下衆會、全然ゲスじゃなかった
去る2月14日(土)、福岡市博多区の冷泉荘で上演された、綜合藝能座家下衆會(福岡市)の第3.5回公演『皆さん案外ご存じないようでちょっとヘコんでます。でも、下衆會の代表、私なんです。ゆうさんでも、真穂さんでも、ましてや野良さんでもないんです。え?nico?さくらさん?いやいやいやいや(笑)え?伊熊先輩?!ちょっと勘弁してくださいよ~ぉ(笑)そう、下衆會の将軍は、私なんです!分かってます。代表らしくない事なんて・・・。でも・・・でも、皆さん、今日はこれだけでも覚えて帰って下さい。江口真歩、私、下衆會の代表なんです。』を観に行った。
それはmola!を立ち上げようと準備中だった1月の半ば。公演予定のあるいろんな劇団に、手当たり次第にインタビューしたいという旨のメールを送り続けるも、なしのつぶてだった毎日。無理もない。公演前の忙しい時期に、なんだかわからない会社の、なんだかわからないサイトの、なんだかわからないインタビューなんかに答えている暇などあるわけがない。稽古の合間にバイト、バイトの合間にデート、デートの合間に稽古のローテーションの毎日に、mola!のインタビューなど入り込む余地はない(※1)のだ。
でも、でもさ、ちょっとくらい返信くれてもいいじゃん? インタビューに答えてる暇がなかったら、「今ちょっと忙しいからあとでね」くらいの返信くれてもいいじゃん? 稽古とバイトのその隙に、バイトとデートのその隙に、メールの返信、くれてもいいじゃん? まだ立ち上がってもいないmola!だが、本当にやっていけるのか。未来が見えない。お先真っ暗。そんな時、唯一メールが返って来たのが下衆會からであった。
うわ! 返事来た!
単純に嬉しかった。今まで何度も告白しては振られ続け、もうレンアイなんてやめちゃおうかな……って思ってたところに壁ドン! 「オレと付き合わない?」の逆告白! くらいには嬉しかった(※2)。しかも返って来たメールは非常に丁寧で、綜合藝能座家下衆會という、やたら画数の多いコワそうな劇団からの返事とは思えないほどだった。ありがとうありがとう。これでやっと記事が書ける!
そして数日後。
郵便受けに茶封筒が届いていた。宛名には「kitaya505北村加奈子様」とある。kitayaの社員ではあるものの、mola!を立ち上げる前までは、幽霊社員と言ってもいいほどの存在の私である。いったい誰から?
送り主を見ると下衆會だった。中に入ってたのはなんとご招待券!
うそ! うそうそ! マジ? うそ! うそ! ご招待券なんて生まれて初めてもらった(※3)よ! 下衆會、なんていい人たち。なんだかわからない会社の、なんだかわからないサイトの、なんだかわからない一編集者にご招待券! ありがとう下衆會! なんだよー、下衆會、全然ゲスじゃないじゃん! 人生初の招待券に舞い上がってしまい、2月14日のバレンタインデーに夫を放って(※4)観に行くことにした。
そして観劇当日。
会場は川端商店街近くの冷泉荘というリノベーションミュージアム。最近はやりのリノベーション。うわぁ、しゃれとんしゃあ。福岡の劇団って、こんなトコで公演するっちゃねー。看板を見てみるとマッサージ屋、ヨガのスタジオ、食堂やベーグル屋が入っていたりする。その中のレンタルスペースが今回の会場となっていた。
会場に入るといきなり「チロルチョコ差し上げてます」と言われる。ああそうか、今日はバレンタインデー。しかも普通のチロルチョコではなく、パッケージには可愛い女の子が描かれているDECOチョコだった。うーん、憎いねこの心遣い。
客席数は50席ほどで2ヶ所に分かれている。作品はコント? 漫才? そんな感じの小作品が7つ。テンポのいいセリフ回しが心地いい。かと思えば、『おとなりさん』という作品では、たっぷりと間を取った芝居となっていた。テンポの緩急の使い分けが巧い。インタビューで見どころとして紹介されていた『バレンタイン(男子個人メドレー)』は、モテない男子2名の切ないバレンタインデーの1日を、実況と解説が追っていくというスタイルで画期的。モテない男子の精一杯が切な過ぎて泣けてくる。
会場の都合で暗転が出来ず、照明の明暗はあるものの、いつも何かが見えている状態。でもそれが却って集中を途切れさせなくてよかった。空間を上手く利用して、コントだからこそ見やすい空間を作っていた。
家に帰り、改めて下衆會からのメールを見てみると、そこには「清く正しく下衆らしく!下品と下衆は違います!どんなお仕事・ご依頼も、迅速かつ丁寧に」というキャッチコピーが書かれてたのに気付く。「迅速かつ丁寧に」! インタビューの返信がすぐに届いたのも頷ける。大きな声で言おう。下衆會、全然ゲスじゃない!
下衆會の今後の予定としては、5月と10月に甘棠館show劇場での公演が決定している。次回もぜひmola!させて頂きたい。
取材・執筆:北村加奈子(kitaya505)
(※1)mola!のインタビューなど入り込む余地はない:主観。我々の被害妄想。
(※2)「オレと付き合わない?」の逆告白! くらいには嬉しかった:主婦の想像。
(※3)ご招待券なんて生まれて初めてもらった:もうひとりの北村にはあちこちからたくさんのご招待券が届くのだが、「北村加奈子」宛てにご招待券が届いたのは初めて。ありがとうございました。
(※4)夫を放って:夫はこの日、「30″portrait」という作品の制作をしていた。