バカボンド座:渡辺明男・森川松洋×世界劇団:本坊由華子対談
北九州を拠点に活動するバカボンド座と、愛媛県は東温市を拠点に活動する世界劇団が、11〜12月に北九州市八幡東区枝光本町の枝光本町商店街アイアンシアターでそれぞれ新作を上演する。この公演に先立ち、バカボンド座の渡辺明男・森川松洋と、世界劇団の本坊由華子による対談が実現した。
バカボンド座は第7回公演『子どもに見せてはいけない祭り』(作・演出:渡辺明男)を11月10日(金)~12日(日)に、世界劇団は二本立て3都市ツアー『さらばコスモス』『鼓動の壷』(脚本・演出:本坊由華子)を12月2日(土)~12月3日(日)に上演。唯一無二な作風で、知るひとぞ知る存在となっているバカボンド座と、愛媛大学医学部演劇部が母体となり、約20年の活動歴を誇る世界劇団。それぞれの視点から演劇観やこれまでの経歴などについて語ってもらった。
医者と、まだまだモラトリアムな人間と
渡辺明男(以下、渡辺) やっぱりそのアレですよ……演劇やるだけでも大変じゃないですか。それが、医者ですよ。医者になるってことだけでも大変で、両方ですよ。根性がすごすぎる。
森川松洋(以下、森川) いや、すごいと思います。
渡辺 我々の周りは働きたくないとかそういうひとばっかりですよ。
森川 ここしか受け入れてもらえなかった。
ーとりあえず今のところは演劇ね、みたいな。
森川 そう、今のところです。まだわからないです。
渡辺 まだわからない。まだなにも決まったわけではない。
ー40歳でもまだモラトリアム、みたいな?
森川 本当そうです。
渡辺 まだ50まで行けるやろ、みたいな。みんな結婚して子どもを作って、でも芝居をやって。ギャラも出ないのがほとんどなのに。……出てもね、少し。なのにずっと演劇をやる、みたいな。
本坊由華子(以下、本坊) 四国では考えられないですね。
渡辺 やっぱり厳しい?
本坊 ギャラを払うという習慣がないというか。演劇に関連したお仕事は、北九州がすごくあるんですけど。
渡辺 まあ、北九州芸術劇場という大きなところがあるので。そこに気に入られるひとと、気に入られないひとがいますからね。僕らはハマってない方なので。
森川 全然ハマってない。
渡辺 勝手に独自でやってるみたいなね。
森川 全然ハマらないですね。いつになったらハマるんだろう。
ーハマりたいんですか?
渡辺 いや、向こうがいろいろコントロールしてくるんじゃないかって思い込みがあって(笑)。ハマろうとしてない。なので、お前が悪いんじゃないか、お前らのせいだよ、って言われたら言い返せない。一言もないですね。
本坊 おもしろい。
渡辺 愛媛とか四国の演劇事情はまた全然違う話でしょう?
本坊 全然違います本当に。北九州はすごく豊かだと思います。
森川 豊かなんだ。
本坊 いや豊かですよ全然。ブロードウェイくらいの。四国はアフリカ……。
一同 (笑)
渡辺 アフリカ……。それはそれで魅力的だな。
本坊 まず土地を開拓していくところから。
渡辺 世界劇団というくらいだから、本坊さん的には「ワールドワイドに切り開くぞ」みたいなことですか?
本坊 そうですね。だけど劇団名は私がつけたわけじゃないんです。20年くらい前からあって。
渡辺 そんな昔から?
自由にやりたかったんです(渡辺)
ーではここで自己紹介でもしましょうか。
本坊 本坊由華子といいます。愛媛で世界劇団という劇団の団長やってます。
渡辺 お医者さんの劇団?
本坊 もともと愛媛大学医学部の演劇部で。一応私が10代目っていうくくりなんですけど。
森川 10代目ってすごくないですか。
ー20年前、飛ぶ劇場の公演で愛媛に公演で行った(※1)ときに、世界劇団っていう愛媛大学の医学部がやってる、医者ばっかりの劇団があるっていう噂は聞いてました。
渡辺・森川 へえー!
本坊 今は研修医と医学生を中心に劇団が構成されています。
森川 すごいですね。特殊な劇団ですね。
ーバカボンド座さんも自己紹介をお願いします。
渡辺 バカボンド座という劇団の代表をしています渡辺明男と申します。
ーバカボンド座は立ち上げて何年ですか?
