さよならオブラージャ(第4回)
2021.02.28
国道に出るタイミングで、春香が「ちょっと触って」と左手を差し出す。
「冷たすぎじゃない?」確かに冷たい。俺の左手を重ねる。
「あったかい」
「ナガイ一家がいたよ、覚えてる?ナガイくん」
「えぇ?気づかなかった」
「髪の毛寂しくなってるからね、昔は童顔で可愛かったのに」
「へぇ、ちょっと話したかったな」
「子どもふたり連れて来とらした、奥さんも」
「そうか」
「なんだかきまり悪いじゃない?私達の関係を変に探られるのもね」
「そうだよな」握っている彼女の手に、俺の熱が伝わっていく。
「ごはん食べたの?」
「まだ、ってかそんなに食欲湧かない」
「呑み過ぎたんでしょ」軽やかなやり取りと、車内に流れている懐かしい音楽と、彼女の戻りつつある手の温もりのおかげで、二日酔いで微睡んでいた俺の心もようやく初春を迎えようとしていた。