泊篤志(飛ぶ劇場)『百年の港』インタビュー
門司港×飛ぶ劇場がvol.37 『百年の港』(作・演出:泊篤志)を11月26日(木)~29日(日)、北九州市門司区西海岸の旧大連航路上屋2Fホールにて上演する。
100年前、そこに港が生まれた。たくさんの人が集まってきた。駅舎ができた。銀行も学校も映画館もできた。男がいて女がいた。青春があり愛憎があった。人が増え産業が活気づいた。そんな渦中に余所の土地から一家がやって来る。この地で一旗揚げようというのだ。しかし景気が良かったのもつかの間、やがて訪れる衰退の日々。バラバラになる家族。寄せては引いていく波の様な人々。数々の物語が生まれ消えていった……。飛ぶ劇場が門司港の歴史とがっぷり四つに組む、新たな舞台。
これまでの作品とガラリと異なる印象のある飛ぶ劇場の新作『百年の港』。本作を描こうと思った経緯や見どころなどを、作・演出の泊篤志に訊いた。
ーまずはどういう内容か教えてください。100年間を描いたんですよね?
門司港駅ができたのが大正時代、102年くらい前なんですけど、そこから現代に至る、門司港に住むある家族の話です。商売をやられている家族三代くらいの話です。
ー商売。
大正時代に荒物屋、今で言う雑貨屋さん、生活雑貨のお店をむかしは「荒物屋」と言ったんですけど、荒物屋として開業したお店が、昭和、現代という時代のなかで変遷していくという、大きく言うとそんな話です。
ーよく「100年を描くぞ」と思いましたね。
うん。「100年だな」と思って。
ー今まで書いたもののなかで、扱う期間としてはいちばん長いですか?
長い長い長い(笑)。長いし、実際の歴史を背景に書くのも、飛ぶ劇場としては初めて。「歴史物」みたいな感じは初めてですね。一回長崎の市民参加舞台(※1)の台本で「長崎の100年史を描く」というのはやったことがあるんですけど、それは音楽劇だったから、戦争のシーンなんかはきっちり創るというよりは「ここは歌だな」と思って。演出の岩崎さん(※2)にも「ここは歌ですよね?」って相談したりして創ったんですけど。今回は市民劇ではなく飛ぶ劇場なので。
ーなんでこのタイミングで「100年間を描こう」と思ったんですか?
うーん…………。ひとつは、うちのひいじいさんが100年前に門司に来てるんですね。そこから「北九州における泊家」みたいなのが始まっているんですけど、最近うちのおじさんが亡くなったりとか、数年前に母が亡くなったりとか、父親もだいぶ歳をとってきて、自分のルーツが気になってきたんです。で、家系図をちゃんと読んだりして個人的に調べたりもしてたんですけど、そんななか、門司港駅が100年経ったと聞いたときに、ひいじいさんは門司の大里地区で学校の先生をやっていたとはいえ、100年前の門司港にはやっぱり行ったことはあっただろうなとか、その頃どんな風景だったんだろうかとか、そういうのが気になり始めて。いま門司港が「焼きカレーの街」みたいになってるのが、むかしから門司港を知っている人間からすると変な感じがして。「焼きカレーの街、じゃねえだろ」みたいなのが、門司の人間としてはあるわけですよ。じゃあ何の街だったのか? というのを、門司港の歴史を、自分で取り込みたいと思ったんですね。それを個人的に取り込むくらいなら、芝居にした方が早いので、……というので、今回この作品を描こうと思いました。
ーそれはやっぱり泊さん自身が家庭を持った、っていうのが関係ありますか?
本を書いていると、結果的に関係あるな、と思った。100年で何世代にも及ぶ話なので、赤ちゃんが生まれたりっていうシーンはある。それは別に僕がいま子どもが生まれていようがいまいが書いたであろうと思うけど、実際ほんとに生まれてなかったら、書き方は変わってたかもしれない。まあさらっと書いてるんだけど。やっぱり受け継いできたものを渡す、みたいな意識に、年齢的になったんだな、と。
ー劇中で生まれた子どもが成長して大人になって出てくる、というシーンもあるわけですよね。現代っていうのは、本当にいま、2010年代とかそのくらい「いま」なんですか?
そうそうそう。まさにいま。登場人物たちはレトロとうまくやれてないんですよ。門司港レトロとは距離を置いてるけど、そこの娘はいまレトロのまちづくりに参加してる、みたいな。
ー話を聞いていると、これまでの飛ぶ劇場の作品の構造と全く違いますね。これまではワンシチュエーションみたいな話が多かったじゃないですか。それが場所はまあ変わらないかもしれないですけど「世代」が変わる。いままで観たことがない作品なんじゃないかという気がしますね。
そうですね。
ー劇場と美術館との共同企画(※3)や、鹿児島の「どらまる。」(※4)での製作など、いろいろなところでいろいろなニーズを受けながら作品をつくる、そのフィードバックみたいなものが今回の作品にあるんですかね。
そういう意味では今回の作品は「飛ぶ劇場っぽくない」んですよ。劇団員のなかでも違和感みたいなのがある感じはする。でも、これをやるのは飛ぶ劇場だなと思ってたの。なんか「門司港特別プロジェクト」みたいなものでやるよりは、劇団でやるものだよな、と。……なんでだろうね。なんで劇団でやっときたかったんだろう?
