mola!演劇人インタビュー♯2 永山智行

2015.08.02

九州で活動する演劇人に不定期でインタビューを行うmola!演劇人インタビュー。第2回目は、宮崎県立芸術劇場演劇ディレクターとして「演劇・時空の旅シリーズ」の企画・演出を行い、宮崎発・九州発の演劇を長年にわたり全国へ発信し続ける、劇団こふく劇場(都城)代表の永山智行にインタビューを行った。劇団は今年で創立25周年を迎え、第14回公演『ただいま』で全国6カ所のツアーを敢行する。そんな永山の創作に対する思いや劇団のこと、今後のビジョンなどに迫る。

永山智行

家族について

―まずは自己紹介をお願いします。

1967年宮崎県都城市生まれの現在47歳です。劇団こふく劇場の代表として、劇作と演出を担当しています。劇団は、宮崎県の三股町立文化会館と門川町総合文化会館のフランチャイズカンパニー(※1)として活動しながら、全国での公演、子どもたちとのワークショップや学校公演、障害者も参加するプロジェクト「みやざき◎まあるい劇場(※2)」など、地域の演劇でできることを通して、幅広く活動しています。あと、宮崎県立芸術劇場で演劇ディレクターという仕事をしています。招聘作品の選定、教育普及プログラムの企画、そして自主制作事業の演出など、県の劇場として、演劇・ダンスに関わる事業をどう進めるべきか、日々悩みながら試行錯誤しています。

―家族構成を教えてください。

わたし自身は二人兄弟の次男として育ってきました。現在は、妻とこども四人と暮らしてします。(長男は現在、県外にいますが。)

―その家族構成が自分に与えた影響ってありますか?

家族構成が、というより、家族として、生まれたときからそこにいたはずの祖父、祖母、父、そんな人々がある日いなくなっていくという厳然たる事実に出会ったことが、「いま、ここ、に生きている」という演劇の本質を改めて認識させてくれたのではないかと思います。

好きなもの・影響を与えたものについて

―好きな映画を3本教えてください。

もう、勘弁してほしいです。3本なんて選べないです。でも、しょうがないから選びますが、これはいま、ふと思いついたものなので、明日、訊かれたらきっと違う答えになると思います。

「ハンナとその姉妹」(※3
ウディ・アレンとクリント・イーストウッド(※4)は作品でなく、監督で観たいと思う二人です。つまり、二人の人生に触れたいのだと思います。ウディ・アレンのこの作品は、人間のバカバカしさと、それ故の愛おしさにあふれた作品ではないかと思います。

「バンドワゴン」(※5
ちょうどわたしが高校生だった時に、MGMミュージカル(※6)がまとめてリバイバル上映されていました。フレッド・アステア(※7)。何はともあれ踊るその姿を見るだけで本当に心から楽しくなります。けれど、その向こうにある厳しさに気づいたときに、「芸」というものの深さと恐ろしさに触れた気がします。

「麦秋」(※8
小津安二郎作品。一人の娘が嫁ぐというだけのこの家族の物語がなぜ面白いのか、いまだに考え続けていますし、つくり手の「視点」について、いまだに刺激を受けている作品です。

―好きな本を3冊教えてください。

だから、勘弁してくださいって。もう小説や戯曲で3冊は無理です。評論や随筆の類も無理です。なので、おそらく読む人の少ない演劇論でまとめてみました。でもこれも今日の気分なので、あんまりあてにしないでください。

「何もない空間」ピーター・ブルック(※9
演劇は遊びなんだ、とピーター・ブルックの本を読むたびに、何度も教えられる気がします。「なんにもなくたって、人がいたら、ほら、ここはどこにだってなるし、そんな遊び、楽しいでしょ?」とピーター爺さんはいつまでもニコニコしながら語りかけてくれます。

「舞台の水」太田省吾(※10
とりあえず行き詰まったらパラパラと開き、目についたページを読みます。そこには裸の人間の姿が必ずあるのです。太田さんとは生前一度だけお会いしたのですが、ほんとうに大きい方でした。あ、体もですが、人間性がね。

