演劇集団非常口、17年目にして初の東京公演

2018.10.04

演劇集団非常口(伊佐)が第19回公演『鱗の宿』(作・演出:島田佳代)を11月15日(木)~18日(日)に目黒区駒場のこまばアゴラ劇場で、11月23日(金)~24日(土)に伊佐市大口鳥巣の伊佐市文化会館で上演する。

演劇集団非常口 第19回公演『鱗の宿』

鹿児島の北部に位置する伊佐市で、市内唯一の劇団として活動を行っている演劇集団非常口が劇団創立17年目にして初の東京公演を行う。劇団代表の島田佳代は九州戯曲賞大賞や北海道戯曲賞優秀賞を受賞し、劇作家としての評価を得ているが、劇団としては、これまで九州外で公演を行ったことはなかった。初の東京公演の会場は、小劇場演劇のメッカともいわれるこまばアゴラ劇場。劇団としての真価を問われる公演となりそうだ。島田佳代に、劇団のことや作品のこと、これからのことについて聞いた。

ー演劇集団非常口はどのような劇団でしょうか? 旗揚げのエピソードなどを教えてください。

旗揚げメンバーのわたしと春田久子は同じ高校の演劇部に入っていました。部活が楽しくて、「いつか劇団つくりたいね」という話はしていました。その時「非常口」の表示灯が目について、春田が「もし劇団つくったら、劇団名は非常口にしない?」と。高校卒業後、わたしは地元で就職して演劇からは離れていました。劇団もないし、この地で活動するには劇団をつくるしかない状況でした。そんな中、再び春田が「劇団つくろう」と言ってくれて。それで、まず演劇部の顧問だった石神を誘って、コンビニとかに劇団員募集の貼り紙をお願いして、集まってくれたメンバーと一緒に2001年に旗揚げしました。名前は高校の時に春田がつけた「非常口」にしました。

ー劇団立ち上げ当初はどのような活動を行っていましたか?

既成台本は上演料の支払いが発生すると考え、基本的にオリジナル台本でやっていくと決めて、最初の頃は年2回くらい公演してました。わたしが書いたり、劇団員が書いたり。今思えば本当に発表会的な感じで、お客さんも身内ばかりでした。その頃は劇団で場所を借りて無料で公演していたんですが、進歩がないというか……無料なのにお客さんが増えないんです。無料だから価値を見出してもらえないのではないか、入場料をいただいてもっと責任を持って公演した方がいいのではないかという話になりまして。2007年頃から本公演の回数を減らして、ひとつの作品を丁寧につくり、チケットも販売するようになって、お客さんも少しずつ増えました。劇団員も増えたり減ったりしながらどうにか活動を続けてきて、今に至っています。

ー現在はどのような活動を行っていますか?

年1回の本公演を行いつつ、それ以外にいろいろ、という感じです。本公演は基本的に地元で行うのですが、他地域でやらせてもらう機会にも恵まれるようになりました。直近では、2016年に久留米シティプラザの「めくるめくエンゲキ祭」(※1)で公演させてもらったり、みまた演劇フェスティバル「まちドラ!2016」(※2)に呼んでいただいたり。最近は役者もそれぞれ大河ドラマ「西郷どん!」や、県内で撮影される映画にエキストラで出演させてもらったり、伊佐市のPR用ポスターのモデルになったりと、以前と比べて活動的になっているように感じます。
現在、伊佐市の教育委員会から委託を受けて「劇団いさ」(※3)という市民参加の演劇ワークショップの企画・運営にも携わっています。劇団が地元に受け入れてもらえたような感じはしています。

※1)久留米シティプラザの「めくるめくエンゲキ祭」
2016年に久留米シティプラザで行われた、同施設ドラマアーツディレクターの小松杏里がプロデューサーを務めた演劇祭。演劇集団非常口の他にくるめ市民劇団 ほとめき倶楽部、劇団ヒロシ軍(諫早)、Theちゃぶ台(大津)、演劇関係いすと校舎(行橋)などが公演を行なった。

※2)みまた演劇フェスティバル「まちドラ!2016」
2012年に三股町立文化会館開館10周年を記念して始まった“文化芸術の地産池消”と銘打たれた、人口25000人の小さな町に九州各地の演劇が集結する演劇フェスティバル。

※3)「劇団いさ」
2015年に行われた「国民文化祭・かごしま2015」いさ演劇祭の後継事業として、気軽に演劇を体験する機会の創出を目的として立ち上げられた、市民参加型のワークショップ。企画や運営を演劇集団非常口が担当している。今年6月には第4期目の創作発表として、伊佐出身の海音寺潮五郎作品のリーディング公演が行われた。

ー劇団17年目にして初めて九州を飛び出しますが、きっかけや動機のようなものはありましたか?

こまばアゴラ劇場で公演するのは夢であり、憧れでした。とはいえ、劇団員が全員仕事をしているため、何日も休みをとるのが難しくなかなかチャレンジすることができませんでした。『鱗の宿』はツアーにも対応できるように比較的簡素な舞台美術で道具も少なく、というのを意識して書いていました。昨年初演したあと、この作品で挑戦してみたらどうかという思いが湧き上がりました。好きな作品になったと思えたことと、なによりも劇団員の情熱みたいなものを感じられたのが大きなきっかけです。仕事のことに加えて、東京で公演することの大変さを考えると、やはり提案するには勇気が必要でした。それでも今しかないように思えて、思い切って言ってみたらみんな賛成してくれて。こまばアゴラ劇場の利用カンパニーの募集に応募することができました。

ー今回の『鱗の宿』はどのような作品ですか?

