「オ+パ=ポ」!?ゴジゲン『ポポリンピック』松居大悟インタビュー
ゴジゲン(東京)が第16回公演『ポポリンピック』(作・演出:松居大悟)を12月21日(土)~22日(日)、福岡市中央区天神のイムズホールで上演する。
選ばれなかったら、作るまでさ。
2020年、ここでオリンピック・パラリンピックが行われる。
プレイヤーとして生きていて、機会は今回しかないだろう。
だけど彼は出られない。
出る資格すらなかった。
多様性と調和。多様性と調和?
どこにも居場所なんてないならば―――
さあ、彼の物語を始めよう。
2017年『くれなずめ』、2018年『君が君で君で君を君を君を』を北九州で上演し、着実にファンを増やしてきたゴジゲン。新作『ポポリンピック』は、オリンピック・パラリンピックに選ばれなかった側を描くという。劇団主宰で作・演出を務める松居大悟の会見の様子をお届けする。
「オ」と「パ」を混ぜるとちょうど「ポ」になるとひらめいた
ゴジゲンは今年結成11年目なんですけれども、この4〜5年、東京だけじゃなくできるだけ各地に届けたいなと思って活動してきました。ここ2年は北九州や京都では公演をやっていたんですけど、僕の育ったこの福岡市でやるのが初めてで。今回の会場となるイムズホールって、僕は小・中・高とこの前を通って西鉄大牟田線に乗ったりバスに乗ったりしていたので、自分の人格を形成してくれたこの場所に、34歳になって劇を持ってこられるというのがすごくうれしいです。
タイトルが『ポポリンピック』とあるように、オリンピックにまつわる話をしようと思っています。今まで生きること・死ぬこととか愛することとかをテーマにしてきたんですけど、ちょうど来年オリンピック・パラリンピックが行われるということを、アスリートに限らず表現者全員がすごく気にしていて。「オリンピックが来年7月にあるからそこを避けて劇場を押さえよう」とか、逆に「7月に外国からもたくさん人が来るから、そこに向けて作品をつくろう」とか、演劇にかかわらずいろんなものがそこありきで動いている中で、僕らが年末から年始にかけてお芝居をやるっていうときに、「オリンピックを避ける方が変だな」と思って。むしろそこに立ち向かいたいなと。今年劇団員の男6人全員が30代になり、東京オリンピックに出るであろう選手に近い年齢になりました。次にもし東京にオリンピックが来るときには、さすがにもう選手の年齢ではないだろうと思ったときに、「プレイヤーの話をするのであれば今年のタイミングしかないだろうなあ」と考え、僕たちなりのオリンピック・パラリンピックをやってみようと思いました。で、じゃあ選ばれなかったひとたちの物語をしたいなあと思って。オリンピック・パラリンピックってカタカナの「オ」と「パ」を混ぜるとちょうど「ポ」になるとひらめいて、「これだな」と思って。それで『ポポリンピック』というタイトルをつけました。
オリンピックって基本的にはみんな金メダルを目指して争っていて、まずそのオリンピックに出られる/出られないという、そこに選ばれるという縦軸があって、そもそも公式種目が33種目しかないから、それ以外の種目で金メダルくらいの実力を持っている人たちってどういう気持ちでオリンピックを見るんだろうという、そこにまつわる劇をつくろうと思ってます。
今回の東京オリンピックでは追加種目がギリギリで5種目決まったんですけど、8種目エントリーされた中の3種目が落選した。そこに興味が湧いて。選考理由が「若者に受けるかどうか」と、「画として映えるかどうか」。スポーツそのものというよりも、オリンピックをショウビジネスとして考えたときに「よいもの」として選ばれている。でもボウリングプレイヤーの気持ちなんかを思うと、切なくて、グッときたんですね。8種目の中に選ばれたときには、もしかしたらこれからどんどんみんなに応援してもらえるんじゃないかと思って張り切るけど、でも落ちてしまう。スポーツをがんばる/がんばらないじゃないところで判断されてしまっているというところにグッと来たんです。僕自身も劇場だったり各地のひとに呼んでいただかないといけない、選んでいただかないといけないっていう立場のときに、動員よりも、作品や表現の質というところで判断されることがあるんですけど、それって選ぶ人の好みだったりする。「選ばれる/選ばれない」って曖昧だけどすごく残酷で、でも人間だからこそこういうことが行われるんだろうなと思ったときに、そこに翻弄されるアスリートや周りの人たちの物語ができたらなと思いました。
今回はキャラクターの魅力で勝負したい
ー落ちた種目の話になるんでしょうか?
