エリス・ヴァン・マーサベイン『解禁-kaikin-』インタビュー
tusk international theatre company『解禁-kaikin-』(作・演出:エリス・ヴァン・マーサベイン)が9月6日(火)~8日(木)に北九州市八幡東区枝光本町の枝光本町商店街アイアンシアター、9月10日(土)~11日(日)に平戸市大久保町の平戸オランダ商館で上演される。
オランダやイギリスで演劇活動を行ってきたエリス・ヴァン・マーサベインが、鎖国中の日本に上陸した西洋人女性をモチーフに書き下ろした本作。普段は東京を拠点に活動をしているエリスだが、初演の京都で約1か月間の滞在製作を行っている。日本語と英語が半々で飛び交うインターナショナルな稽古場を訪れ、演劇を学んだヨーロッパのこと、日本や演劇のこと、作品のことについて話を聞いた。
-記念すべきmola!初の、九州を出て京都での取材です。そして初の外国人への取材です。しかも通訳付き(※1)! mola!もインターナショナルになりました。よろしくお願いします。
よろしくお願いします。
-エリスさんはオランダのご出身で、オランダの演劇学校を卒業されたそうですが、演劇に興味を持ったきっかけや経歴を教えてください。
4歳のときにはじめて演劇というものに触れて、大きくなるにつれて自分の将来を考えたときに、演劇をして生きていきたいと意識するようになりました。ダンスアカデミーに2年間所属した後に演技の学校に通い、卒業後にロンドンに渡りました。
-ロンドンには演劇での留学で?
それが(笑)、当時ヨーロッパで撮影していたアメリカの映画にカップル役で出演していて、その相手役のイギリス人男性と恋に落ちて、ロンドンに。
-ロンドンでのその後は?
ロンドンでは、テレビや舞台で役者として活動しました。その他、ドキュメンタリーのプロデュースなどもしました。16年間ロンドンで活動した後に、オランダに戻りました。それから舞台に重点を置くために、2005年にtusk international theatre companyを設立しました。その後2011年に来日して現在にいたります。
-これまでヨーロッパで活動されていたわけですが、日本に移住しようと思ったきっかけは?
ふたりいる子供が大学に行く歳になって、子育てに手がかからなくなったので日本に行こうと思い立ちました。日本の演劇、古典劇、現代劇を学んで、ヨーロッパに持ち帰ろうと思いました。
-日本の演劇に興味を持ったきっかけを教えてください。
日本の伝統的な演劇については、オランダの演劇学校でのカリキュラムの一環で学びました。それとは別に、寺山修司(※2)がアムステルダムで公演を行ったことなどを風のうわさで聞き、「日本の演劇」を意識するようになりました。いつも心には「東(日本)へ行ってみる」という選択肢があったのです。
-実際に日本に来てみて、「日本」や「日本の演劇」の印象はいかがでしたか?
日本という国は「魔法の国」です。日本に来ると西洋人は誰でも1冊本が書けるほど、生活様式や文化において不思議に感じることがあります(笑)。歌舞伎や能という古典芸能の分野では、カルチャーが長年脈々と受け継がれている。驚くと同時に、稀有な国という印象を持ちました。それはきっと、日本がヨーロッパほどイノベーションすることに駆られておらず、常に新しいものを躍起になって探していないからだと思います。私には、古典芸能を継続・継承するという姿が新鮮で美しく感じました。
-なるほど。
日本のマンガ、テレビ、音楽から読み解ける日本文化という内容の修論を日本で書きました。例えば、日本のテレビやマンガに時折出てくる、キッチンに立っているエプロンをした女性が登場する頻度は、明らかにヨーロッパより高い。日本にはそういった保守的な所があると思います。ある種、そういった閉鎖的であり保守的な価値観が転じて、伝統を大切にするという姿に繋がっているのではないかと。そういったことが面白いなと感じました。
-それは私たちにはない感覚ですね。興味深い。
そして、日本は風景が美しい。当初、1年でオランダに帰るつもりでした。しかし、日本はどこを旅しても美しい風景がたくさんあるので、もっと見たいという思いが高じて、まだ帰っていません。
-日本のことをほめてもらえるとうれしいですね。ありがとうございます。では質問を変えます。ヨーロッパと日本での違いはどんなところですか?
まず大きな違いは言語。ヨーロッパでは、イギリス人、オランダ人、南アフリカ人……いろんな人と創作してきましたが、英語という共通言語がありました。でも日本では人を介して会話しないといけません。役者の性質で感じるのは、ヨーロッパの役者はワークショップ的なスタイルに慣れている。自分から演出的なアイディアをどんどん出してくる。日本の役者は演出家のやりたいことを汲んで再現してくれる。我を出してスタンドプレーをしない。そういった役者の個性に違いを感じます。ヨーロッパではまとめる演出、日本では引き出す演出を行う感じです。
-なるほど。
日本の役者は金銭的に成り立たせるのがヨーロッパより難しいと感じています。そのため、生活の基盤を演劇に置きづらい。そういう意味で、モチベーションの維持が難しいのかもしれません。
-日本の俳優が職業としてなかなか成り立っていない、という事実に気づいたのは来日してどの位ですか?