渡辺 5年くらいですね。2011年から。
森川 旗揚げは12年。
ーそれまでの演劇歴は。
渡辺 僕はゼロです。
ーなんでまた演劇をしようと。
渡辺 いや、彼が……あなたちょっと自己紹介して。
森川 はい、バカボンド座で役者やってます、森川松洋と申します。
渡辺 その森川くんが、劇場の企画のね。
ー北九州芸術劇場?
森川 そうそう。北九州芸術劇場のに、ちょこちょこ参加してまして。
渡辺 それがなんか楽しそうだな、と。
ー森川さんと渡辺さんのご関係は? もともと友人?
渡辺 そう、高校時代の友人。
森川 お笑いやってました。
ーふたりで?
森川 そうそう、卒業してすぐ。
本坊 お笑いはどれくらいされてたんですか。
森川 半年です。
本坊 え! 半年!?
森川 すぐやめた。
渡辺 逃げ出した。
森川 僕がきついって言って(笑)。もっと遊びたいので、辞めてエヴァンゲリオンとか見てたりしてました。
渡辺 で、結局モラトリアムにはまって。まともに生きたくないなって、どうしようどうしようって言ってたら、彼が当時の彼女に「そんなグダグダするならちょっとオーディションを受けてきたら?」って言われて、受けたのが、北九州芸術劇場の最初のプロデュース公演の『大砲の家』(※2)。
森川 そう、元カノにやりなさいと言われて。
渡辺 演劇のエの字も知らないのに。
森川 トレーナーとジーパンでオーディションに行ったら、なんかみんなジャージ着て、「ウーーーーーーとか、アーーーーーとか」唸ったりしてて。発声してたんだと思いますけど。なのでとりあえず裸足になって。オーディションは落ちたけど、参加していいよと言われて、参加して。で、今にいたります。
渡辺 北九州芸術劇場の歴史とともに、フワ~っと演劇に関わった。
本坊 ずっと演劇に関わってたんですか。
森川 いや、たまに。またお笑いやろうとしたけど全然上手くいかない。
渡辺 吉本の事務所に入ろうとして、オーディションでも全然100%ウケなくて、人間としてダメとか言われて。ネタやって、ダメ出しの時腕組んで聞いてたんですよ。そしたら「腕組むなってお前!」って言われて。人間としてダメって。それでヤダって行かなくなったんです。演劇は全然、腕組もうが、横になろうが何も言われない。
本坊 お笑いの方が上下関係やしきたりがありそうですね。
渡辺 そう! 自由にやりたかったんです。演劇は全然いいんですよ、わかんないですけど。自分が劇団の代表だから、自由だから。誰にも怒られない、最高のポジション。40歳、まだまだ行くぞモラトリアム。
森川 まだモラトリアムなんですか。勘弁してください。演劇って、はじめはみんな何がやりたいかわからないひとたちの集団だと思ってたんですよ。何がやりたいかわかってないんだろうなこのひとたち。僕はなんなんだろう、みたいなことばっかり思ってんだろうなあこのひとたち。あ、僕といっしょじゃないかと思って。このひとたちってなんかフワ~っとしてていいな、と。居心地がいいなって。まあ、本当はそんなひとたちばっかりではないと思いますけどね。
渡辺 本坊さんはどうなんですか?
本坊 とりあえず医学部に入学して、大学2年生の時に世界劇団に入団して、それで学生劇団みたいな感じでやって、作・演出とかしてたんですけど。
渡辺 もともと演劇に興味があったんですか?
本坊 ありました。ずっとテニス部だったんですけど、母親がよく劇場に連れて行ってくれてて。小さいころから演劇はやってみたいなあとうすうす思ってたんですけど場所がなくて。医学部に入ったら先輩たちの世界劇団があって。入って初舞台踏んだら次の日から団長になって。ひとが誰もいなかったんで(笑)。世界劇団って愛媛大学医学部演劇部と言いつつも、医者と医学生以外にも、銀行員の方とかOLさんとか郵便局員とか社会人の方も混ざって活動してます。
社会生活の反動として表現している感じはあります。(本坊)
渡辺 死ぬほど勉強してるんでしょう?
本坊 そうなんですよ。勉強します。
渡辺 そのあと稽古?
本坊 そうですね。
渡辺 すごいね。
森川 好きじゃないとできないですね。
本坊 勉強がですか?
