車の歌(第2回)

2021.02.12

 壁にはセキセイインコの爪を切る際の注意事項や、カメの冬眠に関するそれが掲示され、やはりファンシーなイラストが添えられていた。診察室のドアが開いて獣医らしきじいさんが現れ、「お待たせしました」とおばはんに言った。遅れてトイプードルが診察室から顔を出した。天ぷら油で素揚げにでもされたのか、包帯ぐるぐる巻きのミイラのようになっていた。「プーちゃん!」という悲鳴とともにおばはんが立ち上がった。
「なんで目ヤニの治療でこんなことになるんです!?」
「全身目ヤニだらけできったなかったんですよ」
「二度と来るかこんな病院!」
 おばはんはプーちゃんを抱え、出て行こうとした。イカつい看護師が和田の胸ぐらを掴んだまま「中村さん、治療費27300円。あとこれ目薬」とおばはんに言った。おばはんは看護師をキッとにらみ、三万円をカウンターに叩きつけ、目薬をひったくって「二度と来るか!」とご丁寧にもう一度言ってから出て行った。「お大事にね」とじいさんが言い、和田を見た。「で、そのカモ、まだ生きてんの?」
「あ、はい、なんか泡吹いて痙攣してますけど、生きてます」
「あ、そう。じゃあ、ちょっと診てみようか。神楽坂くん」とじいさんが言った。ぺたんとした白髪に丸メガネをかけた温厚そうなじいさんだったが、目が一切笑っていなかった。神楽坂と呼ばれた看護師は和田から手を離し「案内しろ」とぶっきらぼうに言った。押さえられていた喉が解放され、和田の肺は存分に酸素を取り込み、満足した。

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