飛ぶ劇場『睡稿、銀河鉄道の夜』公演直前対談

2016.06.01

飛ぶ劇場(北九州)が『睡稿、銀河鉄道の夜』(作・演出:泊篤志、原作:宮沢賢治)を6月11日(土)~12日(日)に京都市下京区岩戸山町のKAIKAで、6月18日(土)~19日(日)に北九州市八幡東区枝光本町の枝光本町商店街アイアンシアターで上演する。

2009年に初演され、北は札幌から南は鹿児島までさまざまな場所で上演されてきた『睡稿、銀河鉄道の夜』。4年振りとなる再演ツアーを目前に控え、本作の作・演出で飛ぶ劇場代表の泊篤志と、プロデューサーの北村功治(kitaya505)による対談が行われた。

飛ぶ劇場『睡稿、銀河鉄道の夜』

北村 久しぶりの『睡稿、銀河鉄道の夜』なんだけど。
  そうね、4年ぶり(※1)ね。
北村 4年ぶりの銀鉄はどう? これまでと違うところとか、変わらないところとか。
  んー、ジョバンニが今回初めて変わった(※2)。これまでジョバンニを演じてた俳優も、銀鉄はライフワークだって言ってたくらいだったんだけど……。それが今回は、中川裕可里が二代目ジョバンニで、カムパネルラに森岡さん(※3)と。
北村 そうね。これは大きいね。
  ジョバンニとカムパネルラの関係性や距離感についてイチから作り上げる。これまではね、ジョバンニはずっとひとりがやってきたから、説明はそんなに必要なかった。で、稽古のなかで新たに作っては行くんだけど、今回は短期集中で作ってるから直接、「ジョバンニはこう、カムパネルラはこうで」って、そういう演出になってる。
北村 そうね、いつもより具体的なサジェスチョンって感じがした。
  もっとふたりに委ねるというか任せるというか、そういう作り方が理想なんだけど、お互い初めましてみたいな状況の中で探ってるから、僕が言葉で伝えてるというのはある。
北村 なるほどね。
  あと、カムパネルラのお母さんは亡くなっているという設定なんだけど、「ああ亡くなっているんだな」って思った。これ、わかりづらいね(笑)
北村 あーーー、うん(笑)
  初演の銀鉄作ったときって、すでに自分の母は亡くなってたんだけど、そのことを自分のこととして捉えてなかったなって思った。それを見ないようにしてたのか、気付かなかったのか……わかんないけど。カムパネルラが「このままじゃ亡くなった母さんに叱られるかも知れない」って言ってる台詞を聞いて、自分はどうなんだろう? って、今回初めて思った。
北村 それは、泊さんが「母親」と対峙するってこと?
  そう……かな。これまでにそういう感情を持ってよかったはずなのに。少なくとも、銀鉄の立ち上げの時に思っててもよかったはずなのに、そんなこと全然考えてなかった。ということを、母親が亡くなって10……9年くらいなんだけど、それくらい経って初めて思った。役者に割と直接的な言葉で「母親はこうでね」とか言葉に出したりとか、自分が最近親になったってのも影響してんのかな? とか、稽古しながら初めて自分のこととして考えたなあ、というのが意外な発見。
北村 作品ってより、自分の内面に対しての気付きだね。
  そうだね。初演のときに考えてても全然おかしくないのにね。そこに気付いて、なぜ、そこの気持ちにフォーカスを当ててこなかったのかはわかんない。
北村 へー。
  なんとなく、ぼんやり何かがあったんだろうけど、昨日の通し稽古見て「おお、そうか」と思って。ジョバンニとカムパネルラ、ふたりがね、芝居としてやっと通ったなって感じがして。それ見て、自分の中にすっと落ちた。昨日の通しはね、グッときた。泣かないけど(笑)、いけるなって手応え感じた。
北村 熊本から不思議少年の森岡さんに来ていただいているんだけど、彼女と作品つくるのは……演出するのは初めて?
  初めて。
北村 森岡さんはどうですか?
  んーー……掴むのが上手い。自分の役はこうだから、こうやろう、こう動こう、って自然と考えられるひと。特に今回のように短期間で作る場合、対応力が求められるからね。
北村 ほう。
  ただ、短期間なだけに中川に結構遠慮してるなあとかね。そんな遠慮いらんのにとも思うけど、まあ、熊本からよその劇団にひとりポイっとやってきて、そりゃ遠慮はするよね。もう少し時間があるので、その遠慮がなくなってくれると面白いと思う。
北村 そういえば前回、カムパネルラが中川裕可里だったのに、今回あえて彼女をジョバンニに起用してる目論見って何かあるの?
  ……(考え込む)……もともと、僕たちが作っている、飛ぶ劇版のジョバンニ像に近いのは、中川裕可里だと思った。
北村 というのは?
  彼女がジョバンニと対峙してギリギリでやっている、いっぱいいっぱいで挑戦して作り上げてくれるのを期待してる。それを狙ってキャスティングしたってのは言いすぎだけど。あと、やっぱりジョバンニは劇団員だろうってのはある。僕の劇団代表として思うところで、流儀というか、僕の中の劇団論。
北村 なるほど。では、初演からの大ベテラン勢の葉山さん、木村さんについてはどうですか?
  いやいや、なかなかどうしてね。この短期間でしっかりとやってくれてる。やはり経験者、っていうのもあるだろうけど。はやまんとかよそで1本芝居に出演(※4)しながらで、どうかしらと思ったけどちゃんと作ってきた。この演目をやる上で、新しいひととやりたい気持ちもあるけど、これぞ劇団員という感じでさすが。
北村 では、穴迫さん(※5)は?
  穴迫は……。
北村 痛風でなんか大変そうだったけど(笑)
  うん。痛風とは思えない安定感(笑)。あと、よくも悪くも前回正解だったことを忘れている。試行錯誤して辿り着いたことを本人は忘れてる。まあでも、ジョバンニもカムパネルラも新しいので、新しく作り直すってことではいいのかな。歌がうまいからね、リズム感がいいから。彼もいろんな役をやるけど、役ごとに台詞回しを変えてきたり。
北村 前回と歌がちょっと変わってない?
  うん、彼の中でメロディ変わってるね。やっぱちゃんと歌えるから全体の安定感は上がるね。
北村 そして、パーカッションのAjiさん。
  音響が生演奏なのは飛ぶ劇のほかの演目にはないからねえ。生演奏ってのはどっか憧れがあって。銀鉄でAjiさんとセッションできてね。初演の試行錯誤は大変だったし。……Ajiさんからもダメ出しがあったし。
北村 あーあったね。
  みんな、俺の音聞いてないだろうって。
北村 あったあった。俳優が勝手にやってるって。
  俺の音はBGMじゃないよ、一緒にセッションをさせてくれ、というようなことをAjiさんが言って。そりゃそうだなよなと思って。結果、『睡稿、銀河鉄道の夜』はAjiさんのパーカッションだからこそ! っていうエネルギーに満ちた作品になった。
北村 うんうん。
  「銀河鉄道の夜」って美しくて静かなイメージがあると思うけど、僕らのは人間のだめなところ取り出してワイワイやってる。銀河鉄道が食わず嫌いなひとにもみてもらいたい。初演の時はメンバーでまず原作を音読してみて、試行錯誤して作品の方向性決めて、そこにうまい具合にAjiさんのパーカッションが加わってね。
北村 この温度の「銀河鉄道の夜」はうちだけだよね。
  そう、うちだけと思うし、飛ぶ劇場としても『睡稿、銀河鉄道の夜』はほかの作品とちょっと作風が違うから、違う一面をもった作品を、いろんなひとに観てもらいたい。子供から大人までちゃんと楽しめる。
北村 うん、いろんなひとに観てもらいたいね。
  4年経っちゃうと結構観てないって方もいるので、再演もちゃんとやらなきゃと思った。この後には『Red Room Radio』(※6)が12年ぶりの再演で。
北村 え、そんなになるの?
  そうそう。
北村 僕出てた(※7)し。
  そうそうそう(笑)
北村 (笑)そろそろ締めますか。
  はい(笑)。みなさん観に来てください。

