市原佐都子/Q『妖精の問題 デラックス』インタビュー

2022.06.21

「知る/みる/考える私たちの劇場シリーズ」vol.1 市原佐都子/Q『妖精の問題 デラックス』(作・演出:市原佐都子(Q))が7月2日(土)〜3日(日)、久留米市六ツ門町の久留米シティプラザ Cボックスで上演される。

市原佐都子/Q『妖精の問題 デラックス』(撮影:中谷利明)

市原佐都子/Q『妖精の問題 デラックス』(撮影:中谷利明)

一部「ブス」
作品世界でマイノリティとされる「ブス」の女学生二人。もうすぐ選挙が行われる。最近、存在感を増している「不自然撲滅党」屁当弁憤子の政見放送を二人は見る。

市原佐都子/Q『妖精の問題 デラックス』(撮影:中谷利明)

市原佐都子/Q『妖精の問題 デラックス』(撮影:中谷利明)

二部「ゴキブリ」
ラーメン屋の近くに住む貧困夫婦は、家に生息する「ゴキブリ」に悩まされている。ある日、夫は大量の害虫駆除剤を焚く。妻は妊娠しており、不意にその煙を吸ってしまい…。

市原佐都子/Q『妖精の問題 デラックス』(撮影:中谷利明)

市原佐都子/Q『妖精の問題 デラックス』(撮影:中谷利明)

三部「マングルト」
自分自身の体内常在菌を利用して作る食べ物「マングルト」。その創始者である小室淑子の意思を引き継いだ礼子による「マングルト」についてのセミナー。

久留米シティプラザが、独自の視点で時代を捉え、表現方法を模索し応答しようと試みる意欲的な演劇作品をセレクトする「知る/みる/考える私たちの劇場シリーズ」。その第1弾として選ばれたのが、市原佐都子/Q『妖精の問題 デラックス』。

劇作家・演出家・小説家として活躍する市原佐都子が2017年に創作した『妖精の問題』は、障害者施設での殺傷事件をきっかけに、生きづらさや偏見と向き合って生まれた。当初ひとり芝居として製作された本作は、その後、海外での上演やオンライン版の創作を経て、今回「デラックス版」として再創作。現代の日本社会で「見えないことにされているもの/しているもの」を、漫才・歌・セミナーによる3部構成で、バンド演奏とともに、ユーモラスかつ斬新に描き出す。今回の公演について、市原佐都子にオンラインインタビューを行った。

構成・執筆:藤本瑞樹

市原佐都子(C)Flavio Karrer

市原佐都子(C)Flavio Karrer

ー実は市原さんとは、市原さんが高校生のときにある公演でご一緒したことがあって、それから大学に入り、卒業研究として作品を手がけられ……というのをなんとなく知っていたのですが、まずは北九州を離れてから今までの流れを、簡単にお話しいただけますか?

はい。高校が東筑紫学園高校という演劇コースのある学校で、そこで当時飛ぶ劇場にいらっしゃった有門正太郎さんなど地元の演劇人の方々に教えていただいていました。その流れで北九州芸術劇場を知り、それから北九州芸術劇場のワークショップなどを受けるようになりました。
そこでいろんな方と出会って、当時劇場のプロデューサーだった能祖將夫さんや、リーディングセッションという企画の演出で来られていた演出家の鐘下辰男さんも桜美林大学で教えられているということだったので、桜美林大学に進学しました。
東京に行くと決めたとき、北九州芸術劇場の制作の方々にすごく心配されてしまって。「こっち側に引きずりこんでしまって大丈夫か……?」みたいな(笑)。
でも4年間楽しく演劇を勉強して、当時は俳優をやりたいと思ってずっと俳優をやってたんですけど、俳優をがんばりすぎて授業に出られなかったりして、卒業する間際に単位が危うい感じになってしまって。卒業研究で自分で演劇をつくれば8単位くらいもらえるというので、そこで初めて劇作と演出をしました。それが『虫虫Q』という作品で、それを『虫』という戯曲にしてAAF戯曲賞に応募したら受賞することができて、自信がついて、創作を続けていきたいなと思うようになりました。それから劇団Qというのを始めて、もう10年くらいになります。

ー『虫』が初めて書いた作品になるんですか?