そうですね。純粋でピュアで真っ直ぐなんですけど、周りの大人たちの魂胆なんかが結構あって、悪に仕立てられていく……ような話になる気がするんですよね。チラシの裏にいるスーツの男たちに「そうしろ」という指示をされてやらされていく、という構図にしたいなと。せっかくだから走ったり登ったり投げたりしようと思ってます。最近そういう劇団が少なくなってきている気がするので。ちょうどゴジゲンくらいが身体動かした方がいいんじゃないかと(笑)。
ー松居さんや他の劇団メンバーはスポーツの経験はあるんですか?
……まあできないですね(笑)。みんなスポーツができないから演劇をやっているので。本折最強さとしという最年長のメンバーは、早稲田のスポーツ科学部出身で相撲部だったので、彼がいちばん動けるのかなあと思いますけど、僕とかほんとに、ボルダリングを1回やっただけで1週間くらい腕が動かなくなりましたし……。
ー今回ひさしぶりに正式に客演の方を呼ばれていますが、客演の木村圭介さんについて教えてください。
奥村徹也というメンバーがいるんですけど、彼が主宰の「劇団献身」のメンバーです。最年少の奥村よりも2つ下の28歳で、「後輩の後輩」という感じです。上の世代の人を呼ぶとみんな萎縮するので、下の世代を呼びました。
ー年々進化を続けているゴジゲンですが、今回どんなことに挑戦したいと思っていますか?
海外の映画ではプロットドリヴンタイプとキャラクタードリヴンタイプがあるという話に最近興味があって。話の構成でいかに見せていくかっていうのと、キャラクターの魅力でいかに見せていくかってことなんですけど。『ジョーカー』もそうだし、デヴィッド・フィンチャー(※1)とかもそうなのかな。ゴジゲンはいままで出来事や構成の中で、男たちが翻弄されていくっていう話の組み立て方をしてたんですけど、今回はキャラクターの魅力だけで押していく話にしようと思って。チラシの表にいる目次立樹が今回主役で、目次は劇団の旗揚げからいるメンバーなんですけど、彼を主役に置くという時点で結構自分の中では勝負というか、絶対勝たなきゃいけないと思っていて。ここで微妙だったらゴジゲンももうダメだなというくらいの覚悟があるので、目次を主役に置いてます。目次が演じるオリンピックに選定されもしなかった、気づかれもしなかったプロのプレイヤーが、どういう葛藤の元に動くのかという、キャラクターの魅力だけで物語を進めるというのを勝負したいなと思っています。
(※1)デヴィッド・フィンチャー 映画監督。『セブン』、『ファイト・クラブ』などを手がけて一躍有名になり、『ベンジャミン・バトン 数奇な人生』、『ソーシャル・ネットワーク』ではアカデミー監督賞にノミネートされた。『セブン』、『ファイト・クラブ』、『ベンジャミン・バトン 数奇な人生』の3作品でブラッド・ピットを主演に起用。 |
ー『ジョーカー』の影響が強い、という感じでしょうか。
いや、僕がやろうと思ったら先に『ジョーカー』にやられてしまったという感じです! 顔塗ろうと思ったら、顔も塗られちゃったし(笑)。
ー今回ツアーの初日が福岡というのが意外でしたが、どういった理由があるのでしょうか。
ツアーは回れば回るほど整えられて見やすくなる、という部分はあると思うんですけど、今回福岡で最初に披露する瞬間って、歪ではあるけれど描きたかったことが純粋に研ぎ澄まされる瞬間だと思うので、僕が育ってきた福岡で、まず純粋な丸腰の姿を見せたいというのがいちばんにあります。あとは、劇場の大きさ的にイムズホールは他の劇場の何倍も大きいので、イムズサイズで上演したのちに濃縮したほうがいいだろうという、ふたつの理由からですね。福岡でやれるって決まったときにはうれしかったです。
学校の通学時間に育まれたもの
ー福岡のこういったところが自分の素養を育んできたな、というのは何かありますか?
