飛ぶ劇場 泊篤志が元劇団員と公演直前対談
飛ぶ劇場(北九州)がvol.40『わたしの黒い電話』(作・演出:泊篤志)を2月9日(土)~10日(日)、久留米市六ツ門町の久留米シティプラザ Cボックスで上演する。
彼女から掛かってくる電話は
リアルな 現実のものだと思っていた
彼に掛けている電話は
確かな手がかりを持って
掛けているつもりだった
北九州を拠点に活動する飛ぶ劇場。昨年末に『わたしの黒い電話』北九州公演を終え、久留米公演を直前に控えた某日、飛ぶ劇場代表の泊篤志と、元飛ぶ劇場の劇団員でkitaya505代表の北村功治が、本作について語った。
作風が変わった?
泊 北九州公演観てどうだった?
北村 んー、作風が変わったと思った。
泊 おお! そう?
北村 これまでの作品と共通する「生き死に」みたいなの、生きている側と死んでいる側を描いているみたいな共通するところはあるんだろうけど。
泊 テーマ性みたいなの?
北村 そういった共通性、劇団のカラーみたいなのは一貫してあるとは思うけど。俳優さんの配置、使われ方みたいなのが今回はこれまでと違うじゃない。これまで主要な役割を担ってた劇団員たちが、よその客演で出てなかったりあまり出番がなかったりして。
泊 はいはいはい。
北村 アルモン(※1)も辞めて、配役のバランス変ったよね、みたいな。
泊 今回、中川裕可里とワッキー(脇内圭介)が中心だし。……若手と思ってたけどふたりとも2009年に入団したから、もう十年選手か。
北村 やっぱ、出演する劇団員の顔ぶれが変わると中身も変わるんじゃないかと。それが、いいにつけ悪いにつけ「劇団」だと思うのね。
泊 はいはい。
北村 これまでの泊作品って、僕からすると「物語を描く」みたいな印象が強かった。どの作品でもストーリー、物語はあるんだけど、今作は舞台上にちょいちょい謎みたいなのが置かれていく。それに観客が「ん?」って思いをめぐらせながら、やがて舞台上でそれらが解かれていく、一種の謎解きをする構造だったでしょ? そういった作品は初めてかなって感じて、「あ、新たな飛ぶ劇だ」って思った。
泊 ほう。
(※1)アルモン 有門正太郎。2018年に飛ぶ劇場を退団した。現在は、自身のユニット「有門正太郎プレゼンツ」を主宰している。 |
劇団じゃないと絶対無理なこと
北村 あと、座敷童子の女優さん。
泊 ははは。秋山実里。あいつおもしろかったやろ?
北村 彼女は新人さん?
泊 そうそう。2018年に入団した。彼女をどう使うかめっちゃ考えた。
北村 大学生?
泊 大学3年生。
北村 演劇経験は?
泊 ほとんど経験なし。
北村 へー。
泊 大学卒業したら東京でやりたいって言ってるから、じゃあこっちいる間に経験しないと、みたいな感じで劇団に入れて。
北村 あ! あと出演してないのに気になったのが、太田克宜くん!
泊 演劇よりバイトが重要で、出演しなかったカツキね。
北村 そんなカツキ作成の小道具。
泊 あれね。あんま作成していないけど。
北村 結局カツキは作ってないんだ?
泊 最初はとある小道具をカツキが作るってなってたの。それが、小道具がなかなか稽古場に来なくて。もうギリギリのタイミング、公演の1週間くらい前かな、作成途中でもいいから持ってきてって言って出てきた小道具を見て、その出来栄えにみんながざわついて。小道具は劇団が引き継ぐから、カツキはバイトを引き取ってくれってなった。
北村 ああいうのって劇団じゃないと絶対無理じゃない? 「やります!」つって「無理でした!」みたいなの。
泊 そうね。
北村 そういうの、仕事なら絶対ありえないけど、劇団だからOKみたいな。
泊 いや、OKじゃないよ!
北村 OKじゃないの?
泊 でも仕方ないじゃん。劇団だもの。
北村 そう! もうそういうのが好きでね。仕方ないのもなんだかんだで楽しんでるっていう感じが。
泊 いやいやいや、仕方ないだけだから(笑)。
これで物語が終われる!
北村 小道具といえば、劇中の、北九州公演観てないひとにはネタバレになるから詳しく言わないけど、ある小道具の扱い方、存在が印象的だった。
泊 ほう。
北村 設定がクリスマス時期ってことで、当たり前のように出てくる小道具があるんだけど、その、小道具を買ってくるじゃない。……北九州公演観てないひとでももう大体わかると思うけど。
泊 そうだね。
北村 どこそこで幾らだったとか、あそこはさらに安かったとか。12月25日あたりのあるあるみたいな台詞があって。
泊 そうそう。
北村 あれがさ、お芝居の最後に印象的な使われ方をして。ああいうのは、泊さんが歳を取ったから書けたのかなって思った。
泊 あれね。書き始めはネタでしかなかったのよ。
北村 へー! 計算してると思ってた!
泊 終盤のストーリーはプロットとかなくて。結末は自分でも想像していなかったのね。あのラストなんて微塵も考えていなかった。気がついたらさ、「あの小道具が残っている!」って、宝物見つけた気分だった。
北村 ほー!
泊 「これで物語が終われる!」って。
北村 へー!