そうですね。

ーその第1作目が評価された、というのが今につながっている、と。

そうですね。賞もありがたかったですが、なによりも初めての公演のとき、先ほども出た鐘下辰男さんや、もう亡くなられてしまいましたが文学座の坂口芳貞さんが、褒めてくださって、そこで作品を認めてもらえたことがあって、ここまで続けてこられました。感謝しています。

ーそれはそれとして俳優もやりたい、という方向にはいかなかったんですね。

その後もサンプル(※1)さんに誘ってもらって出演したりもしたんですけど、それはそれで面白いのですが、自分の創作を始めると、創る方にやりがいを感じるようになりました。

※1)サンプル
劇作家・演出家・俳優の松井周が主催する個人ユニット。市原は2013年の『シフト』に出演。

ー作品についてお伺いします。この『妖精の問題』は相模原の障害者施設での事件を発端として書かれたそうですが、この作品は「向き合いたくないもの、見ないようにしてきたもの」にちゃんと向き合うぞという気概のようなものを感じます。2017年に初演をされて以来、本作は5年という長期にわたって取り組まれている作品ですが、市原さんにとってこの作品はどういう存在になっていますか?

『妖精の問題』を創る前までに5年くらい活動していて、かなりハイペースで作品をつくっていたんです。1年間に2本くらいのペースで。そのとき創ったものはあまり再演していなくて、創っては消えていき、という繰り返しをしていて、それはそれで大切な期間だったとは思うんですが、5年くらい続けていると「これが何になるんだろう?」という感じはあったんですね。そこから、もっと再演したいとか、創って消えていくだけじゃない作品との向き合い方はないかなと思ったときに、この作品を創りました。
最初にひとり芝居にしたのも、再演がしやすいようにと思ってのことで、海外にも持っていきたいと考えていたので。そういう想いで創ったら、その通りの作品になることができてうれしかったです。私が上演しようとするだけでなく、この作品を自分たちでも上演したいと言ってくださる方もたくさんいらっしゃるので。自分にとってもコアとなる、大事な作品なのですが、そういうものが周りからも必要とされるということは、非常にうれしくて、毎回やることに喜びがあります。どういうふうに受け取ってもらえるんだろうっていうおそれもあるんですけど。怖くもあり、すごく意義も感じます。

ー今回の再創作は、ロームシアター京都さんからのご提案なんですか?

ロームシアター京都さんの「レパートリーの創造」という企画があり、そこで何か作品を創りませんかというご提案をいただいたときに、まずは完全な新作ではなくて、最初のステップとして過去の作品のリクリエーションでもいいですと言っていただいて、じゃあ『妖精の問題』がいいですと言いました。

ー「普段生活しているなかで、自分が世界をどう捉えているのか」を作品にする、というのはあると思うんですが、特に時間を置いての再演なんかだと、「作品から世界を見直す」というベクトルもあると思います。『妖精の問題』を通して、市原さんは5年前から現在に至るまで、世の中の捉え方にどういった変化がありましたか?

再演のたびにいろんなことを思うのですが、自分自身が5年前とは違っていて、あの時に感じていた切実さというものが少し吹っ切れましたね。当時はもっとお金がなくて、もっとひとりだと思っていたんですけど、少し大人になるにつれて、そういうことへの折り合いがついていきました。自分が大人になることで他人との関わり方が変わって、若いときに感じていた世界の狭さだとか、世界が狭いからこそのつらさだとかがちょっとずつ解消されてしまっている、というのを、自分の過去の作品から感じます。
『妖精の問題』はコロナ前に書いた作品ですが、コロナ後の世界でここで書いていた問題がより痛々しく刺さるところもありますね。コロナ禍になってから、「どんな命を生かすか?」というのをたくさん考えざるを得なくなって。演出している状況で言っても、オンラインで作ったりとか、今まで当たり前にしていたことが当たり前じゃないということをすごく感じます。
関わってくれるひとがたくさん増えて、そういうひとたちが、『妖精の問題』をこういうふうに思った、ということを伝えてくれて、作品がどんどん自分の手から離れて他人のものになっていくという体験がすごくおもしろいです。

ー5年前は「社会から排除されてきたもの」「見ないことにされてきたもの」に目を向けようという、パーソナルというと語弊があるかもしれませんが、そういった市原さんの個の視点からスタートしたものが、この5年間で、普遍的な強さを持った作品であると気づいた、という感じでしょうか?

