咀嚼伯爵(最終回)
2021.02.24
【22】シャリンバイ
終演後、出演者が階段で来場者をお見送り。
ガヤガヤとごった返す中、先輩はひときわたくさんの人に囲まれていた。
進むに進めず仏頂面をしていると、人の頭越しに先輩と目が合った。
「裏で。」
え?
「裏の公園で待ってて。」
そう言って先輩は小さく手を挙げた。
「お客様通られまーす!」
開演前に会場を仕切っていた黒Tシャツの女子がまた愛想のない大声を張り上げた。
ビルの裏手は小さな公園になっていた。
遊具はなく、薄汚れたベンチがふたつと入るのがためらわれるようなトイレがひとつ。
硬そうな葉っぱに白い小さな花が咲いてる、腰くらいの植え込みに、「シャリンバイ」と木製の名札が下げてあった。
シャリンバイ。
なんかクリスピーな…サクサクしたパイのような。
シャリンバイ。
「うまそうであるな。」
伯爵が言った。気がした。さっきの俳優さんの声で。
「そうでございますな。」
へりくだって答えてみた。心で。