四人芝居の最高傑作!?北九州公演直前、弦巻楽団の魅力に迫る特別対談
弦巻楽団(札幌)が『サウンズ・オブ・サイレンシーズ』(作・演出:弦巻巻太)を9月23日(土)~24日(日)、北九州市八幡東区枝光本町の枝光本町商店街アイアンシアターで上演する。
2度目となる北九州公演を週末に控えた弦巻楽団。札幌の演劇事情や弦巻楽団の立ち位置について、弦巻楽団制作の小室明子、札幌プレビュー公演をプロデュースした信山プロデュースの信山E紘希、フリーライター・編集者の岩崎真紀に聞いた。
ーまずは、札幌の演劇事情について教えてください。
小室 d-SAP調べによると、札幌では学生劇団を除いて約80団体が活動しているようです。ただし、コンスタントに年に1〜2回、劇場で公演を行っている劇団となると6〜7割になるかな、という感じです。上演されているジャンルに特に偏りはなく、エンタメ系、アングラ、現代演劇とさまざまです。1か月毎日公演がある「札幌演劇シーズン」が冬と夏の2回あり、毎年11月はこちらも1か月にわたり札幌市内9つの劇場で開催される「札幌劇場祭(TGR)」があり、そのほかにも劇場単体でのイベント的公演やフェスティバルもあり、札幌の演劇は年中賑わっている印象です。おそらく、関東関西以外の地方都市の中では演劇は盛んな方じゃないかと思いますが、その要因のひとつとして、「劇団の公演のほとんどが民間劇場で行われている」ということが挙げられると思います。民間劇場が土台を支えてきて、その上で札幌演劇シーズンが始まって、観客数は増加していますし、演劇で食べていきたいという機運も高まっているように感じています。
ー演劇が盛んな札幌で、弦巻楽団はどのような位置にいるのでしょうか?
小室 弦巻楽団は、弦巻啓太の個人ユニットとしてスタートした団体で、2006年から劇団として活動するようになりました。昨年は10周年ということで、代表作『果実』を主演ダブルキャストで一週間公演したり、ニール・サイモンの『裸足で散歩』を青井陽治(※1)さんの新訳で上演したり、道外へ公演にでたりと忙しく過ごしました。弦巻はウェルメイドコメディを得意としているので、今回の『サウンズ・オブ・サイレンシーズ』はこれまでの作品とは色合いが違うのですが、現時点での劇団の到達点という作品ではないかと思います。出演者は全員客演ですが。
岩崎 弦巻楽団は、札幌の演劇シーンを支える中堅的ポジションですね。脚本を書けるという意味では、弦巻啓太はその中でいちばん力があるのでは。感覚的に書かれたように感じる作品が多い札幌の中では技巧派だと受け止めてます。
ー札幌でのプレビュー公演をプロデュースした信山さんに伺います。信山さんの普段の演劇活動を教えてください。
信山 普段「クラアク芸術堂」という札幌の団体で俳優をやっています。クラアク芸術堂内の企画ユニットとして、「信山プロデュース」があります。僕が面白いと思った作品を札幌で上演するというコンセプトのユニットです。最近の札幌では、札幌演劇シーズンという札幌で過去に上演された質の高い演劇作品をロングランで上演するイベントが始まり、それが数年で市民に定着しました。絶対はずれの無い演劇作品が見られるこのイベントには、いつも多くのお客様が集まります。この流れに乗り、信山プロデュースも同じくらい外さない団体ですよという宣伝文句で活動しています。
ー同様に、岩崎さんもご自身の活動について教えてください。
岩崎 北海道マガジン「カイ」でステージコラム「客席の迷想録」の連載や文化団体の広報誌制作、来道した道外の劇作家や演出家、振付家等へのインタビュー記事の作成などを行っています。そのほか、舞台に上がらない人たちが演劇作品などについて好きなように語るためのプラットフォームサイト「札幌観劇人の語り場」の運営に関わっているのと、サンピアザ劇場神谷演劇賞(※2)審査員、昨年度までは札幌劇場祭の審査員なども務めていました。
ー先ほどから少しお話に出ている「札幌演劇シーズン」について詳しく教えてください。
小室 ざっくり言いますと、演劇創造都市札幌プロジェクト(以下「プロジェクト」)という、札幌の劇場・舞台芸術関係団体・経済界の方々からなる団体が、「100人の演劇人が活躍できる街を目指して」というスローガンを掲げて、札幌市に「演劇に支援を」と訴えていまして、そのためには演劇が市民に求められていると見せる必要があるので、ロングラン公演企画を観光シーズンの夏冬の年2回実施し、たくさんのお客さんを集めて実績を作ろうということで、2012年から始まったものです。最初の数回は2作品を週替わりで4週間それぞれ16ステージほどというスタイルでしたが、より多くのお客様に楽しんでもらえるようにと、現在は4〜5団体が1週間〜10日間公演して1か月毎日公演がある、というスタイルです。参加の条件は「札幌で生まれた作品の再演であること」で、上演作品は基本的に公募で決まります。この夏で11シーズン目となりまして、観客数も増加しています。今回はELEVEN NINES(※3)が約4,300人を集客したのもあって、述べ9,000人近い方が来場されたようです。より深く知りたい方は、札幌演劇シーズン公式サイトや、岩崎さんが運営に参加されている「札幌観劇人の語り場」というサイトで、札幌演劇シーズンスペシャルということで、いろいろな方がシーズンについて書いていますのでご覧ください。