それはあるかもしれません。相模原の事件が起きたときに、自分の問題として、自分の見たくない部分をもっと掘り下げないといけないという感じがしたんですね。それをやった上で、どうしたらもっと他人を認められるかな、肯定できるかなと考えていて。それが自分個人の問題から社会につながっていったということを、やればやるほど意識していきますね。

ー上演を生で観たわけではないので、資料などを通しての印象ですけど、劇場に観に行ったら、観客を肯定してくれるような作品なんじゃないかなと感じました。観客を一旦「排除されるもの」側に配置するけど、それでもあなたたちを肯定しますよという作品なんじゃないかなあと。そんな本作が、福岡での初の公演となるわけですが、どんな心境ですか?

楽しみです。自分が若かったころを知っているひとがいる土地じゃないですか(笑)。なんか恥ずかしいですよね。5年前だったらこの恥ずかしさにもっと耐えられなかったと思うんです。ちょっと「(福岡には)行きたくない行きたくない」みたいな感じだったんですけど、今はもう、もっと落ち着いて話せるし、5年前に比べると「こういうものを作ってるよ」とちゃんと言えるようになったし、そうなってから福岡に行けるのが本当にうれしいです。

ー「凱旋!」みたいな気持ちかなと思ったんですけど、ちょっとニュアンスが違いましたね。「恥ずかしいけど会いに来れるようになりました」みたいな感じなんですね。では今回の作品の見どころを教えてください。

舞台美術がdot architectsさんという建築家のコレクティブにお願いしていて、「いるだけで楽しい空間」になっています。音楽も、いま話題のヌトミックという劇団と、東京塩麹というバンドもやられている額田大志さんという方にお願いしています。衣装は、こちらもいま話題のお寿司という劇団の南野詩恵さんにお願いしていますが、どちらも楽しめる素晴らしいものです。俳優たちも面白いメンバーで、漫才・歌・セミナーと様々な表現方法を用いていて、それぞれの演技も見ごたえがあるはずです。
作品のメッセージとしては、見たくないものだったり普段考えないようにしていることだったりに向き合わせてしまうかもしれませんが、形式や見た目に関してはある意味では受け取りやすいんじゃないかと思います。おもしろく観られる要素はたくさんあると思いますので、怖がらずに(笑)来ていただければいいなと思います。

ー最後に何かあれば、一言お願いします。

ぜひ観にいらしてください!


出演は、[第一部]朝倉千恵子、筒井茄奈子、[第二部]大石英史、キキ花香、[第三部]廣川真菜美、富名腰拓哉、緑ファンタ。

チケットは、一般3,500円、U25(25歳以下)2,000円。久留米シティプラザ2階総合受付(10:00~19:00/全館保守点検による休館あり)、インターネット予約での取り扱い。

お問い合わせは久留米シテイプラザ0942-36-3000まで。


「知る/みる/考える私たちの劇場シリーズ」vol.1
市原佐都子/Q『妖精の問題 デラックス』

作・演出:市原佐都子(Q)
日時:2022年7月2日(土)17:30
         3日(日)13:30
会場:久留米シティプラザ Cボックス(久留米市六ツ門町8-1)
料金:一般3,500円
   U25(25歳以下)2,000円
上演時間:130分(予定)

【関連サイト】
久留米シティプラザ『妖精の問題 デラックス』公演詳細ページ
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※内容は変わる場合がございます。正式な情報は公式サイトでご確認ください。

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