「地域と演劇 弘前劇場の三十年」長谷川孝治(※11
弘前劇場というトップランナーがいたから、九州のわたしたちもこのトラックを走ることができたのだと思うのです。「生活の中心に演劇を置く」という至言が、生活と演劇の間で悩み生きるすべての人を照らす光のように思えます。

―好きな演劇作品を3本教えてください。

ほんと、もう、それは……。こうなったらあくまで今日の気分にこだわります。今日、ふと、もう一度あの空間に身を置きたいと思った、そんな3本ってことで。でも、もう勘弁してください。

ぐるーぷ連(※12)『光のあしあと~K市レクイエム~』
宮崎の劇団です。阪神淡路大震災のあとに上演されたこの作品に出会って、わたしは宮崎で演劇を続けることを決めたと言ってもいいです。自分たちの小劇場、暗闇に徹底的にこだわった照明、演出の哲学、俳優の身体……、宮崎でも作品は生まれる、ここでやりたいことをやればいい、そう背中を押してもらった出会いでした。

青年団(※13)『南へ』
そこに、わたしがいる、そのことがこんなに心地いいのだと思った観劇体験でした。もちろんそこにあるのは厳しい現実でもあるのですが、それでもとにかくこうして同じ船に乗っているというその時間の豊かさを心から味わったのです。

『エニシング・ゴーズ』
大地真央主演、宮本亜門(※14)演出のミュージカルです。コール・ポーターの音楽はもちろんですが、ストーリーを越えて、植木等、太川陽介らが舞台上を嬉々として走りまわり、踊り、歌う姿が、ああ、いま、わたしはここにいて笑っていると強く感じさせてくれました。

―自分の人生に影響を与えたと思うひとを教えてください。

むしろ出会った人の中で影響を与えていない人を探すのが難しいのかもしれません。ただ演劇に限っていえば、勝手に師匠と思っている人がいて、それは宮崎のぐるーぷ連の演出家・実広健士氏です。もちろん直接的に何かを教えてもらったことなどありません。ただ、師匠と思える人がいると、弟子はその人の一挙手一投足、言葉の端々からどうにか何かを読み取ろうとするものです。そんな弟子的態度を繰り返しながら、わたしという人間の思考は鍛えられてきたのだろうと思うのです。そういう意味でも、ここ宮崎に生まれ、そこには、こうして演劇を続けてきた人たちがいて、そんな人たちと出会ったということが、何よりも有難いことだと思えるのです。

演劇観

―自分が創作をするうえで大事なアイテムを教えてください。

アイテムはないのですが、作品を作っているときは、とにかく普段以上に音楽を聴くことが多いかもしれません。音楽から作品の刺激をもらうこともありますし、何よりも普段以上に「音を聴く」ということへの準備運動なのかもしれません。稽古場で演出家としてのわたしは、俳優がそのことばやからだから発する音に耳を澄ますことを何よりも大事にしているつもりです。

―自分が演出をするうえで大事にしていることってなんですか?

そこに関わるすべての人の、これまで生きてきた人生をまずは受け入れることからはじめようと思っています。例えば俳優は、下半身に自分の人生を、上半身に登場人物の人生を抱えて、いま、そこに立っている、そんなイメージで、そのどちらもが欠かせないものとして、それぞれの味わいになればと祈りながら、作品をつくっています。

ビジョン

―3年後、どうなっていたいですか?

ふだんから他人には「夢や目標なんて持つから、苦しくなるし、何よりもいまを生きることができなくなるよ」と公言している手前、この質問には答えることができません。あえて言えば、みんなが元気で生きていてくれればそれでいいです。

―では最後に、近い時期に関わる公演などの宣伝があればどうぞ。

8月からはじまる劇団の新作『ただいま』は、たぶん、いまお話ししたことがすべてぎゅっと詰まった作品になると思います。劇作家としてはこれまで使っていなかった文体に挑んだ作品でもあります。劇場で、只、今、この時間に生きていることを感じていただけたらうれしいです。