僕は小学校もバスで1時間以上かけて通って、中・高も久留米に、バスと電車で1時間半くらいかけて通ってて、移動中に考える時間がすごく多かったんですよ。本を読んだり、物思いにふけることがすごく多くて。そのときに考えていたことが表現につながってると思う部分があって。あとは、こっちで上演されるお芝居だったり映画だったりとかを、母親に連れられていっしょに見ていくなかで、テレビではやれないこんなにおもしろい表現があるんだってことを感じて、東京に行って表現をやるってなったときに演劇だったり映画だったりをやり始めて。そのなかでやっぱり地元福岡というのが自分の中で大きいので、福岡で撮影しようとか北九州で舞台をやろうとかにつながって。初期衝動はやっぱりあの移動時間に形成されたっていう気がするんですよね。大牟田線の景色とか、西鉄バスのなかで読んでた本だったり、それで目が悪くなったりとか……。
まずひとりで乗ってて、だんだん友達が乗ってきて話をしながら学校まで行って。学校から帰るときもひとりふたりと降りていって、だんだんひとりになっていく、っていうのが、僕の中では両方すごく心地よかったんですね。そういう……あったかさなのかな、なんだろう。そういうのがあるから、いま自分はひとりで表現するんじゃなくて誰かとものをつくるっていうのがいいんだろうなと。学校の行き帰りと一緒なんですよね。プロデューサーと話して、役者が増えていって、スタッフがついていって、で、劇場に入ってお客さんとつくり上げるみたいなのが。そういうのがすごく好きで。
ー以前どこかのインタビューで、「出演者として演出家に選ばれるかどうかやきもきするくらいなら、自分で作っちゃえ」と思って劇団を立ち上げた、というのを読んだのですが、松居さんは「選ばれる/選ばれない」ということについて、なにか思いのようなものがあったりしますか?
「選ばれる/選ばれない」というのがすごく苦手で。自分の肌感覚的には「選ばれてこなかった人生」と思ってるんです。やりたいことがうまくいかなくて、じゃあどうしたらいいんだろうってなったときに、「なんで誰かの基準で自分の人生が左右されなきゃいけないんだろう」と思って。まさにゴジゲンをつくったときもそうで、役者がやりたいなら自分で劇団作って出ればいいと思って。もしかしたら今回の目次くんが演じる主役の子は、僕がゴジゲンを作ったときの感覚にすごく似ているかもしれないですね。「なんでオリンピックに選ばれる/選ばれないで翻弄されなきゃいけないんだ、じゃあポポリンピックを作っちゃえ」みたいな。……なるほど。おもしろいですね(笑)。基本的に僕はずっとそれをやってきたので。ちょっとそれ考えながら作ってみます。
ー地方で積極的に公演をしたいと思うのはなぜですか?