※1)4年ぶり
本作は2009年の初演ののち、2012年に伊佐市(鹿児島)と北九州で上演された。

※2)ジョバンニが今回初めて変わって
中川裕可里が初めてジョバンニを演じる。前回の公演では中川はカムパネルラを演じた。

※3)森岡さん
森岡光。不思議少年(熊本)に所属する女優。

※4)はやまんとかよそで1本芝居に出演
はやまんこと葉山太司は、劇団イナダ組(札幌)『亀屋ミュージック劇場』札幌・東京公演に出演しながらも銀鉄の稽古に参加しているため、北九州と札幌・東京を行き来していた。

※5)穴迫さん
穴迫信一。ブルーエゴナク(北九州)主宰。劇作家・演出家でラッパーで痛風持ち。

※6)『Red Room Radio』
2004年初演。今年9月に若手メンバーを中心に、『Red Room Radio ~Reborn~』として北九州と福岡で再演が行われる。

※7)僕出てた
北村は『Red Room Radio』初演時は飛ぶ劇場に俳優として所属し、出演していた。


出演は、中川裕可里、森岡光(不思議少年)、木村健二、葉山太司、穴迫信一(ブルーエゴナク)。日替わりゲストとして、京都公演では6月11日(土)大原渉平(劇団しようよ)、12日(日)藤原大介(劇団飛び道具)、北九州公演では6月18日(土)大串到生(劇団ZIG.ZAG.BITE)、19日(日)鄭慶一(枝光本町商店街アイアンシアター代表)が出演。

一般前売2,500円(当日2,800円)、高校生以下1,000円(当日1,300円)。CoRichチケット!、メールでの取り扱い。

予約・お問い合わせはkitaya505 info@kitaya505.com、080-1710-2887(キタムラ)まで。


飛ぶ劇場『睡稿、銀河鉄道の夜』

原作:宮沢賢治
作・演出:泊篤志
料金:一般前売2,500円(当日2,800円)
   高校生以下1,000円(当日1,300円)

【京都公演】
日程:2016年6月11日(土)15:00/19:00
        12日(日)14:00
会場:KAIKA(京都市下京区岩戸山町440番地 江村ビル2F)

【北九州公演】
日程:2016年6月18日(土)15:00/19:00
        19日(日)12:00/16:00
会場:枝光本町商店街アイアンシアター(北九州市八幡東区枝光本町8−26)

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