藤本瑞樹(二番目の庭)大体2mm『退屈という名の電車の駅のホーム』インタビュー
9月3日(土)〜4日(日)に北九州市八幡東区枝光本町の枝光本町商店街アイアンシアターで行われる大体2mmの新作公演『退屈という名の電車の駅のホーム』(作:藤原達郎、演出:藤本瑞樹(二番目の庭))。本作でおよそ4年ぶりに演劇作品の演出を行う二番目の庭の藤本瑞樹に、今回演出を引き受けることになった経緯や、今回の作品について話を聞いた。
4年ぶりの演劇作品の演出
ーどうぞよろしくお願いします。
よろしく。
ーまず本題に入る前に、これまでなにをされていたのか伺いたいんですが。
これまでって?
ー藤本さんの演劇作品の演出は、2012年の二番目の庭の『病気』以来ありませんでしたよね。そこから今までなにをされていたのか訊きたいんですが。
2012年……たぶんそのあとthe conte apart『format』っていうコントユニットの公演をやって、それは作・演出・出演をしたんだけど、でも演出らしい演出ってそれが最後かな。それからは、主に働いてたね。
ーどういうお仕事をされていたんですか?
kitaya505っていう中小企業……弱小企業なんだけど(笑)、それを立ち上げて、社長は別にいるんだけど共同出資者という形で、だから一応会社役員になるんだけど、そんな感じで、制作の仕事を主にやってたよ。
ーそれはもう辞められたということですか?
辞めてないよ(笑)。まだやってる。そこで、制作の仕事をしながら、……誰も読んでないと思うけどmola!っていうこれまたPV(※1)が恐ろしく低い演劇のニュースサイトを作って、運営してる。
ーじゃあこの4年は制作を主にやられていたというわけですね。
そうだね。
ーそれがなぜこのタイミングで演出を?
うーん……タイミングに特に意味はないんだけど……。Tatsu-low(藤原達郎)からあるとき電話があってさ。去年の秋くらいかな? で、新作を書いたんだけど演出を頼みたい、と。それで、ちょっと考えたんだけど、結局その電話で話してるうちに引き受けることにして。
ーその決め手になったのはなんだったんですか?
それはちょっと言えない。ちょっと……プライヴェートなことなんだ。
ーそうですか。でもとにかく演出を引き受けることにした、と。それで、今回久しぶりに演出をしてみてどうですか?
うーん。まず思ったのは、演出をちゃんとしてるってことかな(笑)。
ーいままで演出をちゃんとしてなかったんですか?
うん。たぶんそうだと思う。いままでは自分で書いた脚本の演出をしてきただけだったから、その、「本を読み込む」みたいなことを怠けてたんだよね、きっと。あと、演出っていっても脚本にきちんと書けなかったことを補う作業という感じで、脚本と適切な距離を築くことができていなかった。それが今回は、ほぼ初めて他人が書いた脚本を演出するから、そういう惰性でやってたようなことが通用しないんだよね。それは……とってもエキサイティングだよ。
ーなるほど。
ほかの人が書いた脚本の演出をするのは、とても自分の力量を試されると思う。楽しいよ。
ー今回の作品はどんな話ですか?
チラシは見た?
ーあ、はい。
チラシの裏面の文章(※2)、実は俺が書いたんだけどさ。その……そこに書いてある通りだよ。
ー全然意味がわからないんですけど。
いや、でも……ほんとにこの通りなんだ。それは、観てもらったらわかると思う。
ー表の「ピンクデーモン」ってなんですか?
それも観てもらったらわかるよ。
ーそうなんですか?
これはTatsu-lowの劇作の特徴だと思うけど、アイツ、別に上演が決まっていようと決まってなかろうと、戯曲を書いてるんだよね。正確に言うと、戯曲ができたから上演しようかなって考えるタイプなんだ。だから、本はもういちばん最初にできてるんだよね。そうするとさ、チラシつくるときに、もうイメージをきちんと作り込めるんだよ。
ーなるほど。
だから今回のチラシも、戯曲の世界をきちんと反映させたものになっているし、上演後にもう1回すみずみまで見てもらったらニヤッとできるんじゃないかな。
「書かれてることを肯定する」
ー今回の作品について、もう少し詳しく教えてください。
演出について事前にいろいろ言っちゃうのは無粋だから、最低限にとどめようと思う。いいかい?