ーでは今回の見どころを教えてください。
いろんなひとがいろんな役をやるので、「さっきまで年老いた役をやってたのに……」みたいなところでちょっとこれはな……という場面があって、今回急遽高校生のときから知ってる若い子を、「どうしてもここでほしい」というところに出てもらうことにしました。飛ぶ劇場が一応史実に基づいた話をやるのは初めてなので、ただ、よくある歴史劇では終わらない、飛ぶ劇場ならではの味付けも楽しんでいただけるのではないかと。
あとは、門司港のひとたちにとにかく観てほしいんですよ。あと、観光地としての門司港しか知らないひとに観てほしいですね。門司港レトロにとても力を入れているひとにも話を聞いたし、商店街のひとにも話を聞いたし、ただ、聞いたひとの話をそのままお芝居にしたのではなくて、話をもとにひとつの物語をつくった。だからさっき「荒物屋」って言いましたけど、「たぶん門司港にも荒物屋くらいあったよね」っていう、「門司港にあったかもしれない」場所を描いてます。物語に出てくるお店の名前はほとんど実在しない。
ー今回の会場はどういうところなんですか?
旧大連航路上屋(うわや)という、とても歴史ある建物の2階にホールができてて、そこを使います。むかし北九州演劇祭でも3年目くらいまで使ってたんだけど、そのあとは倉庫になってしまって……。旧大連航路上屋ももともと中国の大連に出航する船の待合室として使われていて、戦後アメリカ軍が占拠していて、結構昭和のいい時代までアメリカ軍がいたらしいです。結構知られてないんだけど。ただ、残念ながらちゃんとしたホールになっちゃってる。建物に入る時点でちょっとだけそういう雰囲気は味わえるけど。今回いろんなひとに話を聞くうちに、僕自身も門司港の見方が変わりました。いろんなひとを紹介してもらって、僕が思っているよりも「むかしながらの門司港」は残っているんだな、と。
いよいよ本日幕を開ける飛ぶ劇場の最新作『百年の港』。飛ぶ劇場にとって初の試みが詰まった、まさに新境地と言える作品になりそうだ。よくある歴史劇にはならないという本作。30周年を間近に控える飛ぶ劇場が、歴史にどう挑むのか注目したい。
出演は、桑島寿彦、内山ナオミ、寺田剛史、木村健二、葉山太司、中川裕可里、脇内圭介、宇都宮誠弥、角友里絵、佐藤恵美香、太田克宜、文目卓弥、青木裕基、榮田佳子(劇団千年王國)、根岸美利。また、日替わり前説として、11月26日(木)19時に泊達夫(予定)、27日(金)14時に泊篤志、19時に有門正太郎、28(土)日14時・18時に鵜飼秋子、29(日)14時に藤原達郎が出演する。
チケットは平日2,300円、土日2,800円、大学生1,800円、高校生以下1,000円(*当日券は各200円増)。お問い合わせは飛ぶ劇場093-372-0299/080-7989-2715、門司港レトロ総合インフォメーション093-321-4151まで。
インタビュー・構成・執筆:藤本瑞樹(kitaya505)
(※1)長崎の市民参加舞台
2009年に長崎ブリックホールで上演された市民参加音楽劇『the Passion of Nagasaki』。オーディションで選出された長崎市民65名と、市民の演奏家12名が一丸となって作り上げた。
(※2)演出の岩崎さん
劇団太陽族主宰の岩崎正裕。『the Passion of Nagasaki』の演出を務めた。
(※3)劇場と美術館との共同企画
北九州芸術劇場×北九州市立美術館による共同での作品製作事業。ひとつの美術作品を
モチーフに、演劇と美術作品の鑑賞を美術館で楽しめるという企画。2013年に始まり、以降毎年実施されている。
(※4)鹿児島の「どらまる。」
えんげき体験プロジェクト「どらまる。」のこと。国民文化祭かごしま2015 現代劇の祭典の企画のひとつ。一般公募で集まった鹿児島県民が、全国的に活躍する劇団の演出家とともに期間限定の劇団を作り、公演を行うプロジェクト。
門司港×飛ぶ劇場vol.37『百年の港』
作・演出:泊篤志
日時:2015年11月26日(木)19:00
27日(金)14:00/19:00
28日(土)14:00/18:00★アフタートークあり
29日(日)14:00
会場:旧大連航路上屋2Fホール(北九州市門司区西海岸1-3-5)
料金:平日2,300円
土日2,800円
大学生1,800円
高校生以下1,000円
*当日券は各200円増
【関連サイト】
飛ぶ劇場
※情報は変わる場合がございます。正式な公演情報は公式サイトでご確認ください。