※1)フランチャイズカンパニー
その劇場を拠点として、協同して作品創作やワークショップなどの普及活動を行うカンパニーのこと。こふく劇場は1999年より、三股町立文化会館と門川町総合文化会館のフランチャイズカンパニーとなり、作品の上演以外にワークショップや町民参加作品の創作などを行っている。
※2)みやざき◎まあるい劇場
障がいの有無、演劇経験、年齢などに関係なく、誰もが演劇で遊べることを目的としている集団。2007年発足。
※3)「ハンナとその姉妹」
1986年アメリカ。三姉妹と彼女たちに関わる男たちが繰り広げる様々な人間模様を描いた、ウディ・アレン脚本・監督・主演のコメディ。アカデミー賞で助演男優賞、助演女優賞、脚本賞を受賞している。
※4)クリント・イーストウッド
アメリカの映画俳優、監督、プロデューサー。アカデミー監督賞を2度受賞している。
※5)「バンドワゴン」
1953年アメリカ。「巴里のアメリカ人」のコンビ、製作アーサー・フリード、監督 ヴィンセント・ミネリのミュージカル映画。ハリウッドミュージカル映画全盛期を代表する俳優フレッド・アステアが主演。
※6)MGMミュージカル
アメリカの映画やテレビ番組の製作・供給を行う企業MGM(Metro Pictures Corporation)が製作したミュージカル映画。1940〜50年代にアカデミー賞を多数受賞し、MGMミュージカルはこの時代の娯楽映画の代名詞となった。
※7)フレッド・アステア
ハリウッドのミュージカル映画全盛期を担った、アメリカの俳優、ダンサー、歌手。
※8)「麦秋」
1951年日本。小津安二郎監督、原節子主演。「晩春」「東京物語」を加えた「紀子三部作」の2本目にあたる作品。
※9)ピーター・ブルック
ピーター・スティーヴン・ポール・ブルック。イギリスの演出家、演劇プロデューサー、映画監督。世界の演劇界の巨匠。
※10)太田省吾
日本の劇作家、演出家。「転形劇場」主宰。『水の駅』など無言劇と呼ばれるジャンルを生み出した。
※11)長谷川孝治
日本の劇作家・演出家。弘前劇場主宰。
※12ぐるーぷ連
劇団ぐるーぷ連。1973年より活動している宮崎の劇団。
※13青年団
東京のこまばアゴラ劇場を拠点に活動する、平田オリザ主宰のカンパニー。現代口語演劇といわれる演劇理論は、90年代以降の日本演劇界に大きな影響を与えた。
※14)宮本亜門
演出家。手がけるジャンルはミュージカルやストレートプレイのほかに、オペラ・歌舞伎・和太鼓など幅広い。


劇団こふく劇場 第14回公演『ただいま』

作・演出:永山智行
出演:あべゆう、かみもと千春、濵砂崇浩、大浦愛、大迫紗佑里
料金:一般2,500円(当日¥3,000)
   ペア4,000円(前売・予約のみ)
   U‐25割1,000円(前売・当日共に)
   やさい割2,000円(前売・予約のみ)
   ※U-25割は、チケット精算時に要身分証提示
   ※やさい割は、家庭で収穫された野菜を上演日に持参で500円引き

【三股公演】
会場:三股町立文化会館(北諸県郡三股町大字樺山3404-2)
日時:2015年8月7日(金)19:30
        8日(土)14:00/19:00
        9日(日)14:00☆
   ☆アフタートーク開催

【北九州公演】
会場:枝光本町商店街アイアンシアター(福岡県北九州市八幡東区枝光本町8−26)
日時:2015年9月12日(土)14:00/19:00
        13日(日)14:00☆
   ☆アフタートーク開催

【門川公演】
会場:門川町総合文化会館(宮崎県東臼杵郡門川町南町 6-1)
日時:2015年11月21日(土) 19:30
        22日(日) 14:00☆
   ☆アフタートーク開催

【その他、九州以外のツアー公演地】
9月26日~27日 津あけぼの座(三重)
12月5日~6日 シアターねこ(愛媛)
12月19日~23日 こまばアゴラ劇場(東京)

劇団こふく劇場 第14回公演『ただいま』 劇団こふく劇場 第14回公演『ただいま』

【関連サイト】
劇団こふく劇場

Social Share