小さな島にふらっとやってきた童話作家とその妻、ふたりをとりまく住人たちの事情と交流を描いた作品です。劇団員の友枝は最近演劇を始めた60代の役者なのですが、年齢を重ね、様々な経験をしてきたからこその存在感と味があって、友枝を主役にした作品を書きたいと思いました。友枝から発せられることで成立するというか、スッと入ってくるせりふがあると思っています。何年か前に『乗組員』(※4)という作品を書いて上演したのですが、同じセットでいつか連続上演できないかと思って書いた作品でもあります。

※4)『乗組員』
小さなコミュニティーの閉塞感を描いた、帰ってこない妻を待つ男の話。島田戯曲の特徴が存分に発揮されたこの作品は、2014年に北海道戯曲賞優秀賞を受賞した。『鱗の宿』の物語の舞台となる「鱗島(うろこじま)」は、『乗組員』でも物語の舞台としても登場する。

ー島田さんの作品には、その土地や人の閉鎖性や内面を描く特徴があるように感じますが、モチーフについて何か意識されていますか?

住んで書いてる場所が山に囲まれた盆地ということもあるのか、閉ざされた感じはします。良くも悪くも人間同士の関係が濃いというか、繋がっているというのを意識せざるを得ない土地です。日々の暮らしの中で、うっすらと人の事情や苦悩が見えるときもあって、そんな時に、人が持つ決して明るくはない深い部分に少し触れたような気分にもなります。でもそれはその時だけで、すぐに平常に戻るというか。苦悩に埋もれていたら生活していくことはできないと思うし、何を見ても何があっても生活は続いていく、生きてる間は続けていくしかない。そういうことを、この盆地の底でしょっちゅう思ったり考えたりしてるのが作品に出ているのかもしれないです。

ー今回、テイストがまったく違う2パターンのチラシ(※5)が配布されていますが、どういった意図があるのでしょうか?

制作会議の時に2パターン作ることを決めました。東京のチラシ束は枚数が多いため、埋もれないようにするにはどうしたらいいか劇団外の方からもご意見をいただいて考えていました。劇団員の西元は普段から写真を撮っていて、彼女が今まで撮影した作品の中に伊佐の日常や風景がたくさんありました。この、東京にはない「伊佐の風景」を使うことにして、最終的に出来上がったのが「旅館風」バージョンです。初めての東京公演ですので劇団の自己紹介という色が強く、とにかく目立つことを優先しました。そのため、作品の雰囲気からは離れたデザインです。逆に「おしゃれ」バージョンはシンプルで、作品に寄せたデザインになっています。制作会議の席で、先に「旅館風」を配布しインパクトを与え、その後「おしゃれ」の配布に切り替えて作品の雰囲気を紹介する、という戦略をたてました。

※5)テイストがまったく違う2パターンのチラシ
今作では、旅館のパンフレットをイメージした「旅館風」、作品の質感をデザインした「おしゃれ」の2種類のチラシを作成している。
演劇集団非常口 第19回公演『鱗の宿』(旅館風)

演劇集団非常口 第19回公演『鱗の宿』(旅館風)

演劇集団非常口 第19回公演『鱗の宿』(おしゃれ)

演劇集団非常口 第19回公演『鱗の宿』(おしゃれ)

ー「伊佐」という場所、地域に対する想いやこだわりはありますか?

人口も減少していて、娯楽もあまりない町ですが、いいところです。生まれてからずっと暮らしてきて、出たいと思ったこともあるしこれからも思うかもしれないし、どうなるかはわかりませんけど、年を重ねるにつれて、好きになっていってるのは確かです。大事な思い出がたくさんあって、大事なひとたちがたくさんいる町です。『鱗の宿』に芳井という登場人物がいるんですけど、自分の伊佐に対する想いみたいなものが彼女に投影されているように感じています。

ー最後にmola!をチェックしている方にメッセージをお願いします!

初演から一年。さらに深みのある作品にするべく、劇団員一同前向きに悩みながら稽古を重ねています。繊細でぬくもりのあるお芝居・公演になると思いますし、そうなるようにガシガシ稽古します! 応援していただけると嬉しいです。よろしくお願いします!


出演は、友枝憲一、石神朋子、西元麻子、中岡美由喜、平愛、西和博。

チケットは、東京公演が一般2,000円(当日2,500円)、U23 1,500円(当日2,000円)、ペアチケット3,500円(2名分)。鹿児島公演が一般1,500円(当日2,000円)、U23 1,000円(当日1,500円)。CoRichチケット!での取り扱い。

お問い合わせは演劇集団非常口hijoguchi.ngr@gmail.com、090-9566-4231(ニシ)まで。


演劇集団非常口 第19回公演『鱗の宿』

作・演出:島田佳代

【東京公演】
日時:2018年11月15日(木)19:00★
        16日(金)19:00★
        17日(土)14:00/19:00
        18日(日)11:00
   ★アフタートーク実施(15日:嶋田直哉(シアターアーツ編集長)、16日:松田正隆(マレビトの会)
会場:こまばアゴラ劇場(目黒区駒場1-11-13)
料金:一般2,000円(当日2,500円)
   U23 1,500円(当日2,000円)
   ペアチケット3,500円(2名分)

【鹿児島公演】
日時:2018年11月23日(金)19:00
        24日(土)14:00
会場:伊佐市文化会館(伊佐市大口鳥巣305)
料金:一般1,500円(当日2,000円)
   U23 1,000円(当日1,500円)

【関連サイト】
演劇集団非常口 第19回公演『鱗の宿』特設サイト
演劇集団非常口(Facebook)
演劇集団非常口(Twitter)

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※情報は変わる場合がございます。正式な公演情報は公式サイトでご確認ください。

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