バカボンド座:渡辺明男・森川松洋×世界劇団:本坊由華子対談
バカボンド座さんの作品は、作品を通して社会全体が見える(本坊)バカボンド座みたいな話は他にないから(渡辺)
ーお互いの作品などについて話をしましょうか。
本坊 バカボンド座さんの作品は、作品を通して社会全体が見えるなあっていうところが私はすごく好きで。
渡辺 ゴミみたいな人間しか出てこないですけどね(笑)。でも、それは演劇でしかできない。演劇だったらできるし、やってて楽しいですね。
森川 嫌なひとの方がおもしろい。
渡辺 演じるのはね。実際にいたら嫌だけど。
本坊 (渡辺)明男さんの作品は『歩くモーゼと原人』と『かぶりはしたけど、はいてはいない』と『10万年の寝言』の3作品くらいしか観れてないんですけど、ああいうひと(※4)を出す何か根源みたいなものがあるんですか?
渡辺 根源?
本坊 私的には北九州っていう土壌が……。
渡辺 はぐくんだ?(笑)
本坊 ああいうキャラクターは絶対に四国では生まれないと思ってて。
渡辺 それは土地柄みたいなのがあります。社会の矛盾とか問題とかそういうところを掘っていった方が描きやすい。お医者さんになれるような豊かな財力がある過程を描いてもなかなかそこまで行き着かない。それはそれでいいじゃない。幸せなんだから、ってなってくる。財力が何もないひとの方が話が展開しやすい。あと、犯罪と小説や劇作は多分相性がいいんですよ。
森川 渡辺さんの好みもあるでしょ。
渡辺 いや、ドストエフスキー(※5)にしろ、絶対犯罪出てくるでしょ、しつこいくらいに。劇作と相性がいいんですよ。それは書いててわかる。すごく話が作りやすい、悪いことは。いい話はやろうと思えばできますけどね。きれいな話はそれは他にいっぱいあるから。バカボンド座みたいな話は他にないから。
本坊 バカボンド座を観てよかったというか、知らないものを観られたという感じです。去年1年間、福岡、北九州でいろんなお芝居を観てたんですが、ここで観られてよかったな、というのがやっぱり自分的にバカボンド座さんで。絶対に出会えないテイストというか、他にないですね。
渡辺 本当ですか? これ、絶対書いてくださいよ。キムケンのくだりはカットしてよいですけど(笑)
ーはい(笑)。
本坊 演劇は結構四国でも観てますし、広島とかにも観に行ったりしてるんですが、バカボンド座さんは、北九州にみんな行って、観光プランの一環でいいんじゃないかって。北九州の観光プランの一つなんじゃないかって(笑)。
森川 そこまで言ってくれるんですか。
本坊 (笑)いやだって、ここに来ないとっていう、レア感っていうんですかね。まず、愛媛からフェリーに乗って小倉港に着くじゃないですか。愛媛とか四国って、ホームレスがいない都市ナンバーワンで、それくらい、一人くらいしか見たことなくって。結構お行事のいいところで、みんな自転車通学の学生は絶対ヘルメットかぶるし、校則をみんなきちんと守るところから、フェリーに乗って小倉港に着いたら……。
渡辺 駅前からいきなりストリップ劇場! いきなりかよ! みたいな(笑)。
本坊 ちょっと待って、まだ耐性ついてないよ、みたいな(笑)。半分テーマパーク。小倉駅にゴディバがあるじゃないですか。あんな美味しい高級なチョコが売ってるところの付近にダンボール敷いてるおじさんがいて、いや格差社会の極みやなと思って。アミュプラザのブランド品が並んだお店の横で、何人も酔いつぶれたひとがいるっていう。これが成立してるって、自分的にはテーマパークなんですよ。「ほー、ほー!!」って!
渡辺 そんなこと言ったら怒るひといますよ、北九州の方が。「オイー! 医者ー!」って怒られますよ。
本坊 (笑)
渡辺 俺らはそれが普通だから。いなかったらちょっと心配になるくらい。「大丈夫かな?」って。「あれ、冬越せたかな?」って。
本坊 (笑)
渡辺 いま、市がね、北九州全体を綺麗にしようしているので、全力で逆らっていきたいと思います。
本坊 応援します。逆らってください(笑)。
四国と広島と九州の架け橋みたいなことになればいい(本坊)今回は、自分が楽しむのが第一(渡辺)
ー世界劇団は今回のツアーが初の九州での上演ということなので、劇団や作風について教えてもらえますか?
