車の歌(第4回)

2021.02.14

 車はあくまでも 快適に暮らす道具
 車に乗らないと いけない ワケではないぜ イエー

 流れたのはAikoではなくO田T生だった。その音量に和田と警官はびくっとした。オーディオのボタンを押してもつまみをひねっても反応がない。エンジンを入り切りしたが、そもそもガス欠なので意味がなかった。どうなっているのかよくわからないが、とにかくT生が爆音で歌っていた。
「あなた、これ、音楽消しなさいよ!」と警官が怒鳴った。
「黒歴史みたいに消したくても消えないんですよ!」
「うまいこと言ってんじゃないよ! たいしてうまくもないし! 近所迷惑だよ!」
「じゃああなたなんとかしてみなさいよ!」
「ちょっとどいて!」
 和田を車から引きずり下ろし、童顔の警官が運転席でオーディオをカチャカチャいじった。やはりT生は止まらない。警官がオーディオに夢中になっていると、Fィットがゆっくりと前方に傾き始めた。サイドブレーキを引いていなかった。警官は気づいていないのか、相変わらずカチャカチャやっていた。Fィットは徐々に坂を下り始め、そのままT夫の歌声と共に暗闇に消えて行った。パトカーを運転していた方の警官が「止まりなさい」と追いかけたが、爆音で聞こえないだろうな、と和田は思った。

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