泊 上手く回収してるけど、後半は本当にプラン無しで書き進めたのよ。
政治の話は前から書きたいって思ってた
北村 次回作って考えてるの?
泊 考えてるよ(と、バックをゴソゴソして紙切れを出す)。
北村 お……。これまた、これまでにない作品じゃない?
泊 んー、ちょっとまだわかんないけど。政治の話は前から書きたいって思ってんで。ただ、今の日本をそのまま反映すると右だ左だって話になるので。そうじゃない、大きな話、テーマみたいなことを扱う……かな。
北村 具体的には?
泊 んー……徴兵制は重いしなあ……。架空の話を据えて書きたいとは思っている。
北村 ほーー!!
泊 来年度は消費税は10%になるかどうかってタイミングだったり。
北村 そうだね。消費税に関しては、僕たちが生きてる間に一体どこまで上がっていくかみたいなことでしょ?
泊 そうそう。
北村 日本は人口減っていくけどどうしましょうか? ってのがこれからだもんね。
泊 人口は減るからね。この事実はねえ……。
北村 ねえ……。
泊 「東京オリンピックのあとはどうするんだろ?」みたいなのはあるね。
北村 東京オリンピックまでは……ってのが各方面で書かれてる絵、施策みたいね。
泊 ね。そこから先がどうなっていくかの方が気になるよね。
別件の打ち合わせも兼ねて、小倉駅前の居酒屋で行われた泊×北村の対談。私、北村は飛ぶ劇場を辞めて15年くらいになるのだが、泊氏とは、ちょいちょい打ち合わせと称しては安酒をあおっている。新作『わたしの黒い電話』について「作風が変わった」と一言で済ませたが、私が知らない15年という年月の間にも劇団の姿は徐々に変化しており、今の飛ぶ劇場からしたら自然な姿で紡いだ作品が、結果的にこれまでとは変わって見えたのかもしれない。
ラストシーンの主人公の姿が、本作を凝縮していると感じ、同時に共感を覚えた。そのシーンに、出会いや別れ、自分の身の回りの家族、老いみたいなものを意識したんだと思う。20代の劇団、作家、演出家、俳優の瑞々しい弾けんばかりの勢いに、魅力や羨ましさ、時には妬ましさを感じることもある。しかし、40歳を過ぎると、それらに「身近さ」や「共感」を覚えることは少なくなった。かつて所属した劇団を客席から見て、共感を覚えてしまうというのがなんだか恥ずかしくも感慨深い。一緒にやっていた方々は歳を重ねたし、新たに入った方々が中心メンバーになっているなんてねえ……。
最後には飛ぶ劇場の次回作の構想が飛び出した。mola!のスクープですよ。政治ってなんだかよくわからなくて、重くて、タブー視されてる感じもするが、泊氏とは世間話のように気軽に政治について話す。「どっちのイデオロギーだ!」みたいな話でなく、「人口減るってことは……我々今後どうなるんだろ?」みたいなのを想像するくらいではあるが。演劇の話に限らず、ある物事に対して「ただ想いを馳せる」というのは必須な時間だと思う。「今ここでシロクロつけようぜ!」ではなく世間話程度。舞台芸術だって、正解の提示っていうより、それぞれが思う正解探しの冒険の繰り返しみたいな感じがするもんな。
飛ぶ劇場を辞めた身だが、改めて「劇団」っていいなあと感じた。と同時に面倒くささも感じた対談となった。完全なるプロの集団でもなく、だからと言ってアマチュアでもなく、長年九州を代表する劇団として活動している飛ぶ劇場。2017年には、創立30年周年を記念して代表作『生態系カズクン』(※2)を上演。ひと区切りを終えた31年目は、これまでと少しばかりテイストが違う作品となった。テイストは違っても、「これぞ劇団!」「これぞ飛ぶ劇!」という内容に変わりはなかった。ユニット単位やプロデュース形式の公演が増えてきたが、「劇団」だから醸し出せる泥臭さに、ある種の魅力を感じる。飛ぶ劇場の最新作『わたしの黒い電話』で、劇団ならではのよさを堪能してもらいたい。
(※2)『生態系カズクン』 飛ぶ劇場で1997年に初演。その後、2003年まで数回の再演を重ねた。2017年の劇団創立30周年で14年ぶりに上演された。第3回劇作家協会新人戯曲賞受賞作。 |
出演は、内山ナオミ、木村健二、葉山太司、中川裕可里、脇内圭介、文目卓弥、角友里絵、佐藤恵美香、秋山実里、山口大器(劇団言魂)。
チケットは、一般前売2,800円(当日3,000円)、学生1,800円(当日2,000円)、高校生以下1,000円(当日1,200円)。ローソンチケット(Lコード:83458)、チケットぴあ(Pコード:489-555)、CoRichチケット!、久留米シティプラザ2階総合受付での取り扱い。
お問い合わせは飛ぶ劇場info@tobugeki.com、080-3901-5373まで。
飛ぶ劇場 vol.40『わたしの黒い電話』
作・演出:泊篤志
日時:2019年2月9日(土)18:00★
10日(日)14:00
★アフターイベントあり
会場:久留米シティプラザ Cボックス(久留米市六ツ門町8-1)
料金:一般2,800円(当日3,000円)
学生1,800円(当日2,000円)
高校生以下1,000円(当日1,200円)
【関連サイト】
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飛ぶ劇場情報局
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