本坊 そうですね。作風は「身体性が強い」というのが特徴ですね。
渡辺 それは、普段頭ばっかり使っているからとか、そういうこと?
本坊 あーーー、それもありますね。パフォーマンス性が高いとはよく言われるんですが、劇作がベースにあって、それに振付を付けて行く感じですかね。
森川 それは、本坊さんの代から?
本坊 そうですね。私はどちらかと言うと書くより、踊ろうぜ! みたいな。
渡辺 へー。他に書きたいって方は?
本坊 います。いますが、まだ書いたことがなくて。これまでは芥川龍之介の小説「蜘蛛の糸」をパフォーマンスにしたり、三島由紀夫とか寺山修二の脚本をやったり、オリジナルは最近私が短編を書いてたんですが、今回初めてがっつり長編を書いたって感じです。
渡辺 ツアーはどこを回るんですか?
本坊 松山・広島・北九州です。
渡辺 もうちょっとしたらね。リツイートしようかと思っています。
森川 今すりゃいいじゃないですか!
渡辺 いやいや、同じ時期にみんなしたってね。ちゃんと考えてるの。タイミングを。
本坊 えー、ありがとうございます! ちゃんと考えてくださって。
渡辺 本坊さんが、こっちに精力的に来られててパワフルだなあってのは感じてるんですが、劇団としてはどうなんですか? 方向性とか。そこそこでいいじゃんみたいな意見とかってあるんですか?
本坊 そうですね、こういうことをやりたいけどと思ってるんだけど、やりたいひといる? みたいな感じで訊いて、希望するひとが手を挙げてやる、みたいな感じですかね。なので、同時進行でこれとこれに参加するから稽古場行ったり来たりみたいなこともあります。
渡辺・森川 へー。
本坊 2年前、俳優がひとり、東京に行って演技を学びに行ったことがあって。去年戻ってきて。私も今年福岡から愛媛に戻ってきたので、やっと劇団員が揃ったので「じゃあ、ツアーやるか!」みたいな。
渡辺 え、福岡に居たんですか?
本坊 そうです。医師国家試験に落ちて。大学6年生の時に国家試験を受けて、落ちて。受かれば、医者として働けるんですけど落ちちゃって。それで去年は福岡の医師国家試験の予備校に通ってて。平日は国家試験の勉強して、土日は劇場にみたいな生活をしてました。試験に受かってからは愛媛に戻って研修医をしています。
渡辺 そうだったんですね。
本坊 渡辺さんが愛媛に来たらどんな作品作るんだろうとか気になりますね。ホームレスのいない、学生がヘルメット被って自転車通学している土地で。
渡辺 それはそれで、おかしく見えるからいいですね。
本坊 森と川と山と豊かな自然が(笑)。
渡辺 いいですね。それを北九州でやっても嘘臭いから、そこではそこの面白さがあると思います。
本坊 なるほど。私たちは普段の環境が医師とか医学で、人間の血液や細胞がどうだとかっていう学問をやってる人間ばかりなんで、局所的にギュッとなっちゃう傾向がありますね。自分たちの面白さや良さがマイナーになっているかもみたいなのが最近あって、だからこそ信頼できる客演さんの客観を信用しようみたいなのがあります。
渡辺 もっと開いていく、みたいな?
本坊 そうです! 開いていかないとヤバイ集団になりますね。(目の前の視界を塞ぐ仕草)こう、ならないように。
渡辺 あーでも、視界が狭くなっている方々は多いですよ。自分たちの世界観に閉じこもっているひとは多い。
本坊 メンバーがメンバーなので、論文発表みたいな演劇になりかねん、という。そうならないように意識しないといけないてのはあります。
森川 なんか、観てみたいし四国でやりたいですね。
本坊 あ、来てください! 呼びますよ!! 今回のツアーで、四国と広島と九州の架け橋みたいなことになればいいねって劇団でも話してて、四国の演劇をもっと知って欲しいっていうのはあるので、ぜひ!
