やよひ住宅(第2回)

2021.02.17

 出荷部に配属されて間もないある日、休憩中に子どもの頃に観ていた特撮ヒーローの話になった。自分は小学生の頃、仮面ライダーブラックが好きで毎週観ていたと話したら、矢部くんも倉田てつをがいい顔しててさぁとか言い始めて「かめーんらーいだーブラァックッッ」と歌までうたっていた。「夏目くん何年生まれ?」「五十四年です。」「ひつじ年だね。僕も一緒。」そう言ったのだ。なんなんだよ矢部くん。いや、もしかしたら干支が同じってことを言いたかったのかもしれない。だとしたら自分の勘違いだ。ひとまわりも上の矢部くんをずっと老けた同い年だと思っていた。
「じゃあやっぱ同い年だ・・・。」
「違いますよ。矢部さんと同じなんでしょ。」
「いや、だまされた。俺も二十九。」
 羽水さんはマフラーに顎を埋めて「どっちでもいいですよ。」と言った。本当にどっちでもよさそうだった。
「そうだねどっちでもいいですね。」
「・・・。」
「・・・。何してたんですか。」
「ちょっと。」
「そうですか。」
「せっかくだれもいなかったのに夏目さんがきたんです。」
「すいません。」
「いいですけどわたしの土地じゃないし買えないし買わないし。」
「すいません。」
「・・・なんでわかったんですか?わたしがいるの。」
「車とまってて、そこ」
「ああ。」
「いいですよね、あの車好きなんですよ。」
 羽水さんはほんの少しだけ笑ったように見えた。
「・・・ここに住んでた叔母が持ってたんです。婚約者の形見って言ってました。わたしも好きで。」
「・・・じゃ、これは叔母さんの車?」
 羽水さんはかぶりを振った。
「わたしが免許とった頃にはもう処分されてました。叔母さんも亡くなってたし。同じのを探したの。メンテナンスが大変って言われたけど、どうしても乗りたくて。」
「ふうん…。」
 羽水さんは花も葉っぱもない桜の木を見た。
 その下に止まっていた車を、俺も知ってる。

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