咀嚼伯爵(第3回)
2021.02.23
【16】ございますよ
「てか森川さんに質問してもいい?」
やばい。
スカスカだよ。何も話すことないよ。
「何考えてたの?」
え?
「風神雷神の顔してたとき。何考えてたの?」
えええええ。
…どこまで話す?
…てか、どう話す?
「食べることに…変な執着があって…」
とつとつと、自分が摂食をし過ぎてバランスを崩したことを、なるたけポップに、笑い話みたいに話した。
「で、時々めんどくさい暴君が現れて。」
「暴君?」
「時々ガリガリ噛みたい衝動が沸くんですけど、友達がそれにおもしろい名前つけてくれて。」
「それ、もっと詳しく聞いていい?」
先輩は腕を組んだり頬杖をついたりしながら、こちらにあまた質問をぶつけて来た。
おもしろいのか?こんな話。
「すげぇな。格闘技の話聞いてるみたいだ。」
まっすぐだ。
直球だ。
「おもしれぇなぁ。」
このひとは脳みそが筋肉で出来てるんだ、と思った。
じゃあ自分は?
言い訳と、悩むという名の怠け癖で出来てる自分の脳みそは、たるたるのオートミールで出来ているようなイメージが湧いた。
「噛みごたえのない脳みそじゃ。」
寝ぼけた伯爵が毒づいた。
「うるさいでございますよ。」
心の中で伯爵の部屋の扉をピシャリと閉めた。