ーはい。
Tatsu-lowの作品を観たことがあるひとにはわかってもらえると思うけど、ヤツの作品は、分類するとしたら「不条理劇」と言われるジャンルに入ると思うんだ。まあ物語的にそこまで突飛なジャンプはないんだけど。でもとにかく、理解しようとしたら理解できる、みたいな類の作品ではないと思う。きっと、アイツの頭のなかでそれぞれの登場人物が勝手にしゃべってて、それがユニークでくだらないんだろうな。それを丁寧に文字起こししていったら戯曲になった、っていう感じだと思うんだよ。だから、「無理やり理解をしようとせず、書かれてることを肯定する」ということを念頭に置いて演出している。
ー肯定する。
広い話になるけどさ、あらゆる芸術って人間の肯定のためにあると思ってるんだ。つまり、「こういう考え方があってもいいよね」とか「こういうものの見方をしてもいいんですよ」とか。
ーはあ。
Tatsu-lowの戯曲も、そういう意味ですべて肯定することから始めることにした。だから、登場人物が……今回は6人いるんだけど、まあ6人って言ってもほぼ5人の話なんだけど、その登場人物たちがみんなもう好き勝手にしゃべったり動いたりしてるのを、そのまま肯定して、舞台に立ち上げることにした。そこに理解は必要なくて、動きたいから動いてるだけなんだよね、彼らは。それを立ち上げることで……観に来てくれる観客の人生を肯定できるんじゃないかと思ってる。大げさに言うとね。
ーなるほど。
それから、今回の作品でTatsu-lowの劇作のすごいと思った部分があるんだけど、話してもいいかな?
ーぜひ。
多くの演劇作品って、ある集団があって、そこに他者が入ってきて、他者っていうのは共有している情報がないからいろいろ質問する。たとえば名前とか、どんな仕事をしているのかとかね。そういう、「コミュニティーに異物が入ってくる」という構造で物語を転がすのがほとんどなんだ。それが今回の作品では、他者が入ってこない。ほとんどがコミュニティー内部を描くことで完結している。それで約80分(※3)くらいの演劇作品を描ききっているというのは、Tatsu-lowの筆の力だと思う。これは、劇作を志している若い子にはぜひ観て欲しいポイントのひとつかな。
ーもう少し具体的に聞いてもいいですか?
今回の話は、言ってしまえば電車を待つっていうただそれだけの話なんだ。電車を待つだけで80分もの戯曲を書けるかい? 俺には無理だよ(笑)。つまりそういうことさ。
ーなるほど。
その、Tatsu-lowの劇作と、4年で知らない間に培っていた俺の演出とのケミストリー。そういうものを、観客には楽しんでほしいと思っている。
ーわかりました。最後に読者に一言お願いします。
Don’t miss it. ってとこかな?
ーありがとうございました。
インタビュアー:藤本瑞樹
インタビュイー:藤本瑞樹
写真:藤本瑞樹
構成・執筆:藤本瑞樹
(※1)PV
ページビュー。そのサイトのページが何回見られたかという数値で、サイトの戦闘力みたいなもの。mola!は恐ろしく低い。
(※2)チラシの裏面の文章
「なかなか来ない電車を退屈そうに待っている5人。電車を待っているうちに、おならが出て、体温が下がり、5円玉を拾い、袋がひかり、ピンクデーモンが現れ、おならが出る。」と書かれている。
(※3)約80分
現時点での上演予定時間。がんばってもうちょっと縮めます。
大体2mm『退屈という名の電車の駅のホーム』
作:藤原達郎
演出:藤本瑞樹(二番目の庭)
日時:2016年9月3日(土)18:00
4日(日)13:00
会場:枝光本町商店街アイアンシアター(北九州市八幡東区枝光本町8-26)
料金:前売2,000円(当日2,300円)
【関連サイト】
大体2mm
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