大体8か月くらいです。
-早い!
名古屋でチェーホフの芝居を見たときに、言葉がわからないので、アヴァンギャルドな芝居をやっているのかなと思っていたら、隣の方が、単に俳優がトレーニングを積んでいないだけだと教えてくれました。そういったことをきっかけに、職業、産業として成り立っていない日本の小劇場の現状を少しずつ知るようになりました。そういった事実を知るにつれ、俳優に「トレーニングを積め」「学校に行け」と言うことがナンセンスだと理解しました。
-日本の演劇事情を的確に理解されていますね。
事実としては理解していますが、日本の伝統芸能は長年受け継がれヨーロッパにまで浸透しているのに、なぜ演劇がこういった状況なのかはわかりません。
-重く受け止めないといけない言葉ですね……。今回の作品はエリスさんが台本も書かれていますが、なぜ、江戸時代の鎖国していた日本と西洋人女性を題材とした作品を描こうとしたのですか?
名古屋で『青春』(※3)という作品を上演しました。これは、「ひきこもり」という日本の現象を日本の外からインターナショナルな視点で見たものです。今回は、日本と私の母国であるオランダとの歴史的な繋がりを作品化したいと考えていたところ、鎖国していたころの出島(※4)に降り立ったティティア・ベルフスマというひとが、おそらく日本人がはじめて見た西洋人女性だったと知り、そのひとをモチーフとした作品を創りました。普段、東京に住んで活動をしているのですが、今回は京都の役者さん達と京都で創作しています。京都の創作環境や表現者と出会って、いろんな面で東京より可能性を感じています。京都での創作がこれまでよりポジティブなものになると感じます。
-今回のメンバーはどのようなひとたちですか?
はじめて会ってから数回は固かったけど、ワークショップや本読みを経てチームワークのよい集団になりました。ハードワークの出来る信頼できる仲間です。
-最後に、mola!を読んでいる方々にメッセージを。
オープンマインドで来てください(笑)。このお芝居は、外国人である私が日本を見て描いてはいますが、正しさや解釈を求めているわけではありません。共有できる部分、共通する部分を気軽に楽しんでいただけたらと思います。楽しくて変なお芝居です。是非、観に来ていただけたらと思います。
-変なお芝居なんですか? 稽古を観た限り、変なところはありませんでしたよ。
そう?(笑)それはよかった!
(※1)通訳付き
『解禁-kaikin-』出演者のサンディー海が通訳を担当。今回の座組みのメンバーの半数がバイリンガル。
(※2)寺山修司
演劇実験室「天井桟敷」主宰。1983年没。1960年代後半から70年半ばにかけて小劇場ブームを巻き起こし、状況劇場の唐十郎、早稲田小劇場の鈴木忠志、黒テントの佐藤信と並び、「アングラ四天王」と呼ばれた。
(※3)『青春』
2014年、愛知県芸術劇場と長久手町文化の家で上演された演劇作品。
(※4)出島
1634年、江戸幕府の鎖国政策の一環として長崎に築造された、対ポルトガル・オランダ貿易の拠点として栄えた人工島。
出演は、高杉征司(サファリ・P)、柴田惇朗、サンディー海、高柳友紀子、黒木陽子(劇団衛星/ユニット美人)、紙本明子(劇団衛星/ユニット美人)、エリス・ヴァン・マーサベイン。
チケットは、一般2500円(当日3,000円)、学生1,500円(当日2,000円)。メールTUSK@kitaya505.com、枝光本町商店街アイアンシアター093-616-9890、平戸オランダ商館0950-26-0636での取り扱い。
お問い合わせは合同会社kitaya505 080-1710-2887、TUSK@kitaya505.comまで。
tusk international theatre company『解禁-kaikin-』
作・演出:エリス・ヴァン・マーサベイン
料金:一般2,500円(当日3,000円)
学生1,500円(当日2,000円)
【北九州公演】
日時:2016年9月6日(火)19:30
7日(水)19:30
8日(木)19:30
会場:枝光本町商店街アイアンシアター(北九州市八幡東区枝光本町8−26)
【長崎公演】
日時:2016年9月10日(土)19:00
11日(日)18:00
会場:平戸オランダ商館(平戸市大久保町2477)
【関連サイト】
tusk international theatre company
tusk international theatre company(Facebook)
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