車の歌(第4回)
パトカーから警官が降りて来、Fィットの窓をノックした。和田は仰向けのままスイッチを押した。が、ガス欠でパワーウィンドウは動作しなかった。仕方なく、ドアごと開けた。
「あなた、運転中にスマホ見てましたね」
「あ、はいスマホ好きなんで」
「あと、ここ、制限速度40キロですけど、あなた60キロ出てましたよ」
「ほんとは150キロでぶっちぎるつもりだったんです」
「通行の邪魔になるんで、もうちょっと端に移動してください」
「ガス欠で無理」
「よく見たらこの車、壊れまくってるじゃありませんか」
「諸行無常って知ってます? 形あるものいつか壊れるんです」
「ていうか、あなた酒臭いですよ。飲んでますね?」
「カモ南蛮のにおいじゃないですかね」
「さっきからそれ、人の話聞く態度ですか」
「どういう態度で聞いたらお気に召すんですか」
「せめて体起こしなさいよ」
「リクライニングが馬鹿になってるんですよ」
「あなただけ起きればいいでしょう」
「腹ペコで無理」
童顔の、明らかに和田より年下っぽい警官で、まっすぐな目でこっちを見下ろしていた。瞳がきらきらして星が飛んでいた。BL漫画だったら恋の芽生える瞬間だが、和田にそっちの気はなく、こんなやつに自分の人生が左右されるのかと思うと、すべてがどうでもよくなり、投げやりな受け答えをした。
「あなたね、そんな、非協力的な態度であれするなら、こっちも公務執行妨害とかとであれすることになりますよ」
「協力的にあれしたら見逃してくれるんですか?」
「見逃しませんよ。見逃すわけないでしょう」
「じゃあ非協力的にもなりますよ」
「あなたむちゃくちゃだな。違反したのあなたでしょ」
「違反しちゃうようなルール作る方が悪いでしょ!」と、和田がグローブボックスの下を蹴り上げると、突然、スピーカーから大音量で音楽が流れた。