さよならオブラージャ(最終回)
2021.02.28
左折してコンビニの駐車場に入ると、ユウキは店外の灰皿のところに居た。彼の真正面にゆっくり進みながら、視線は店内の、たまに顔を見る同級生の家族を捉えていた。
見つかるわけにはいかない。咄嗟にニットキャップを目深に引き降ろした。
変な噂になるのはまっぴらごめんだ。
私の知らないところで、同級生に不倫現場の目撃情報を酒の肴にされたりなんて、想像するだけで気分が悪い。とにかく、ユウキを一刻も早く載せて出発しよう。あの、幸せそうな一家がこちらに気づく前に。
程なくして着いた神社でお参りをする。家族の(つまり母と夫の)健康を祈る。私の分もその後に付け足して祈る。ついでに隣の男(と、彼のその、私はお会いしたこと無い彼の家族)の健康も祈願してあげましょう。
校舎裏の伝説の木の下で、ユウキにクリスマス前に告白されて、その場で私はうなずいて返事をした。
その年は明けるとすぐに受験だったから、本当は一緒にこうしてお参りしたかった。
お互い、相手のために合格祈願の御守を買って贈り合った。
あの頃私達はまっさらな新車だった。夢というエンジンを載せて、猛烈に走り出さんと息巻いていた。今では自分の載せているエンジンの馬力も車幅も、把握できている。御札を買ってくる、と探しに行ったユウキを砂利敷きの駐車場の車内で待っている間、現在の私を乗せているこの愛車が本当に自分の分身であるかのように思えて、愛おしさが膨らみ上がっていた。ハンドルを撫でる。