できるだけ本番をやりたいというのがあるんです。作品は稽古だけで完結するわけではなくて、本番を重ねていって育つものだと思うので。上演を東京だけに限定すると、観られるひとも限られるし、観られ方も限られてしまうなと思って。福岡でやると全然違う反応になったり、作品自体も全然違うものになったりする。作品がその場で育っていくし、次の作品も変わっていく。作るときに「福岡にいる兄貴の嫁さんに喜んでもらえるものをつくろう」とか思ったりするんですよ。そういうひとたちが「待ってたよ」って言ってくれるのがうれしいなと。そういうひとたちのために作っているところもありますね。その反面、色んな所でやればやるほど、舞台装置を運ぶのが大変で……という葛藤もあるんですけど。
ーゴジゲンならではの強みってなんだと思いますか?
劇団員全員が東京出身ではなくて、僕が福岡だったり北海道、石垣、富山、岐阜、島根の男たちとやっている、というところと……あとは、ゴジゲンをやっていくうえでの僕の中のテーマとして、「この世にまだ言語化されていない感情が絶対にある」と思っていて。うれしいとか悲しいとか寂しいとかじゃなくて、「うれしくて寂しくて、でも優しくて愛しい」みたいな、いろんなものがないまぜになった中学生くらいの頃の感情みたいなものを体験できるし、そこに連れて行ける作品をつくりたいなと思っていて。なので、観に来た人の分だけ、その人たちだけの感情がある。劇団の中でも、上手になるのを避けようとしていますね。ラクしないように、曖昧につくろうとしていて、それをゴジゲンの魅力にしたいですね。
ー去年の10周年を経て、考え方や見え方で変わったことなどはありますか?
ゴジゲン周りは自立してきたような感じがあって。いまって普段みんな会わないし、それぞれがドラマの脚本を書いたり外の舞台に出たりして、表現者としての立ち位置を見つけている。それぞれに個性が出てきたなという意味ではいい流れになってて。じゃあ「劇団としてのゴジゲン」をどうしていこうか? っていうのは、改まって力んだりすることはなくて、僕個人は物語を書く上での冒険をしてますけど、劇団としては緩やかに進んでいってますね。プロデューサーと規模について話はしますけど、気負ったりはないですね。そういう意味では、10年目と今年とで劇団のスタンスは変わってないです。
ー今回総ステージ数がとても増えていて、それに、福岡はイムズホールというこれまでのキャパより大きめの会場っていうのもあって、「挑戦するぞ!」という感じなのかなと思ってました。
イムズ以外の劇場はちっちゃくしたんですよ。「1回ちっちゃくしてみたらどうなるんだろうな」というのがあって。東京の会場であるこまばアゴラ劇場って、実は10年前に1回やっただけで。今回は狭いところで長くやるっていうことのよさがあるんじゃないかと思って。
ー最後に一言お願いします。
北九州在住で『くれなずめ』『君が君で君で君を君を君を』を観てくださった方が、今年イムズに来てくれるのかな、というのが気になってます。2年間やってきたことがなかったことにはなりたくないなと。昨日ガラパのメンバーとも話したんですけど、福岡の演劇界隈を、僕らも盛り上げたいと思ってるんです。福岡で、イムズで、なんかおもしろいことやってるよって思ってもらいたい。なので、ぜひ観に来ていただきたいです。いっしょに盛り上げましょう!
出演は、目次立樹、奥村徹也、東迎昂史郎、松居大悟、本折最強さとし、善雄善雄、木村圭介(劇団献身)。
チケットは、前売3,500円(当日3,800円)、学生割引2,500円(枚数限定・要学生証提示)。
お問い合わせはゴジゲンinfo@5-jigen.comまで。
ゴジゲン 第16回公演『ポポリンピック』
作・演出:松居大悟
日時:2019年12月21日(土)18:00★
22日(日)13:00
★アフタートーク実施
会場:イムズホール(福岡市中央区天神1-7-11 9F)
料金:前売3,500円(当日3,800円)
学生割引2,500円(枚数限定・要学生証提示)
【関連サイト】
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※情報は変わる場合がございます。正式な公演情報は公式サイトでご確認ください。