もちろん全てが順風満帆というわけではありませんし、プロジェクトの目論見とはズレていったところもありますが、概ね成功しているのではないでしょうか。新聞に広告が載ったり、タクシーにチラシが設置されたり、人通りの多い地下街に大きな看板が設置されたり、一団体では到底できない大きさの広報になるので、通常の集客+200〜300人が見込めます。ですので、劇団にとっては大きなチャンスでもあります。いま、札幌の演劇はこの演劇シーズンを抜きにしては語れない状況になっていますね。
ー信山さんに伺います。弦巻楽団の本作は、急遽札幌でのプレビュー公演を行ったそうですが、プレビュー公演をプロデュースした経緯を教えてください。
信山 『サウンズ・オブ・サイレンシーズ』札幌プレ公演をやったのは、単純に自分がもう一度見たいと思ったからです。昨年の初演時も2回見たのですが、ツアーをやると聞いていてもたってもいられず、「俺が金を出すから俺のために芝居をやれ、弦巻楽団」と言おうと思ったのですが、せっかく上質なお芝居をやるのであれば、札幌の演劇ファンと共有して、カーテンコールで「こんなに面白いお芝居なのに札幌でやらないつもりだったんですよみなさん」と言った方が平和だし、みんなハッピーかなと思って企画させていただきました。結果目論見通りでしたが。
ー本作の特徴や見所を教えてください。
信山 見どころは全部です。数えることができない、手に集めても逃げて行ってしまう、思い通りにならない「水」と演者4人の関係性が見事に符合した作品です。よく三人という人数がちょうどいいなどと言われますが、四人芝居の最高傑作じゃないでしょうか。ずっと平穏で争いなく暮らしてきたと思っている40〜50代や、人生本当にこのままでいいのかと思っている20〜30代、そこそこの人生が理想だと思っている10代などにおすすめしたい作品です。
岩崎 個人的には、弦巻さんのウェルメイド系の作品は人間性の辻褄を軽視しすぎていると感じることが多く、あまり相性がよくありません(笑)。ですから、人間を描くことにチャレンジしている本作は、待ち望んでいた作品と言えます。「大人が観ても楽しめる作品」と言うとちょっと陳腐ですが。「笑いに逃げず、登場人物に共感させることも追求せず、人間模様の面白さを描き出している作品」のように私には見えました。札幌ではとても貴重で希少な作品かと思います。
小室 昨年の初演では、いい作品ではありましたがそんなにお客さんも入らなかったし、今年の再演にあたっては、採算が取れないんじゃないかということで札幌公演は考えていませんでした。公開通し稽古くらいはやろうかと思ってはいましたが。ですが、信山プロデューサーの提案でプレビュー公演を行ったところ、80席とはいえチケットはあっという間に完売、終わったあともとんでもなく熱い感想の数々をいただきました。観た人の中で時間をかけてじわじわと育っていくタイプの作品のようです。
ーmola!をチェックしている方々へ一言お願いします。
小室 大抵の作品はそうですが、本作は、よりその人がどう生きているかやか年齢によってさまざまに感じられる作品です。ラストシーンを希望だという人もいれば絶望と受け取る人もいるようです。ぜひ、友人知人をお誘いの上、観に来ていただいて、感想を語り合ってみると面白いと思います。もちろん、お一人でも! 初日は劇場で交流会もありますので、感想を聞かせていただけるとうれしいです。せっかく札幌からいきますので。
(※1)青井陽治
翻訳家、演出家。代表作に、400回以上の上演歴を誇る『LOVE LETTERS』の訳・演出など。今月1日に、膵臓がんのために亡くなった。
(※2)サンピアザ劇場神谷演劇賞
札幌市厚別区厚別中央2条にある劇場、サンピアザ劇場で上演された優秀作品に贈られる演劇賞。過去には九州での上演歴もある劇団千年王國(札幌)などが受賞している。
(※3)ELEVEN NINES
納谷真大、江田由紀浩、小島達子などを擁する、札幌代表する演劇ユニット。
出演は、深浦佑太(ディリバレー・ダイバーズ)、温水元(満天飯店)、塩谷舞、成田愛花(劇団ひまわり)。
チケットは、一般2,500円(当日2,800円)、高校生以下1,500円(当日1,800円)。チケット予約フォームでの取り扱い。
お問い合わせは弦巻楽団tsurumakigakudan@yahoo.co.jp、090-2872-9209まで。
弦巻楽団『サウンズ・オブ・サイレンシーズ』
作・演出:弦巻啓太
日時:2017年9月23日(土)19:00★
24日(日)14:00
★…アフタートークあり
会場:枝光本町商店街アイアンシアター(北九州市八幡東区枝光本町8-26)
料金:一般前売2,500円(当日2,800円)
学生前売1,500円(当日1,800円)
【関連サイト】
弦巻楽団『サウンズ・オブ・サイレンシーズ』特設サイト
弦巻楽団(Facebook)
弦巻楽団(Twitter)
d-SAP
北海道マガジン「カイ」
札幌観劇人の語り場
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