咀嚼伯爵(第1回)
咀嚼伯爵 池田美樹
【1】ひょうたん尻
「歯磨き粉って太るかな。」
「甘味料入ってるかんね。やばいよね。」
「まじで?じゃ何で磨けばいいんかな」
「塩じゃ?」
「それいいね。なんか絞れそうな気がするよね」
始まりは高校2年の終わり、2月のはじめ。
ジャージ姿で体育館に移動するとき、
同じ美術科の先輩に言われたひとことだった。
「もりみの尻、エロいなぁ!」
もりみとは私の呼び名。本名は森川みと。
尻がエロい?どういうこと?
折しも体育は創作ダンス。
体育館の壁にしつらえられた鏡があり、
振付を考えるふりをして後ろ姿を眺めてみた。
……お、エロい。
学年ごとに色の違うジャージ、うちの学年は緑色。
その緑のジャージが、ふたつの山にみっちりと食い込んでいた。
自分がこんなにむっちりした尻をしてるなんて知らなかった。
ならばあのジーンズもあのショートパンツも、
きっとみっちりむっちりを提示してたはずだ。
自分の身体で自分の知らない部分があるなんて考えたこともなかった。
周囲の女子を眺めて見る。
確かにむっちりした山もある。でも自分の「エロさ」とは何か違う。
…バランスだ。
166センチ・50キロ。
自分で言うのも何だが、ウエストと手足は、細い。
しかし骨盤が張っている。
ひょうたんのように尻だけがふくらんで見えるのだ。
自分よりずっと肉付きのいい友達でも、
こんなに尻は目立ってない。
同じくらい細いと思っていた友達の尻は、
小さくコリッと、まるごとのくるみのように緑ジャージの中に収まっていた。
ひょうたん尻。
小さい頃から「細い」「痩せてる」「蚊トンボ」と言われ続け、自分は細いのだと思いこんでいた。
しかし思春期、ふっくら乳房がふくらむと同時に、気づかぬうちに尻もむっちりしていたのだった。
痩せねば。
瞬間、思った。
あの、小さくコリッとしたくるみのような尻にせねば。