咀嚼伯爵(最終回)
携帯電話を切らせるための男子二人組の「前説コント」が始まった。
観客に注意を促しながら、一方の男子の携帯が鳴る。
おいおい、よりによっておまえのが鳴るのかよ、的なお約束。
なんだこれ、と思ったけど客席は爆笑。
人気の出演者らしく、一部の女子たちの嬌声がうざい。
そして本編が始まった。
主人公はお姫さま。
お城の高い塔の中で、たくさんの家臣にかしづかれ、蝶よ花よと育っている。
家臣は皆、上半身裸。ムキムキのキン肉マン。
なんだこのお城。
おかわいい。
おいとおしい。
おいじらしい。
自分はかわいいと、いとしがられていると思いこんでいた姫は、実は人生で一度も鏡を見たことがなかった。
十六歳の誕生日、姫にささやく声がする。
「その塔より出で(いで)、新しき己を知るがよい。」
その謎のイケメンボイスにいざなわれ、
姫はそっと塔を抜け出し、城の中を探索する。
そして亡き母の部屋をみつけ……初めて自分の姿と対面する。
「これは誰?」
姫が尋ねた。
「それは誰?」
イケメンボイスが響いて来る。
「このふかふかした、」
「むっちりした、」
「みっちりした、」
「白いまんじゅうのような娘は…」
「………私??」
己の姿と対峙した姫は大ショック!
もう誰の言葉も信じられない、と自分で自分を変身させる誓いを立てる。
白いドレスを脱ぎ捨て、エアロビ姿で踊り続ける。
「姫さま、お食事を!」
「姫さま、果物を!」
「姫さま、スィーツを!」
「心配無用!そなた達の指図は受けぬ!」
毎日毎晩、亡き母の部屋の鏡に自分を写し、まだだまだだと責め続ける。
「それがなりたいおまえか。」
「え?」
「ガリガリと齧りたかろう。ゴクリと飲み込みたかろう。」
「誰?」
「分~裂ッ!」
その声と共に、馬の下半身をつけた、これまた上半身裸のイケメンが現れた。
前説でくだらないギャグをかましていた片割れだった。
彼が独特のポーズを決めると、客席の女子がきゃーっと湧いた。