ーでは、最後にmola!をチェックしている方に一言お願いします。
渡辺 今回の『子どもに見せてはいけない祭り』は初めて自分が楽しければいいって思って書いた作品で……。
ーえ、これまでは違ったんですか?
渡辺 違うんです。実は、いままでは評価が欲しかったんですよ! 今回は、自分が楽しむのが第一で。評価って望んで得られるもんじゃないってのがやっとわかったので、じゃあ、やりたいことをやろうと。このへんかな、みたいなので「いいね」ってならないってのをようやく気付いて。自分が楽しいぞ、と思うことしかしないと決めてます。これ、書いてて思ったんですけど、前回、前々回と今回で「犯罪三部作」だなと。トントントンときれいにまとめます。自分的にはひとつ抜けた感がありますね。全部やってやる、もう知らんぞ!(笑)みたいなのはあります。
本坊 いやー観に行きたい!
ー『子どもに見せてはいけない祭り』というタイトルですが、子どもは観られるんですか?
渡辺・森川 全然大丈夫です。
森川 笑顔で帰れるかは分かりませんが。
一同 (爆笑)
渡辺 そんなものはこっちの知ったこっちゃない。
ー世界劇団さんの作品は?
本坊 短編と、初めて書いた新作長編の2本立てとなっています。短編は、私たちの出世作みたいな作品で、松山、京都、横浜でやった(※6)20分の汗かきまくり作品です。新作は、学生時代に思っていた「ひとってどうやってできているんだろう」という疑問と、働き始めて感じた人間が死ぬってこういうことなんだなという、死生観みたいなのを描いた作品です。北九州はツアーの最終公演地なので、最後の締めくくりとしてたくさんの方に観に来ていただけたらと思います。
ーありがとうございました。
渡辺・森川・本坊 ありがとうございました!
聞き手:北村功治(kitaya505)
編集:北村功治(kitaya505)、松井由紀子(バカボンド座)
(※1)20年前、飛ぶ劇場の公演で愛媛に公演で行った
進行役の北村功治は、当時飛ぶ劇場に所属しており、1998年に別冊公演3『Switch!』で松山公演に行っていた。
(※2)『大砲の家』
北九州芸術劇場プロデュース公演第1弾作品。脚本を飛ぶ劇場の泊篤志が、演出を南河内万歳一座(大阪)の内藤裕敬が務めた。
(※3)キムケンさん
飛ぶ劇場の俳優、木村健二。過去にバカボンド座の作品に客演した。
(※4)ああいうひと
いずれの作品でも、常識を超越したキャラクターや状況が設定されていたが、そこから人間の普遍性を描きだすことに成功していた。
(※5)ドストエフスキー
ロシアの小説家・思想家。代表作は『罪と罰』『白痴』『悪霊』など。人間の残酷な面や
情欲、嫉妬心、罪悪などをモチーフにしながらも、最後には救いの可能性を描くことが特徴。
(※6)松山、京都、横浜でやった
今回上演する短編『鼓動の壷』は、三代目四国劇王と三代目中国劇王の二冠を獲得、C.T.T.セレクション・イン京都(vol.111)1位、中四国代表として神奈川芸術劇場で行われた「劇王天下統一大会2015~ベイシティ・ロワイヤル!in KAAT~」でも上演された。
チケットはバカボンド座2,500円。CoRichチケット!での取り扱い。世界劇団は一般2,000円(当日2,500円)U-25 1,500円(当日2,000円)。予約フォームでの取り扱い。
お問い合わせは、バカボンド座bakabondoza@gmail.com、080-6319-0358(マツイ)。世界劇団北九州公演実行委員会info@kitaya505.com、090-2502-0923(フジモト)まで。
バカボンド座 第7回公演『子どもに見せてはいけない祭り』
作・演出 渡辺明男
日時:2017年11月10日(金)19:00
11日(土)14:00/19:00
12日(日)14:00
会場:枝光本町商店街アイアンシアター(北九州市八幡東区枝光本町8-26)
料金:2,500円
世界劇団 二本立て3都市ツアー『さらばコスモス』『鼓動の壷』
脚本・演出:本坊由華子
日時:2017年12月2日(土)13:00/19:00
3日(日)18:30
会場:枝光本町商店街アイアンシアター(北九州市八幡東区枝光本町8-26)
料金:一般2,000円(当日2,500円)
U-25 1,500円(当日2,000円)
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