うのはNomadですね。そういうのがあって、今回客演でNomadの鈴木春弥くん(※13)に声をかけて。
―本作ではこれまでと違うアプローチでの創作を行っているとか。
高山:演じること、過剰に役になりきることと言えばいいのかな、そういったことに対する疑問や違和感が前々からあって……。決してこれまでの演劇を否定するとかそういうのではなく、それはそれとして認めたうえで、“役を演じる”ってのを極力排しても描けるものはないのか、観客に届けられないのかと考えて、そういった作品を創っています。これは、チェルフィッチュ(※14)の影響は確実に受けていると思うんだけど。語るってことで、演劇が成立するんだってのはわかってて、じゃあ、どう成立させるんだみたいなことを考えていたんだけど、RoMTの『ここからは山が見える』(※15)の太田さんを観た時に、本人にも見えるし、語り手にも見えるって立ち方に衝撃を受けて。ある瞬間は役であり、ある瞬間は語り部のようであって欲しい、俳優には物語を語ってもらう身体、なんて言えばいいんだろう。観客の想像力を後押しするような役割を要求してますね。
―作品の中身について教えていただけますか。
高山:簡単に説明すると俳優自身が持っている経験・エピソードを僕が聞きだして、それを構成して語ってもらう演劇(笑)です。あと、物語の核となる「彼女」は、いるんだけど舞台上には有機的に存在しません! そんな芝居です。
―もうちょっと具体的にお願いします。
高山:ですよね、わかりませんよね。えーっと……あ、制作の北村さんが俳優の肉体改造に突然着手してて、僕は個人的に「キタムラブートキャンプ」って呼んでます。これが、地味なんですけど結構キツいみたいで………。
鈴木:お疲れ様ですー。
高山:あ、春弥、いいとこ来た。今回の芝居ってどんな芝居だっけ?
鈴木:え? えーっと、「桐島、部活やめるってよ」(※16)みたいな芝居です。
一同:おおー!!
―どういった意味ですか?
鈴木:あー、いや、あの映画で桐島って最後まで出ないじゃないですか。そんな感じで、出演はしない「彼女」についてみんながあれこれ語る、そんな芝居です。
高山:そうだ。そんな感じの芝居です。すげえ。
拠点を北九州に移して初めての公演となる今回の作品。北九州で受けた刺激を十二分に反映した作品になることは間違いない。
出演は、橋本隆佑(超人気族)、鈴木春弥(Nomad)、西本晴菜、太田克宜(飛ぶ劇場)、中川裕可里(飛ぶ劇場)、渡口陽子。
チケットは、一般前売2,000円、当日2,200円。 学生(大学・専門学生)前売1,500円、当日1,700円。高校生以下1,000円、当日1,200円。予約はCoRichチケット!、village80%チケット予約フォームから可能。お問い合わせはinfo@kitaya505.com、080-1710-2887(キタムラ)まで。
取材・執筆:北村功治(kitaya505)
(※1)ツドエmeets北九州:2009年~2014年、北九州芸術劇場が「“ツドエにツドエば”ちょっと先の時代が見えるかもしれません」というキャッチフレーズで行ってきた、小劇場系の創作団体をバックアップした事業。参加団体はvillage80%やさかな公団(北九州)などの福岡・北九州の創作団体はもとより、ハイバイ(東京)やままごと(東京)、マームとジプシー(東京)など、当時小劇場界で話題になった団体の作品を上演していた。
(※2)枝光本町商店街アイアンシアター:北九州市八幡東区枝光本町にある客席数80席程度の民間劇場。かつて銀行が入っていた空きビルを、のこされ劇場≡(北九州)が公演やさまざまなアートイベントに活用して以降、コミュニティーアートスペースとして全国的に知られる場所となった。2014年11月より大幅な改修工事を行い、今年6月にリニューアルオープンを果たした。現在、株式会社枝光なつかしい未来が運営している。
(※3)青年センター:福岡市中央区大名にある「福岡市立青年センター」のこと。サークルが無料で利用できることから、福岡市の劇団がよく稽古場として利用している。
(※4)パピオ:福岡市博多区千代にある「パピオビールーム」のこと。演劇、音楽、ダンスなどの練習に使える、さまざまな大きさの貸練習ルームが全部で15部屋ある。有料のため、通し稽古など、ある程度の広さがあるところで行いたい稽古のときのみ利用する団体も多い。
(※5)ゆめアール:福岡市南区大橋にある「ゆめアール大橋」のこと。音楽や演劇などの練習に使える大・中・小練習室が全部で5室ある。
(※6)ブルーエゴナク:北九州を拠点に活動するカンパニー。2012年旗揚げ。第八回公演『POP!!!!』を、6月12日(金)〜14日(日)にアイアンシアターで上演する。
(※7)空中列車:北九州を拠点に活動するカンパニー。2014年旗揚げ。a-miプロデュース公演『摩訶不思議weak end』を、6月20日(土)〜21日(日)に西小倉engelで上演する。
(※8)二番目の庭:北九州を拠点に活動するカンパニー。2000年旗揚げ。アンケートで「劇団と書いているから劇と思って見に来たら、まったくわからないパフォーマンスでした。劇団でないなら劇団と名乗らないほうがいいと思います」と書かれて以降、「劇団」をという冠をはずし現在にいたる。
(※9)ハシリュウ:橋本隆佑。北九州を拠点に活動するカンパニー「超人気族」の主宰。
(※10)schop:高山力造と橋本隆佑が2014年に立ち上げた演劇プロデュースユニット。国内外を問わず既存の名作戯曲の面白さを届けることを目的としている。2014年10月には、岸田國士の『屋上庭園/かんしゃく玉』を上演した。
(※11)『輪郭、ほどけて隣に。』:village80%の第15回公演。前述の「ツドエmeets北九州」参加作品。橋本隆佑がこの作品でvillage80%に客演として初参加し、高山と意気投合した。
(※12)Nomad:工藤菜香と鈴木春弥による、拠点を持たない演劇ユニット。2013年「演劇ユニット 永久磁石」として旗揚げ。2014年に「Nomad」に改称した。
(※13)鈴木春弥くん:棒やアスパラガスのような身体付きが特徴の俳優。
(※14)チェルフィッチュ:1997年に設立された、岡田利規が全作品の脚本と演出を務める演劇カンパニー。2004年に発表された『三月の5日間』が第49回岸田國士戯曲賞を受賞。現代の若者を象徴するような口語を使用した台詞と、だらだらとしたノイジーな身体性が特徴。
(※15)RoMTの『ここからは山が見える』:青年団リンクRoMTの作品。上演時間3時間30分のひとり芝居。東京、福岡、北九州など7か所で上演された。
(※16)「桐島、部活やめるってよ」:朝井リョウの同名小説を原作とした映画。吉田大八監督、神木隆之介主演。とある高校のバレー部キャプテンだった桐島が、部活をやめたことをきっかけに、同級生たちに少しずつ起こる心理の変化を描いた作品。タイトルにもなっている「桐島」は本編には直接登場しない。
village80% 16th『彼女についてわたしたちが知っているいくつかのこと。』
テキスト・演出:高山力造
日時:2015年6月27日(土)15:00/19:00
28日(日)13:00
会場: 枝光本町商店街アイアンシアター(北九州市八幡東区枝光本町8-26)
料金:一般前売2,000円、当日2,200円
学生(大学・専門学生)前売り1,500円、当日1,700円
高校生以下1,000円、当日1,200円
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※記事初出時、タイトルに誤りがありました。お詫びして訂正します。