森川 いや、演劇……。
本坊 あ、そうですね、その反動みたいなのがありますね。みんなたぶん仕事がすごくキツくて、その反動でもう、「稽古行くぞーー!」みたいな(笑)。だから逆に稽古場がなんかこう、いちばんいい時間というか。自分の生活の中で。
渡辺 オアシス的な。
本坊 はい。社会生活の反動として表現している感じはあります。それがいいことなのか悪いことなのかわからないけど。
渡辺 こっちもそれは同じですよ。「稽古だー!」みたいな。社会的な扱いは我々とは真逆ですけど。
一同 (笑)
渡辺 みんな稽古になると元気になる。テンション上がる。みんな稽古場に死んだ目で来るんですよ、お疲れ様ですーって。不安にはなります。おいおい大丈夫かよ、今日通しだぞみたいな。でも稽古が始まると目がキラキラし始める、好きなんだなあみたいな。
本坊 わかりますね。稽古場行って元気になる。稽古のない時の方が疲れがたまる。
渡辺 そうですね確かに。でも12時間バイトして稽古場に行ったりしてた時はキムケンさん(※3)から挨拶されても無視した。
本坊 (笑)
渡辺 自分では言ってるつもりでも声が出てないんです。それくらい疲れてて。でも始まったらだんだん元気になる。申し訳なくて一回謝りました。すいませんでしたって。「いやー、全然!」って言われて、優しいひとだなあって。キムケンはいいひとだなあって。
一同 (笑)
渡辺 今回はツアーでしょう? 相当な覚悟がいるじゃないですか。
本坊 そうですね、有給を使ってそこに合わせてとか。有給を取りやすいところにみんなでスケジュールを1年前から合わせて、病院に申し送りして綿密に打ち合わせをしないと実現できない。ツアーが終わったらもうほとんど大晦日も正月も病院です。
渡辺 そこまでしてやってるなんて、すごいですね。
本坊 いい面もあるんですが、単純に体力が限界。
渡辺 まあね、先のこと考えずにやるしかないですね、先考えると憂鬱になってくる……。
本坊 そう、そうなんです。
渡辺 いつまでやれるのかとか考え始めたら、死にたくなってくる。
本坊 (笑)
渡辺 カタストロフィを求め始めてしまうので、今の芝居に集中したほうがいい。
本坊 それが逆に自分を保ってる部分もあって。研修医はうつ傾向があるというデータがあって、みんな演劇したらいいのにって思っちゃう。同期とかで朝から晩まで働いて、ひと付き合いが全部病院の中の上の先生だったり、同期だったりなところで縛られてる中、すごく落ち込み気味なひととかも結構いて、研修医の単位が取れないとかうつ病気味なひとがたくさんいるんですけど、演劇をやったらいいと思うんですよ。
渡辺 実際言ってるんでしょう?「演劇やらない?」って。
本坊 いえ、さすがに言えないです。言ったほうがいいですかね。「ハア???」って感じじゃないですか?
渡辺・森川 うん、多分。
本坊 (笑)
渡辺 研修医でいながら演劇なんかよくできるねって思ってると思う。周りのひとは。
本坊 確かに、はたから見たら研修医なのにもっと勉強して、当直とかもたくさん入って、ちゃんとした方がいいって思われると思うんです。もちろん絶対そうなんですよ、医者をちゃんとやるっていう意味で言ったら。同期の中でも「何やってるのお前ら」っていう目はすごく感じてて。本当にそりゃそうだろうなと思いつつも、でもそれで、演劇に触れないでうつ病っぽくなって職場に行けなくなっちゃったっていうくらいだったら、ツアーいっしょに行こうよって。
渡辺 なるほどね。
本坊 演劇がいいなって思うのは、多種多様なひとを受け入れる枠があるところですね。医者ってたいていみんな家庭環境がいっしょで。教育熱心な母親父親の元で、経済力があって、親が医者なのが半分以上。で、塾に通って、大学入って。みんな、喋ってても価値観だったり家庭環境だったりがいっしょなんです。何年後にはこうならないといけない、何年後にはこうなってないといけない、何年後に結婚して何年後に家を建てて……というのがみんな全部いっしょっていう。
渡辺 プランがいっしょなの?
本坊 はい、プランが全部いっしょで、それが当たり前でしょって考えなんですよ。でも演劇の世界は本当にプランがないっていう……。
渡辺 ノープラン。ノープランのひとたちが集まってる。
本坊 「ああ、ノープランでいいんだ!」みたいな。救われたっていうか。同期で「こうならないといけない」ってなってるひとに対して、「いや、そうじゃない世界が山ほどあるのに」と。
渡辺 本坊さんが広めていく役割みたいなのがあるかも知れないですね、同期のそういうひとたちに。